生徒会長
初めて通された生徒会室は二階の南西に位置していた。ドアは窓付きであったものの、そこにはカーテンが引かれていて中の様子はよく分からない。しかし、実を先導していた生徒会長はやはり慣れているらしい。彼はトントンとドアをノックすると、「はーい」という返事を確認して一気に扉を開けた。
「先生つれてきたぞー」
「お、お邪魔します」
彼のあとに続いて、実は恐る恐る生徒会室に足を踏み入れる。しかしながら、実が教室内を確認する間もなくすぐさま溌剌とした声が飛んできた。
「おっかえりー! 待ってたで!」
衝撃を感じるほど元気な声に、実はビクッと肩を震わせた。どこかで聞いたことのあるその声音。実がそちらへ目を向けると、これまた見覚えのある茶色い瞳と目が合った。
「朝っぱらからうるせーよお前」
実の前に立つ生徒会長が眉を寄せる。すると、朝と同じ栗色の瞳をした彼は「もう昼ですぅ」と口をとがらせた。
「はいはい、先生の前で喧嘩するんじゃなか」
新たに飛んできた声に、実はハッとして教室を見渡す。その声の主は奥の方に座っている男子生徒のようであった。教室をよく見てみると、四つの長机がカタカナのロの字形に組まれている。そして長机には二人分ずつ椅子が置いてあり、そこには茶髪の彼も含め六人の男子生徒が座っていた。
「あ、そうだ。ちょっとややこしくなるので、自己紹介は後々させて頂きますね」
実が教室を見渡していたことに気づいたのか、生徒会長がそう口を開く。
「ややこしい?」
「ええ、ちょっと。まぁでも話してしまえばご理解頂けると思いますので······」
思わず漏らしてしまった疑問に生徒会長が苦笑いを見せた。まさか口にしているとは思わなかったので、実は慌てて口をつぐむ。
先程から慌ててばかりだ。実はそう思って肩を落とした。せっかくの教育実習なのだから、出来るならばきちんとした心持ちで臨みたい。
「ほらさっさと座れよお前! 何にも話出来ねぇじゃねぇか」
実がシュンとしている間にも、生徒会長は楽しげな茶髪の彼に向かって声を荒らげる。そんな生徒会長の方を向いた実は何か違和感を感じて首をひねった。
真正面から視線を向けられると小っ恥ずかしくて直視出来なかったが、彼の横顔にどこか既視感をおぼえたのだ。
「ん? どうかしましたか?」
「あっ、いえ······」
実の視線に気づいたのか、生徒会長が首を傾げる。その時、実は「何でもない」と言うつもりでいた。自分の勘違いかもしれない。そう考えて首を振ろうとした。しかし······。
「なんだか、初めて会った気がしないなぁと思いまして」
実は結局そう口にしていた。やはり、どこか見覚えがあるのだ。そのもやもやとした記憶をそのままにしておけるほど実は強くなかった。
すると、その言葉を聞いた彼は片眉を少しあげた。それを見て、実は不審がられたと感じて慌てて口を開く。
「あ、すみません! やっぱり勘違いですよね」
実習初日から変人だと思われたくはない。そう思って曖昧に苦笑した。その気まずさを紛らわしたくて必死に笑顔をつくる。しかしそんな彼女の言葉を追ってきたのは、思いがけない台詞だった。
「新原先生って東京都ご出身ですか?」
「へ?」
生徒会長の言葉に、実は思わず素っ頓狂な声を出した。
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