秘密


「大体こんな感じですかね」


 一通り学校内を巡った東京と実は三階北校舎の音楽室の前に立っていた。三階建てのこの校舎は上から見るとロの字型になっている。その中央にあるのはささやかな中庭だ。そしてその校舎の脇には体育館があり、南校舎から渡り廊下で繋がっている。


 実がいる北校舎の三階から中庭の吹き抜けを挟めば、向かいには教室が並ぶ南校舎の三階が見える。先程そこを出発したので、てっきりそちらへ戻るのだと思っていた。しかし、最後に東京が実を連れてきたのは反対側の北校舎であった。


 そのことを東京に聞くと、彼はいたずらを見つかった子供のような顔で笑う。そしてそっと腕を持ち上げると静かに上を指さした。


「本当は立ち入り禁止なんですけどね。今日は特別です」


 そう言って彼は実に手招きする。彼に促されるがままにさらに上へと階段を上ると、ひとつの扉が現れた。すると東京はその扉の前でポケットから何かを取り出した。

 それは一つの鍵であった。彼はそれを鍵穴に差し込み、くるりと右手に回してみせる。ガチャっと言う心地の良い音に続いて、彼はそっとドアノブを回した。


 扉を開ければ眩い光が薄暗い階段に差し込んでくる。光の中から吹き込んできた風が一気に階段を滑り落ちた。その突然の眩しさに、実は少しずつ目がくらんでしまう。

 すると、立ち止まっている実に気がついて東京が自分の右手を伸ばした。そしてそのまま実の手を優しく取ると、彼は光の中へと足を踏み入れた。



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