第16話 怪しい魔物………?

 まだ状態が悪い。

 アレからカフカらは戦闘に移ったが、肝心の俺は高台で片膝を付いている。


「…………マジでヤバイ状況だな…………」


 少し落ち着いたところで、状況はそう変わらない。

 なにせ、腹痛、今頭痛、吐き気のような生理反応は抑えられたとしても、足が棒になって動かないんだよな。


「どうしたものか」


 ピークを過ぎて気持ち的には落ち着いた。

 冷静である自分の脳と震えている自分の身体はまるで別人のようだった。


「…………………〈天智慧ヴァルキリー〉、何とかできるか?」


 考え込んだ先の結論がこの一択だった。

 同しようもない状況では自分ひとりじゃ何ともならないと思い知ったのだった。

 それに、ウトウトしていたら全部片付いてしまうからな。

 カフカらがそう簡単に負けるわけ無いしな。

 っというか、カフカらが負ける算段が見つからねえ。

 もし負けるんなら俺の出番は無し!

 というか勝てん!!

 そうなれば逃げるしか無いな。

 ハハハハハハww


『自己完結しているところ悪いのですが、案が一つ………いいですか?』


 おっと、ふざけてるのを〈天智慧ヴァルキリー〉は見てたんだな。

 恥ずかしい………。


「ゴホン!で、案というのは?」


 恥ずかしさ紛れに咳払いをして、さも何事もなかったかのように訊き返した。


『随分と調子は戻ったみたいですが、それでも戦場ではまた病むでしょう。ですので、新たなスキルを確保しました』


 …………ん?まて、それって案じゃなくて、結果報告ですよね?


『そうとも言います』


 最近思うんだけど、〈天智慧ヴァルキリー〉さんって、賢いけどたまにポンコツだよね。


『ん?』


 あ………なんかすみません。

 圧のすごい『ん?』にどうにも逆らえなかった。

 実は怒らせたらヤバいのでは、と直感が感じたので、素直に謝った。

 とてもな威圧感を放つヒトをひとりだけ見たことがあるけど、それと同等の威圧だよ。

 はあ、脳内を読まれるのも不便なものだ。


「で、そのスキルとは?」


 そろそろ本題に戻そうか。

 もう、かれこれ10分ぐらい喋ってるな。

 時間が経てば立つほどに俺の出番はなくなるから早くしないといけないんだな。


『では、それでは。エクストラスキル〈精神異常耐性〉を獲得しました。効果を常時発動しました』


 おお。

 なんと頼もしいスキルなんでございましょうか!

 まあ、俺が頼もしくないからこうなったんだけどな!

 言ってるだけで虚しくなってくるぞ。


「さあさあ、早く行かないと!」


 いつのもの定位置から、ぷにゅっとした感触がする。

 精神的に安定したから感覚がもとに戻ってきた感じだ。


「早く行かないとな」


 再度立ち上がったら、後は〈俊足化〉の最高速度敵本陣に突っ走った。

 俺が動けなかったのが大体15分ぐらい。

 …………って、思ったより時間は経ってないな。

 あんまりも急ぎすぎたか?

 まあ、早いに越したことはないけれども、戦争がそんなに瞬間的に終わるわけがないからな。

 …………まあ、いいや。

 そうこう思ってるうちに薄っすらと金属音が聞こえだした。

 俺が止まってたところではすぐに戦闘終結したからな。

〈精神異常耐性〉によるものか、死体を見ても数十分前のような症状は驚くほど出なかった。


「ハアアッ!」


 太くて低い声の兵士の死闘が見えてきた。

 血にまみれて、もう片目が潰れている。

 ボロボロの鎧は特殊ユニーク級だろうな。

 それもしっかりと身に馴染んだ極めて稀少級スカースに近いヤツ。


 これは後から知った話だが、こっちには七種類の武器ランクがあるらしい。


 普通級ノーマル

 固有級レア

 特殊級ユニーク

 稀少級スカース

 伝説級レジェンズ

 神宝級ジーザス


 聖霊級アーサー


 の七種類である。

 俺は、練習中とかにカフカにムリヤリに勉強をさせられたからな。

 だから稀少級スカースまでは知っていた。

 だけど、王国図書館の書斎にあった書物を読んでみると、その上に伝説級レジェンズ神宝級ジーザスがあるらしい。

 そして、いわゆる三角形図に当てはまらない稀少性の武器ランク。

 それが聖霊級アーサーだという。

 聖霊級アーサーは、もはや存在しない架空のものだとすら云われている。

 なんせ、神宝級ジーザスすら、この世に手足の指で数えられる数しかないというのに、それをも上回る──かも知れない──武器と云うのだから無理はない。


 という、無駄話は置いといて、それでもあの騎士は本当の強い。

 ひとりで何人屠ってるのか気になるくらいだよ。


『警告。測定史上最高級の妖気反応オーラが接近しています』


 イチ兵士に見惚れている俺の脳内に〈天智慧ヴァルキリー〉さんが話しかけてきた。

 それも結構重大な忠告だった。


「………マジかよ。あのアラクネよりも?辰爾よりも?カフカよりも?あの………何だっけ?………あの王だよ王。誰だっけ?」


 まーじで名前が思いつかんのですわ。


『ゼフス王です』


 おー。そうでしたそうでした。


「そのゼフス王とかよりも?」


『辰爾は例外なので除外しています。そして、そうなんですが、他は全員魔力を内に秘めています。同レベルにカフカ、ゼフス王が該当します』


 へえ。…………え?マジで?

 ゼフス王と………なんでカフカなの?

 カフカってそんなに強かったっけ?


『はい、強かったです』


 へ、へえ。そうなんだ。

 ってか、そんなことはどうでもいいんだよ!

 今は急いで本陣に入ることが───


 ブンッ!


 でっかい斧が背後から降り掛かった。

 だがしかし、間一髪で避けられた。

 振り下ろす音に気づけてよかった。

 そこに気づかなかったコイツは俺を殺すチャンスを逃したな。


「コイツ、アラクネに似てるような………でも、違うか」


 雰囲気だけは似ている。

 それでも、よく見ると違うし何が似ているかと言われると魔力としか言えない。

 ────ん?魔力が似ているってどういうことだ?

 魔力って


「なあ、魔力って一人ひとり違うんだよね?」


 前、辰爾に聞いた話だと、魔力っていうのは魔素を体内で練って自分のモノにするって事らしい。

 いわゆる魔素がココアスティックで、魔力が完成形のココアってわけだ。

 ただ人によって溶質──ココアでいうところのお湯の部分──が違うって話だと。


「もちろん違うよ。同じ訳がない。クローンでもない限りはね」


 やっぱりな。

 ってことは───


『魔力が複数存在しています。支配系統のスキル、あるいは魔法が使用されていると考えます。支配系統の一部に、自身の魔力を対象に強制付与するモノがあります』


 ああ、そういうことか。

 同じ魔力が含まれてるんなら似てると感じてもおかしなことは一切ない。

 でも、支配されてると言っても誰にだろうか?


『少なくともこのあたりに支配者は存在しません。探知の結果、魔力回廊の繋がりが確認できませんでした。よって、支配者は上位の存在だと推定します』


 あー、マジですか。

 まあ、ならコイツは───


「やっちゃっていいですよね☆」


 バカを具現化したような質問だったけれど、なんというか、ノリの良かった〈天智慧ヴァルキリー〉によって『はい。いいですよ☆』とキラッキラとした声で言われた。

 なんか………恐い。

 なこと今は関係ないだろうし、直ぐにけちらそうか。


「〈炎陣〉それから〜〈水化〉から〜の〜〈裂空〉!」


〈炎陣〉なんてただの目眩ましにしか過ぎない。

 狙いは〈水化〉にハマったところを〈裂空〉で切り裂くことだ。

〈裂空〉を手に入れるのに結構苦労したもんだよ。

 レッサーサーペントを討伐したときだったか?

〈撹乱〉で戸惑わせてたから良かったものの、向こうが撃ってきた〈裂空〉が俺らに当たっていればまあ、確実に死んでたろうな。

 だって流れ弾が飛び出た岩岩を幾多も切り裂いてったからな。

 まあ、死なないように辰爾が保護ってくれたみたいだったけど。

 結構な数のスキルの中で唯一入手後にゾッとしたヤツかもしれん。


「じゃあ、最後に!」


 これは馬鹿みたいに魔力食うからあんまり使ってこなかったんだけど───


「〈天智慧ヴァルキリー〉さん!」


『了解!エクストラスキル〈呪与の光エンチャントレイ〉に〈多重複製〉を付与』


 いつもは指鉄砲の応用で撃っていた〈呪与の光エンチャントレイ〉が今回は魔法陣から出てきた。

 威力は高い!よし、これは期待できるぞオー!

 んーと。魔力反応は微かに残ってるけど、どうなってんだろう?

 えっと───ミンチ………えミンチ!?

 これは放送事故レベルだよな。

 モザイクないと放送規制かかるレベルよな!

 って、コイツ生き…………てる?

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ。

 考えたくない!

 残りは全部想像で!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る