土地神
そこは屋上であった。西に傾きつつはあるが、夏の太陽はまだまだ眩い。光に照らされた東京の街並みは、教室で見たものよりもずっと輝いて見えた。
夏風に誘われるがままに視線を上げると、遠くには空高くそびえ立つ高層ビル群が見える。手前に広がる住宅街の屋根には、キラキラとした夏の光が反射していた。
「綺麗でしょう?」
「自分で言うのも恥ずかしいですけど、俺はこの街が大好きです」
そう言うと彼は愛おしそうな瞳で街並みを見つめる。
「まるで大河のように人が流れては出会い、別れ、地を育んでいく。あたたかい街です。とても」
そうして少し照れたように笑うと、屋上を取り囲んでいる柵へ寄りかかった。
「そう言えば、自己紹介ばかりで学校のこととか俺らのこととか何も話せていませんでしたね。何か質問とかありますか?」
突然投げられた問いに実は少し首をひねる。考えてみれば、もはや疑問しか浮かばなくて何から聞いていいのかさえ分からない。
しかししばらく悩んだあと、実はとりあえず根本的な質問をしてみた。
「皆さんは都道府県?なんだよね。えっと、それはその······土地の神様みたいな感じなの?」
そもそも彼女はそこを知らなかった。彼らは一体どのような存在なのだろう。それがずっと頭の片隅に引っかかっていた。
「んーと、神様ではないんです。土地神様は俺らとはまた別にいるらしくて。俺らはただ単に土地が具現化したものというか何というか······まぁぶっちゃけてしまうと、自分達も何でこんなことになっているのかよく分からないんですよね」
そういって彼は苦笑いをする。
「気づいたら土地として生まれていました」
その言葉に実は目を丸くする。その理由は上手く言葉に出来ない。しかしそんな重要なことが分からぬまま生きているのかと、その事実がやけに心に響いた。
「いるらしいってことは土地神さんに会ったことないの?」
実はそう問いかけてみた。何も知らない実から考えても、その土地神と呼ばれる存在がかなり怪しい。
そんな実の問いに、彼は少し何かを思い出すかのように考え込む。
「俺は会ったことがないです。でも声は聞いたことありますね。特定の人には姿が見えるらしいんですが、俺も詳しくなくて······京都とか奈良とか広島とか、あっ大阪も見えるって話ですね。見える人と見えない人がいるんですよ。そのへんは近畿の奴らの方が詳しいかと」
「え、結構凄いクラス受け持っちゃったのかな、私」
担当クラスが近畿だったのを思い出して、少し不安になる。そうやって慌て始めた実に東京は思わず吹き出した。
「大丈夫ですよ。たまたま古株を例にしただけですから、土地神が見える人は他にもたくさんいます」
炎天下の中で笑ってさらに暑くなったらしい。彼は手で顔を仰ぎながらそう付け足した。
そんな彼を見て少し緊張の糸が解ける。肩を緩めて空を仰げば、一羽の鳥が空を悠々と駆けていた。
「あの、なんで都道府県の皆さんが学校に通ってるんですか?」
実はホッと一息ついたところで、一番疑問に思っていたことを口にしてみた。土地の化身が何故学校に通っているのだろう。
すると、東京はその質問に少しバツの悪そうな顔をする。そして若干苦笑すると、彼はぽつりとした声で言った。
「ちょっと俺が原因でもあるんですけど······簡単に言えば、仮の年齢が十八歳だからですかね」
「仮の年齢?」
その不思議な言葉に、実はきょとんと首を傾げた。
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