古都



「でも一番長く歴史見てきたんは奈良なんとちゃうか?」


「せやろな」


「奈良くん?」


 みのりは先ほど確認した座席表を思い出す。奈良と書かれた席に座っていたのは、ストレートな黒髪の持ち主だった。長めの前髪を真ん中で二つに分け、垂れ気味の目の目尻をさらに下げてにこにこと笑っていた子だった気がする。確か、わちゃわちゃしている教室の中でマイナスイオンを放っていた子だ。

 実がそう言うと大阪と兵庫は揃って吹き出した。


「確かにそれが奈良やわ!」


「マイナスイオンは上手すぎるな」


 例え方が上手かったらしく、実はちょっと誇らしげだ。そんな実の方に身を乗り出しながら、大阪はまるで自分の自慢をするかのようにペラペラと言葉を紡ぐ。


「奈良は早くに都になったさかい、奈良時代にはもう見た目十五歳くらいやったもんなぁ。その分長い間政治に目を通せた訳や」


「都になったばっかで国際都市とも顔合わせてたらしいしな」


「国際都市?」


「そうそう!」


 大阪はそこで実を見つめる。


ずいの都 長安チョーアン。今の中国の西安シーアンやな。なかなかおもろいであいつも」


 外国にもいるのか。

 言われてみれば当たり前にも思えるが、実は今さら世界にも目を向ける。


「凄いでー、奈良が初めて隋に行ったんはあの小野妹子おののいもこはんと一緒やったらしいしな」


「小野妹子!?」


 突然聞き慣れた名前が出てきて、実は思わず大声を出してしまった。

「凄いやろ、奈良。妹子はんとはかなり仲良かったみたいやで」と自分のことでもないのに何故か大阪が自慢げに言う。


「ちょっと興味あるかも······」


 思わず呟かれた実の言葉に、大阪が嬉しそうに笑った。


「せやろせやろっ? 俺もその時代の記憶は曖昧やから、その話聞いてみたいなぁって思っ······」


「おーい、そろそろ帰れよー。鍵閉めっぞ」


 大阪が身を乗り出したところで、教室の入り口の方から声があがった。そこに立っていたのは片手に鍵束をもった東京だ。それを見て大阪は不満げに眉を寄せる。


「えー? まだ六時やろ」


「今日一斉下校だろ」


 東京は片手に持った鍵束をじゃらじゃらと鳴らす。そして、まだ頬を膨らませている大阪を見ると、彼に聞こえる程度にボソッと呟いた。


「今日の夕飯ハンバーグだってさ」


「よっしゃさっさと帰ろか!」


 ここの生徒はもちろん全国から集まってきているので、みんな学校から少し丘を下ったところにある寮で生活しているらしい。そこで振る舞われる食事の中でも、ハンバーグは大阪のお気に入りのようだ。

 本当に単純である。しかし、彼のそんなところが愛される秘訣なのだろうか。


 実は人知れず笑みをもらす。戸惑いも多々あったけれど、この学校での、この生徒達との生活はなかなか楽しみだ。

 そんなことを考えながら、実は大阪と兵庫と共に教室を出る。そして全員が退出したのを確認すると、東京は四組の鍵をガチャリとまわした。











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