第3話

ヤンは生まれも育ちも武漢だ。先祖代々から住みついている。

武漢は、中心部は高層ビルが建ち並び、各国から多くの企業が進出している。しかし、市街地を抜け、山の多い地帯に行くと、昔から続いている貧相な生活の山村が多くある。


そういう貧しい山村地帯と近代的な市街地との境目は、不思議な雰囲気を醸し出している。

違和感という言葉が最適な様子だ。時代も人間も、古代と近代とが入り混じっている。


特にそれが目立つのが、市街地の市民の食料を売る市場だ。

武漢市内に住む人々の中にも、最近は、山村地帯から出稼ぎに行き、そのまま住みついている人も多くなっている。

市場に並べられる食料は、古代の人間と近代の人間が食べるものが、ごちゃまぜになって並べられている。


ヤンは山村から出てきて、市場で仕事をしている。市場の崩れかけそうな倉庫の一部分に日用品をおいて住み着いている。


市場に買い物に来る客のほとんどは近代的な市民だ。少数だが、山村から買い出しにくる者もいれば、近代的な生活に慣れきれていない山村出身の市民もいる。

それらの人々に対応できるように、様々な食材が売られている。もちろん、売っている物も売っている人間も、山村からきたものだ。


ヤンは、近代的な連中が気に食わない。彼らのおかげで、山村出身の自分たちが貧しいということを自覚させられたと恨んでいる。

だから、商売は商売としてやりながらも、近代市民の連中が嫌がることを時々やってみせる。

それが、コウモリ食いだ。


コウモリはヤンの祖父の時代は、誰でも当たり前に食べている。

それが、食料が豊かになるに連れて、コウモリの生態に対する偏見から、食べるのは異様な人間だと思われるようになってきている。


ヤンは店先には、野菜を中心に並べているが、その隅に、生きたコウモリをカゴに入れて売り出している。


目の前の行き交う市民を見ていて、怒りが込み上げてくると、かごからバタバタと暴れるコウモリを取り出す。

それを手際よく小刀でさばき、内臓は捨てる。塩を少しふりかけてから炭火で焼く。適当に焼けて香ばしいにおいがし始めると、取り上げて、パリパリと美味しそうに食べる。

実際、おいしいものだ。


通りすがりの者が、珍しがって集まってくる。やってることが分ると、眉を寄せて逃げるように立ち去る。

それでも、パリパリと食べる時まで珍しそうに見続ける者もいる。


「最後まで見てくれた人へのお礼だ。野菜は全部、3割引にするよ」

ヤンは笑顔になって安売りをする。


軍団を率いて、中国の はるか上空にいたダイバはこの様子を見ていた 。

「コロナ魔神よ。あのヤンから人類にコロナを与えてやれ」

虚空に音声が鳴り響く。

コロナ魔人は 吸い込まれるようにヤンを目指して 降りていく。

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