ウンとフンとフウンなボク
橘 賢 Ken Tachibana
第1話
小学5年生の頃、ボクは
秋の遠足の日。その日の朝は
「今日は遠足でしょう?さあ、元気出して!いってらっしゃい!」
ボクの想いを
祖母は一見、もの静かな女性のように見えるが
ボクが暮らしていたところは
しまった!遅くなった!ボクは学校のグランドに続く海沿いの道を走っていた。急がないと急がないと、気持ちは
家に帰る訳にもいかず校舎に向かって歩いて行った。校長先生の姿が見える。職員室の窓から
校長先生が<校長室に
「わかってるぞ!わざと遅刻したな。」
遠足に行きたくなかった!というボクの気持ちが読まれていた。
「じっくり体育館でお
助かった。
ひと月ほど前、久しぶりに台風が上陸した。雨よりも風の勢いがすごい台風だった。夜通し
|
ボクは
「雛を手で温めようとしてはダメよ。鳥は人間より体温が高いから、手で
祖母の言葉に従ってタオルで雛の体を拭き、段ボールの中に新聞紙を重ねて雛の
ゴソゴソと音がする。祖母が雛の巣を
「雛が起きたようね。」
「学校に連絡したら、用務員さんがトンビの雛の世話をしてくれるそうよ。明日、鳥かごに雛を入れて学校に持ってきてほしいと言ってるわ。エサは2時間おきぐらいにあげてね。お父さんには
なんと
悪臭の中で一晩ボクは耐えた。朝になって祖母が届けてくれた朝食を
そう言えば心配なことがある。学校に行く間に雛が鳴き声をあげるとトンビの親鳥が気づいて襲ってくかもしれない。そうだ、雛を眠らせよう。ボクはカナリアを飼っていた時に使っていた鳥かごに雛を入れ、黒い
しかし暗くなってもエサを欲しがってなかなか雛は眠らない。やっと雛が眠ったのを確認して学校に向かった。家を出るのが遅くなってしまったので今日も遅刻だ。
一刻も早く用務員さんのところに雛を届けたいと思っていたのに、教室の窓から女番長の斉藤典子が呼んでいる。
「トンビの雛、見せなさいよ!早く!」
どうしてトンビの雛のことを知っているのだろう。昨日、祖母が用務員さんにトンビの世話をお願いした。そうか、その時校長先生に事情を話し、校長先生が担任の宮本先生に話したのかもしれない。
「見せてあげなさいよ。私も見たいわ!」
宮本先生も見たがっている。それが証拠だ。仕方がない。ボクは鳥かごを教室の教壇の上に置いて黒い風呂敷を取った。<おお―ッ!>と教室にどよめきが起きる。トンビの雛は突然朝が訪れたので驚いている様子だ。クラスのみんなにお願いした。
「雛がお尻を外に向けたら注意して!ウンチが水鉄砲のように、|
ボクはウンチにご
旧校舎の脇にあるガレージが用務員さんの作業場だ。作業場のすぐそばの松の木に段ボールでトンビの巣が作られていた。
「ここなら上空から雛を見つけやすい。巣の上で雛が鳴いていると親鳥がすぐに見つけるだろう。雛を見つけたら親鳥はエサを運んできて雛の世話をする。そして雛が飛べるようになったら一緒に巣を離れるはずだ。」
用務員さんの説明を聞いて明るい
教室に置いてきた雛が心配になって用務員さんと一緒に駆け足で教室に戻る。廊下まで行くと教室から女の子達の
「くそーっ!トンビにウンチをひっかけられた!臭い!臭い!」
女番長が怒りをぶちまけている。トンビの雛がムズムズとお尻を動かしたので、女番長達はもっとよく見ようと鳥かごに近づいた。その時ウンチの水鉄砲を浴びたらしい。女番長達は顔も頭もウンチで汚れて
とにかく今は教室を清掃しなければならない。ボクは用務員さんに手伝ってもらって床掃除を始めた。モップで水洗いするだけでは
後日、ウンチの被害にあった生徒達の家を校長先生と一緒に訪ね、
父の指示によりボクは中学受験を目指していた。ところがボクは努力する才能に恵まれていない。だから学力不足が問題となり、結果として
トンビの雛のウンチ事件から2週間ほど経過した金曜日。夜空には雲もなく13夜の月が輝いていた。真っ暗な夜道だと用水路に落ちないように細心の注意を払う必要がある。しかし夜道が明るかったので、ボクは油断して力強くペダルを
午後9時30分。家に戻ると母と祖母が待っていた。帰宅が遅れた本当の理由は知られたくない。そう思って
「臭いわね!どうしたの?シャツも短パンもずぶ濡れじゃない!」
「ふふふ、間違いないわ!肥溜めに落ちたのよ!」
ピンポーン!祖母の答えは正解だった。かわいそうに思ったのか、祖母が気休めの言葉をかけてくれた。
「肥溜めに落ちたら幸運が舞い込むそうよ、いいわね。でも3回落ちたら全部チャラ、運がなくなるから注意してね!さあ、まずはお
祖母と母はボクを井戸端に連れて行き、丸裸にして洗剤で洗ってくれた。泡だらけのボクの横で、祖母と母が
クラスでは男子の約半数が丸刈りだった。丸坊主で登校しても誰も気づかない。そんな雰囲気だったが、女番長達が丸刈りにされたことを
「そうか、肥溜めに落ちたのか?それで丸刈りにされたのか?これは
校長先生は楽しげに大声でじゃべり、なんども話を繰り返した。それを多くの先生達や生徒達が聞いてしまった。悪い
「肥溜めに落ちた♪ 肥溜めに落ちた♪ 肥溜めに落ちて丸坊主にされた♪ 」
ボクはたまたまの偶然で祟りではないと思う。でもトンビの雛の臭いウンチを頭から浴びた女の子達、特にべそをかいていた女の子が、女番長達のお
「丸刈りの方がいいよ。アスリート風にイメチェンだ!」
用務員さんには好評だった。用務員さんの午前中の仕事は砂場の整備。ボクはスコップや砂ふるいを取りに用務員さんの作業場に行った。作業場に入るのは初めてだ。入口を入って正面には窓があり、校舎の裏庭に植えられた木々の間から
「この自転車は?」
「片倉シルクのロードレーサーだよ。これでツーリングを楽しんでいる!」
「すごいなあ!」
ボクは美しい自転車にため息が出るばかり。将来、このような
いつの間にか空は晴れ渡っていて雲一つない。少し暑い。砂場では作業が進んいる。古い砂を砂場の片方に集め、砂がなくなったところに小型ダンプが運んできた新しい砂が
「古い砂をふるいにかけるから手伝って!」
用務員さんが古い砂をスコップですくい、砂ふるいに乗せる。ボクは砂ふるいを前後に動かしてゴ三を取る。作業を続けながら砂の中にいろんなゴミがあるのに驚いた。
「困ったことに、猫はフワフワの砂の上で用を足すのが好きなんだよ。砂場を自分のトイレだと思っているんじゃないのかな。」
用務員さんは猫除けのためにゼラニウムを植えたプランターを用意していた。ゼラニウムの匂いが刺激的なので猫が寄って来ないらしい。砂場の整備が終わった後、砂場の周囲にゼラニウムのプランターを並べ、じょーろで水をかけた。
気がつくと時間はお昼近く。きっと雨になるだろうという予想は
午後は蛍光灯を交換する作業を手伝った。作業が終わったので、ボクは視聴覚室で用務員さんから借りたツール・ド・フランスのDVDを見ていた。ツール・ド・フランスは毎年7月、フランスと周辺諸国を23日間かけて
夢中になってDVDを見ていたら電話のベルが鳴って、校長先生の大きな声が聞こえてきた。
「なに?5年生と6年生が集団食中毒?とにかく詳細な情報をくれ!それから保護者に連絡を入れる!」
<大変なことになった!大変なことになった!>と校長先生が
女番長の斉藤典子は<災いはすべてボクの呪いだ!>と主張した。そしてみんなが賛同した。その結果、ボクは総スカンを
そう言えば、祖母が言っていたことは正しかった。<肥溜めに落ちたら幸運が舞い込んでくる。でも3回落ちたら全部チャラ!運がなくなるから注意しなさい!>
なるほど、ボクは遠足に参加しないで食中毒を
(おわり)
ウンとフンとフウンなボク 橘 賢 Ken Tachibana @kamegamori
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