第3話「都立工科大学」
「仲川君についてですか?」
都立工科大学コンピュータサイエンス学部AIコースに席を置く
「ええ、突然行方不明になったのでご家族が心配して警察に、ああ、私は田元中淳子、刑事をしています」
「自分は浦切蝶間といいます、同じく刑事です」
そう言うと田元中淳子警部と浦切蝶間巡査長は警察手帳を縦に開きバッヂを見せた。
「ふーん、やっぱり写真と階級と名前、個人番号しか無いんですね」
目を細め、悪い目で物を見るように手帳の身分証から二人の顔をまじまじと見渡し栗栖川京子教授は何かを疑いの目を向ける。
「ええ、捜査をする関係で最低限の情報しか表示されてないんですよ教授」
田元中淳子警部は静かに警察手帳を閉じスーツのうちポケットに締まい浦切蝶間巡査長に目を向ける。
「ああ、ハイ!」
浦切蝶間巡査長は慌てて警察手帳を同じくうちポケットにしまう。
「……まあいいわ、で、アタシに何を聞きたいのかしら?」
栗栖川京子教授は机に少し体重をかけ腕を組んだ、コーヒーの湯気と香りがほのかにたっていた。
「まず仲川さんがここで何をしていたかです」
田元中淳子警部は率直に聞いた、「何をしていたか」とは勉強以外の「何か」を含む質問だった。
「もちろん勉強ですよ」
栗栖川京子教授は「クスリ」と笑い肩をすぼませそう答えた。
「あの」
浦切蝶間巡査長が何か言おうとする。
「いえ、勉強以外のです、何か教授のご研究に関わっていたり、仲川さん自身が何らかの研究をしてはいなかったかと言う事です」
田元中淳子警部は目の前の相手にもって回った言い方が無意味だと感じていた、刑事の直感がそう囁くのだ。
「研究を手伝ってはいなかったわ、実際高度なプログラミング技術がいるので一年には無理よ、自身の研究についてはわからないとしか言いようが無いわね」
栗栖川京子教授のハッキリとした話には説得力もあったが違和感もあった、自分の所に居る学生が行方不明だと言うのにまるで心配している様子がないのだ。
「あの、生徒さんが心配ではないのですか?」
浦切蝶間巡査長は思わず聞いてしまう。
「それ、私に関係あるのかしら?」
栗栖川京子教授はあっさりと言い放つ。
「お話戻させていただきますね教授、高度なプログラミング技術とお聞きしたのですが」
田元中淳子警部は栗栖川京子教授の背に隠れた型おちのデスクトップPCに目を向ける。
「ああこれね、いいのよ実際の計算は大学のコンピューターがするから研究室のPCなんて入力と出力装置に過ぎないの」
新しい大学だからって何もかも新品とは行かないらしい。
「そちらの可愛らしいノートパソコンは教授の私物ですか?」
田元中淳子警部は少し和むように言葉を選んで聞いてみる。
「いいえ、ここには私物の端末はおけないの、何だか産業スパイとかウイルス対策で全て大学の物よ、シールの事は秘密にしてね」
栗栖川京子教授は小さな器物損壊の告白と共に人差し指を口に当て二人の刑事に笑った。
「確かに入る時大変でしたね田元中さん、スマートフォンとかUSBとか金庫に隔離されて……」
浦切蝶間巡査長の言葉はこの大学のセキュリティがしっかりしていると示すものだ。
「ではノートパソコンは何に?」
田元中淳子警部はノートPCが何処と繋がっているのかに興味があった。
「ノートは大学内のネットワーク専用よ、ほら天井に赤外線のセンサーがあるでしょ、あれで大学内ネットに繋げるの、研究棟からは外部に繋がらない仕組みなのよ」
どうやらゼッカイの孤島に住んでいると外の世界、いや自分の生徒にすら興味がなくなるのかもしれないと刑事二人に思わせる発言だった。
「今日は本当にありがとうございました、またお話伺いに来てもよろしいですか?」
「ええ、研究が暇な時なら」
浦切蝶間巡査長は一見和やかな会話に少しのトゲを感じつつ研究室の扉を開け田元中淳子警部を先に通し自身も一礼だけして扉をそっと閉めるのだった。
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