秘密


 しかし、そんなことを考えているうちにも集会が終わりに近づいたようだ。みのりは女子生徒のアナウンスに促されるがままステージを降り、脇の職員席に座って閉会の挨拶をきく。副会長らしき学ラン姿の男子生徒の挨拶も、その違和感が引っかかってうまく頭に入ってこなった。


「······ら先生、新原にいばら先生!」


 急に聞こえた自分の名に、実はハッとして顔を上げる。


「まだ少し緊張していますか?」


 そこにいたのは優しい顔をした康彦やすひこだった。


「あ、いえ······そうかもしれません」


 変な学校だなと思っていただなんて言えるわけもない。それとなく受け答えをすると、康彦はニコリと笑った。


「そうですか。リラックスですよ、リラックス。でもまあ、リラックスできない理由があるのかも知れませんが······」


「へ?」


 心の内を見透かしたかのような最後の言葉に、実は思わず素っ頓狂な声を漏らす。彼はそれを見て苦笑すると、どこか懐かしそうに目を細めた。


「大丈夫。私も最初は戸惑いましたよこの学校には。そういえば、二学期の初日なのもあってバタバタしてしまって、この学校についての大切な説明を出来ていませんでしたねえ。申し訳ありません」


「大切な説明?」


「ええ。多分もうお気づきになっているとは思いますが、この学校は少し変わった学校でしてね······あっ、どうやらその件でお迎えが来たようです」


 そう言うと、康彦は実から視線を外してそれを横に向けた。そのあとを追ってそちらを見ると、そこにはあの深い色合いの瞳があった。先程ステージで挨拶をしていた生徒会長だ。


「その辺りの説明は、私達教員ではなく生徒会の方がしてくれます。なのでお手数ですが生徒会室の方へ······。まぁ私達が知らないこともたくさんあるのでね、もしも質問等あれば彼ら生徒に聞いてください」


 生徒が知っていて教員は知らないだと?

 またもや首を傾げる実に気づいているのかいないのか、康彦はエールを送るように実の背中を軽く叩く。そして生徒会長の方を向くと、彼に小さく口を開いた。


「では、お願いしますね。--くん······」


 柔らかな囁き声だったからか、名前のところが上手く聞き取れなかった。しかし、恐らく生徒会長の名を口にしたのだろう。彼はそんな康彦の言葉にしっかりとうなずく。

 それを見届けると康彦は体育館を出ていってしまった。どうしたものかと思いながらも、実は生徒会長に視線を向ける。ちゃんとした説明があるなら大丈夫だろう。


 彼はそれに気がつくと、実の方を見つめ返す。そして先ほどと同じ微笑みを浮かべると、その薄い唇をそっと開いた。


「新原先生ですね。お手数ですが、少々ご説明したいことがございますので生徒会室まで案内させていただきます」










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