第17話 大罪〈憤怒〉
思ったよりも早く片付いたな。
コイツはそんなに強く…………は無かったか?
いや、俺がそう思ってるだけで実はとんでもない強敵だったりしてw
はあ、ってかそれは今マジでどうでもいいか。
じゃあ───行くか。
「シエルさん!シエルさん!」
ん?なんだ?
カフカからの〈思念通信〉だ。
……………あ、もしかしてもう全部終わっちゃった系の報告?
いやあ、俺はもうやる事無くなったね。
じゃあ、カフカさんからの良い報告を聞きましょうか。
「はいはーい」
もう、なんちゃって──気楽でのろまな──精神でカフカの連絡に応答した。
どうせ、そう気張ることもないでしょうしね。
「シエルさん!ふざけてる場合ですか!」
ん?カフカの様子が………おかしいような気がする。
あれ?終了の報告では?
「今すんごくヤバい状況なんです!何やってるんですか!?いま、戦力が覆ってるんですよ!?」
……………は?……………
何かのイタズラ───には思えない。
でも、カフカたちの戦力で負けるなんてことないよな?
どういうことだ?
「どういうことか、説明できるか?」
〈気配感知〉のスキルで、カフカの場所は大体分かっている。
そこに合流する勢いで、俺は〈俊足化〉を起動する。
今までそんなに気にして〈気配感知〉を使ったことが無かったから気づかなかったけど、効果範囲が結構広かったんだな。
ここからカフカまでざっと4〜5キロメートルっていうところか。
「敵本基地だと思われてた場所がダミーだったんです!」
「ダミー?」
ってことはニセモノだったってことか。
そんなことを考えたある意味でのバカが敵軍にはいるってことになる。
バカと天才は紙一重っていうけど、ここまで肌で感じたことは初めてだ。
「〈
『モチのロンです。ではでは』
よーし。やっぱり最後に頼りになるのは〈
『それでは。スライムの加護を忍耐可能最大質力まで開放します』
自身の身体に赤と青の気が渦巻いている。
『素早さのみでなく、魔素量に魔力錬成速度など、全て上昇しています。…………ですが、これは一時的なリミッター解除ですので、反動が来ます。おおよその制限時間は───一時間です』
ようは戦争を一時間で終わらせろって事か。
まあまあな無茶を言ってくれますな。
「シエルさん。シエルさん!」
おっと、少しばかりきをそらしてしまったみたい。
「今、私たちが向かってるのは」
「王都の方向………だな………」
「そうです。でも、細かく言うなら、王都にある観光区域です。アイツらの目的が王都叛逆なら、人口の多いトコロを狙う───常套手段でしょうか」
まあ、そうなんだろうな。
でも、自分たちの本拠地を捨ててまでもこんな作戦にでるとか、
「まさに奇策だな…………」
「そうなんですよ!」
うわあ。
カフカが興奮(?)しているっぽい。
まあ、騎士団団長───または同じ策士として、こんな奇策を使ったかが理解できないんだろう。
なんか彼女っぽい気はするけど………。
「兎にも角にも!こんな奇策は対応出来ないと向こうもわかっていたんでしょう。だから───」
「手薄だった」
「……………そういうことです…………」
カフカは責任を感じてるみたいだ。
そんな人柄なんだから騎士団長に選ばれるんだろうがな。
これでモチベーションが落ちて、負けちゃ元も子もないが。
だが、今それより問題なのがある。
それが王都というか、主要都市の防衛が弱いことだ。
こちらに強いヤツらは集めているからまあ、そうなるだろうな。
必要最低限しか兵はいないが───それじゃ直ぐに取られる。
観光区域なら前に世話になった商業人も、美人なレストランのウェイターさんもいる。
気前のいいご主人だったな。
それにあのウェイターさんは優しかったな。俺がヘマをしても、笑ってフォローしてくれたし。
────回想なんてしてる場合じゃないか。
「カフカ、俺は先に行くぞ」
「シエル、これはヤバいね。君は覚悟しておいたほうがいい。多分、弱点を突かれるよ」
は、はあ……………………。
ツキミがそう言うならそうなんだろう。
でも、俺が覚悟することなんてそう無いだろう?
死体はもう、大丈夫だし、何かあれば〈
弱点と言っても、俺攻撃が当たらなかったら問題はない。
それに、絶対に攻撃は、当たらないようにする。
だから
「大丈夫だよ。たぶんね」
いやー。
やっぱり最後の曖昧さは抜けないねえ。
『覚悟すべきに一票です。今回は私ではどうにも出来ません』
へ、へえ。
〈
まあ、気張っても仕方がないか。
***
あと、少しのところで、やはり敵軍の下っ端が構えていた。
どうせコイツらは捨て駒なんだろうから、そう長々と構ってやれる余裕はない。
逃っげろーーー!
まあ、雑魚が追いつけるわけが無いから、ね。
あと数百メートルだ。
さあ、これが最後の戦争になるだろう。
それが終わったら、俺たちはこの国を出ていく。
こんな国にいても面白くないからな。
実際に、散々な目にあってるし。
『敵軍まで、後、321』
オーラーー!
ハアアッ!
まあ、なんて雑魚らしいセリフなんだよ。
こんな奴らに俺の弱点が突けるのか?
いつもどおりに〈
それで!
やっぱり片付くので俺の弱点なんぞ突けないだろう。
はい!
屋根からひとっ飛びすると、ボロッボロな商業街が見られた。
おいおいおい、マジかよ。
なんでこんな状況になってんだよ!
その次に俺の目の中に入ってきたモノは本当に悲惨なモノだった。
一般市民がどんどんと殺されている。
悪徳の塊とも言える敵兵でもが、醜い顔に笑みを浮かべながら殺している。
「マジかよ。 ……………反吐が出る……………」
あー。
これかー。
俺は昔からカタイって言われるくらいだからこういうことが許せないことを理解していたんだなー。
……………っていうか、なんで知ってるの?そんなこと。
ま、まあ、そんなこと今はどうでもいいや。
「覚悟、してるよね………?」
どうも、暗い雰囲気のツキミがいる。
前の俺ではこれに激怒していたんだろう。
でも、これは戦争だ。
俺のいた国も、戦時中は虐殺まがいのことをしていたこともある。
だから、だから………だからこれぐらいでもう、俺は怒らないから…………大丈夫だと思う。
『ここからは───』
「おい〈
「!!!落ち着いて!!!」
興奮状態にある俺に大声でツキミが制止してきた。
理性が薄れかけている状況でも、ふたりの制止も相まって、かろうじて失ってはいない。
はあ、はあ、はあ、と憤怒の余りに過呼吸になりかけている。
コイツらは───コイツらは、この国の善良な市民に強制性交を強いている。
女性たちの苦しく痛々しい喘ぎ声と敵兵の醜い興奮の声が聞こえる。
「コイツら…………つくづくタチが悪い」
人殺しの奴らはすぐさま殺しているし、殺せるけど、こういう行為に及んでいる奴らは、市民たちと距離が近いせいで中々殺せない。
しかも、それは店の中、家の中でやっている為、〈気配感知〉で感じ取り、〈
だが、俺の〈気配感知〉が数センチ単位で分かるわけがない。
だって、慣れてないんだから。
だから───タチが悪い。
ああ。
未だに聞こえる胸を締め付けられる声。
可哀想に……………。
………………あ、いっそのこと一緒に殺してやれば楽になれるか?
フッ、それは駄目だな。
あんな奴らと一緒になんて───可哀想すぎる。
早く奴らを────
こんな時に俺の目の間に現れたのは、右胸が血だらけで、片足がすでにない顔見知りの商人と未だ抵抗は続けているものの、着衣を破かれている美人のウェイターだった。
このふたりは、俺がこの国でお世話になった人たちだった。
あ゛あ゛あ゛あ゛
醜い。
ああ、やっぱり怒りが込み上げてくるな。
『⚠警告!魔力が規定量を上回っています』
あ、ふたりが言っていた覚悟する、って、これに対してだったのか。
『⚠警告!魔力、暴走域に到達』
暴走か。
このまま暴走してしまったほうが楽じゃね?
もう、それでいいや。
もう────
『«天の声»より通達です。過剰化した魔力と怒りの感情を生贄に大罪〈憤怒〉を獲得しました』
(旧)あるいはスライムか、もしくは閻魔なのだろうか? 黎ゆ。-伊藤世彬- @syaruyona
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