疑問


「では教育実習生の先生への挨拶と、二学期が始まるに当たっての挨拶を生徒会長お願いします」


 突然聞こえた女子生徒のアナウンスに、ついぼーっとしてしまっていたみのりはあわてて背筋を伸ばす。


 まずいまずい、集中しないと置いていかれる。

 そのように実が一人焦っていると、生徒達の中から一人の男子生徒が立ち上がった。彼は正面へ足を向けると、そのままステージに向かって歩き始める。ステージ脇の階段を登り実の近くまで歩み出ると、彼は立ち止まって真っ直ぐにこちらを見つめた。

 つり気味の目は決して小さなわけではないが、まんまるだった茶色くんの目と比べると明らかに切れ長にみえた。その瞳は黒かったが、どこか少し灰色味を帯びているようにも見える。その絶妙な色合いには、味わい深い独特の雰囲気があった。


 立ち止まった彼に実も椅子から立ち上がる。すると彼は背筋を伸ばして実に一礼した。

 さすが生徒会長というべきだろうか。その落ち着きのある丁寧な動作に、慌てて実もお辞儀で返す。顔を上げた彼は少し微笑むと、ステージ中央へと進み出た。そして正面に再び頭を下げ、マイクに向かって口を開く。


 聞き取りやすい落ち着いた声を聞きながら実は彼の背中を見つめる。姿勢がいいからそこまで背が低いという印象はなかったが、背丈は先程の茶色くんより少し大きい程度だ。男子高校生にしては少し低めのように見える。


 話を終えた彼は正面に一礼すると、振り返って実へもう一度頭を下げる。そして先ほどと同じ爽やかな笑顔を浮かべると、スタスタと降壇した。実は彼の後ろ姿を目で追いながら何気なく全校生徒を見渡してみる。すると、またもやおかしなことに気がついた。


 生徒数がどう見ても少ないのだ。

 地方や離島の学校ならば有り得る人数ではあるが、ここは東京······外れとはいえ、学校の建つ丘の下には住宅が立ち並んでいたはずだ。それなのにぱっと見、五十人ほどの生徒しかいない上にクラスは六クラスもあるらしい。どう考えても一クラスか二クラスかにまとめてしまっていい人数だろう。

 しかも、さらに奇妙なことがもう一つ。彼らは何故か何人かのまとまりごとに異なった制服を着ていたのだ。ある人はブレザー、ある人は学ラン、女子にしても、ブレザーの人もいればセーラー服の人もいる。しかも首元にあるものもネクタイやリボンやスカーフや······クラスごとに色や形まで様々だ。しかし彼らは同じ高校に通っているのである。


 一体どうなっているのだろう。あまりにも想像とは違う様子に、実はただただ戸惑うしかなかった。明らかに他の学校とは違う。しかし校舎の様子や朝の三人との会話を思い返しても、何か特別なことがあるとは思えない。ここは、どこにでもあるありふれた学校に見える。


 普通なようで普通じゃない。


 実はその矛盾にとらわれた。明らかな違和感。でも、実はこの学校について何も知らない。その不安が急に実の心を締め付けた。

 もう何もかも全て説明して欲しい。

 それが、今の実の心の内だった。






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