足跡
「仮の年齢?」
頭に疑問符を浮かべた実に気づいて、東京は「あれ? まだ話していませんでしたっけ?」と驚いたような顔をした。
「俺達が生まれたのってもうだいぶ前の話なんです。一番早くて古墳時代の後半らしいですね」
「古墳時代!?」
あまりの衝撃に実は屋上からひっくり返りそうになった。古墳時代などと聞いたのは高校の授業以来である。
「まあ、みんなイマイチはっきりしてないですし、人によって違うんですけどね。でも基本的には飛鳥時代の律令国制度が固まった頃に生まれました」
またもや久しぶりに聞いた単語に眉を寄せる。何だか高校生に戻った気分だ。確かその単語を聞いたのは大化の改新の授業だっただろうか。
「江戸以前までは土地の発展具合でだいぶ見た目に差がありました。都や主要都市となると二十代くらいの見た目でしたし、逆に言えば地方となると五歳ほどでもおかしくないような······まあ、そんな感じです。でも、江戸時代に入って各国に藩が置かれると、大体十五歳くらいの見た目に統一されてきたんです。全ての国の国力が比較的安定してきたんでしょうね。でも······」
そこで一度言葉を区切ると、東京はどこか懐かしそうにも見える苦笑いを見せた。そこには罪悪感も混じっていたが、不思議と重い顔ではない。
実はその顔に興味を惹かれた。そうして東京の方に身を傾けたところで、彼は再び口を開く。
「明治に入って廃藩置県が行われたときに、仮年齢を正式に統一しようという話になったんです。まぁ、仮年齢ってのは俺らの見た目の年齢ですね。それは新政府から提案された話でした。そしてその仮年齢の決定を当時首都になったばかりだった俺に託されたんですよ。まぁ当時はまだ元服の色が強くて、大体十五歳くらいになれば大人みたいなところがありました。なので、十八歳くらいでいいかなってかなりテキトーに決めちゃったんですけど······」
そこで彼は再び口を閉ざした。静かな屋上には鳥の声だけが響いている。その沈黙でなんとなく続きが見えてしまった実は、言いにくそうにしている東京に変わって恐る恐る口を開いた。
「それで······その後成人の基準が二十歳になっちゃんたんだ」
その言葉に一瞬固まったあと、東京は相変わらずの苦笑いで頷く。
「十八歳って今だと高校三年生か否かってところでしょう? そしたらお前らも四十七人共通の学力をつけたらどうだってお偉いさん方に言われまして、それで戦後になってからされるがままにこんなことに······」
当時は勉強が嫌いな人達から色々言われたのだろう。「何でテキトーに決めたんやこのアホ!」と東京に突っかかる大阪の姿が目に見える。
しかし、それはそれでいい思い出のようだ。それが彼の曖昧な苦笑いから見て取れた。
「当時はあまり深く考えていなかったんですよ。俺が成長できたのは江戸に入ってからですしね。結構新参者なんです、政治に関しては」
「それでこれかよ!」と、東京の街を見下ろしながら心の内でツッコんだ。夏日に霞む高層ビル群は、ここが日本の中心でことを堂々と告げている。
「まぁいいんじゃないですか? 何だか成人年齢引き下げの話題もありますし」
東京はそう言って頬をかく。未だに気まずい雰囲気が抜けないらしい。そんな東京を見て、実はちょっと話題を変えてみた。
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