第40話『そこはあの日と同じように』
空の丘が燃えていた。まるで、正解だとでも言うように、そこは普段と違う場所だった。しかしその景色を見るのは初めてではない。
あの日、姉ちゃんが死んだ日。
この丘は、同じ炎に包まれていた。
あの時は、セイが消してくれた。
「『想像召喚』『セイ』来てっ!」
僕が叫ぶと、何も無かったところにセイが現れた。
「クサナギ殿、想像召喚が上手くなりましたな」
「セイ、ありがとう。でも、そんなこと言ってる余裕はない。アヤはここのどこかにいる。この炎、消せる?」
「あの日と同じ炎ですな。やってみます。『津波:レベル7』」
「あれ?消えない…」
「すみません、もう一度…」
セイがもう一度脳力を使おうと前足を高く振り上げた時だった。
「遅かったな、クサナギ。姉ならもっと早く来れたぞ」
僕を囲む炎の一部が途切れた。その先に人影が見えた。
その人が、僕に話しかけてきたのだ。
その人はこちらに寄りながらさらに続けた。
「いや、惜しかったな。もう少し早ければお前の彼女も死なずに済んだのに」
(は?それは、どういう…)
「見ろよ」
その人が指を鳴らすと、その人とは逆の方向に道がひらけた。その先には、惨たらしいほどにボロボロになったアヤが倒れていた。
僕は再び彼を見ると、怒りに任せて睨みつける。
そこにいたのは、神に言われた姉ちゃんを殺した犯人。彼は、脳戦士ランキング現No.1。『
僕の仕事は彼を捕獲または殺すこと。
僕は憎悪に任せて拳を放つ。
元々拳は専門外なうえ、接近戦は苦手だが、姉ちゃんと弥生の死が、僕に無限の力を与えてくれた。
彼は攻撃に転じることはないものの、全ての攻撃を受け流し、息切れもしていない。しかし、僕の方が少し押していて、彼は徐々に後退していた。
もう何度目かも分からない右ストレートが、奇しくも空を切った時僕は腹部に強い衝撃を感じで後方へ吹き飛んだ。
(痛い。でも、負けられない)
その強い思いも胸に、もう一度立ち上がろうとするも、気持ちだけでは立ち上がれないほどに疲弊していた。
僕はもう一度地面に倒れた。
(もう、立ち上がれない。立ち上がっても、勝てない)
そんな考えが頭をよぎった時、今までは何故か僕らを避けるように存在していた炎が、僕を殺すことを目的として動いた。数秒後に僕を燃やすであろう炎を視界に捉え、自らの死を予感して目を閉じた。
その時、声が聞こえた。
「私は死んだ。クサナギはどうするの?」
姉ちゃんの声だった。
目を開くと、不思議な空間にいた。
白い部屋。僕の周りには何もない。
でも、人がいる。
「姉ちゃん…」
「久しぶり。クサナギ。一年しか経ってないのに、随分と成長したと思っちゃうのはクサナギが成長期だからか。はたまた私の成長が止まったからか。どっちだと思う?」
と姉ちゃんは聞いた。それに僕は
「…どっちも」
と答えた。何のつもりだろう。
「なるほど、たしかにそれが答えだね」
と姉ちゃんは笑った。
「クサナギ。いや、岳流。私は死んだ、君は生きてる。目の前には私の仇。諦めるの?」
「…僕はまだ負けてないの?」
「岳流がまだ戦う気があるならね。君が諦めるなら、目覚めた瞬間に死ぬことになるよ」
「じゃあ、僕がやる気なら、まだ勝てるって言いたいの?」
「うん。じゃあ、もう一回聞くよ。私は死んだ、岳流は生きてる。目の前には私の仇。君はどうする?」
「勝てるなら、勝ちたい。倒せるなら、倒したい」
これが僕の本音だ。
「じゃあ、一つアドバイス。岳流はさ、私を追いかけすぎだよ。目の前には
(バレてたか…)
「…うん。姉ちゃんを殺したサリエルを殺して、僕が姉ちゃんよりも強いって、姉ちゃんと僕を比べた奴らに証明したかった」
「うん。辛かったよね。私がいたからだ。ごめんね。私が、プレッシャーだった。強すぎるのも、考えものだね」
「でも、僕はもっと強くなりたかった。サリエルは強い。僕じゃ敵わない。姉ちゃんの仇も、アヤの仇も討てないよ」
「うーん。じゃあ、岳流の気持ちが少しでも軽くなることを祈って、今岳流が一番欲しがってる言葉をかけてあげる」
「……」
「今の岳流は私より強い。だから、サリエルにも勝てる!」
「……っ」
「頑張れ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます