第38話『クリスマスイブは一人で』
それからはしばらく何もなかった。
特に特筆することもないけれど、あえて綴るなら、冬休みだから休みらしい事をした。とその程度。スキーにもスケートにも行かなかった。
学生的には冬休みの宿題をした。
脳戦士的にはバイヤの元に毎日通った。
まあほとんどの時間を『万人の浮島』で過ごしていたので宿題はあまり進まなかったが。
毎日通ったせいもあって、十二ある『想像技法』の内、もともと使えた『想像創造』『想像負荷』『想像治癒』『想像強化』『想像創造:改』『想像治癒:改』『想像召喚:改』の七つに加え新たに『想像召喚』が使えるようになった。『想像転移』『想像破壊』は絶賛習得中であり、『想像干渉』と『想像転移:改』は半ば諦めていた。
そして四日が経った。脳戦士にしては結構休めた。
12月24日金曜日。22:21
しかしまあ、時間の経つのは早いわけで、約束の日はもう明日に迫っている。遠い昔のことすぎて忘れている人もいるかもしれないから補足しておくが、僕と弥生は明日12月25日に佐々木宅でケーキを作る約束をしていた。
その後には弥生を連れ出し駅前のイルミネーションを見に行こうと一人で計画している始末である。
『仲良し三人組☆(3)』
岳流{二人とも!明日、僕どうしたらいいかな?)
MIKU{いいんじゃない?ケーキ作るだけでしょ?自然体が一番!)
岳流{いや、実はその後にサプライズで行こうと思ってる場所があって、アレもそこで渡そうと思ってる)
ヒロキ.S{ああ、例の彼女か)
岳流{うん。そう)
ヒロキ.S{岳流もようやくこっちの仲間入りか。じゃあ、先輩から一つアドバイス。いつも通りやりな。力まないで、自然に)
岳流{うん。ありがとう)
ヒロキ.S{いいってことよ。今度ダブルデートしような)
MIKU{うん。私も弥生ちゃんに会いたいって言ってるんだけどな〜【ジト目】)
岳流{分かったって!てか、美紅の予定が合わないのが一番の原因だと思うんだけど…)
MIKU{絶対予定調節するから!)
岳流{分かった。必ず。こんな遅くに相談しちゃってごめんね。じゃあ、おやすみ)
MIKU{うん、おやすみ。明日は楽しんでね!頑張って♪)
ヒロキ.S{うん!俺らも楽しむからさ!)
MIKU{え?分かってるよね?私クリスマスライブがあるから当日一緒にいられないよ)
ヒロキ.S{知ってるよ!だから、埋め合わせを所望します!)
MIKU{うん!分かった☆いつか…ね?)
岳流{…僕もいるんだからグループでイチャつかないでもらえます?)
僕はそこまで打つと、スマホをしまった。二人のお陰で緊張がほぐれた。
ベッドの上に横たわると、一気に眠気が襲ってくる。
(…明日か)
そのまま眠って眠ってしまいたい衝動に駆られた。そして起きたら、もう明日になっていることを期待した。
目が覚めた。時計を見る。時刻は11:40。日付は12月24日だった。
もう一度寝ようと目を閉じるも、目が冴えてしまい、なかなか寝付けない。仕方がないので部屋を出て水を飲みにキッチンへ向かう。
誰も、起きてはいなかった。
脳獣達も起きているのはイツキだけで、他は寝ているらしい。
「君は寝なくていいのか?」
「俺の目的は『映画撮影』だ」
「そうだね」
イツキと初めて出会ったのはいつだったかの帰り道。
僕がいつも通りに帰っているとどこからともなくか
[……誰か、助けてくれ。俺は、まだ、死ねないんだ…]
そして僕はイツキの面倒を見て、そのまま成り行きで所有契約をした。イツキの目的である映画撮影を叶えるために、僕の人生というノンフィクション映画を撮らせることを条件に。
「思えば、あの時から僕はずっと誰かといたんだな…」
「なんだよ今更」
「いや、こういう時って一人で覚悟を決めたりするものだと思ってさ。なのに、一人になれないなって。でも、それが僕らしいのかもって思った」
「まあいいじゃん。結婚前夜には男友達で集まってワイワイ騒ぐもんだろ?昔の映画によくあるよな」
「明日結婚はしないからね?」
「なんだ。[覚悟を決める]とか言ってたからプロポーズでもするのかと思ってたよ」
「だってクリスマスデートだよ?緊張するでしょ。君もアヤカとクリスマスデートすることになったらこうなると思うぞ」
「初デートは海外のアメリカ。映画館デート。キスもしたし、お約束のサービスシーンもやったな」
「あれは不可抗力だっ!」
柄にもなく叫んでしまった。
「今の君は夜中に一人で叫んだ変人だ」
「………自重します」
「よろしい。まあさ、そう堅くなるなよ。君はもうそれ以上のことを経験してるんだから。あ、でもまあ、はっちゃけすぎるなよ?俺だってR-18映画は撮りたくねぇ」
「そこまで付き
それを聞いてイツキは笑った。
「ああ、そうだな。俺もお断りだ。さて、みんなもう寝てるけど俺くらいは付き合うぜ。脳内世界で飲まないか?それなりにいい酒買ってあるんだけど」
「僕は未成年だよ」
「脳内世界は不法地帯だろ?」
「あっちで飲んでも二日酔いあるから嫌なんだよ。頭がガンガン痛む状態でクリスマスなんか迎えられるかよ」
「飲んだことあるのかよ」
「まあ、脳戦士になりたての頃、だから君はいなかったね。
「マジか。カメラに収めたかったな…」
「やめてくれ。それを見るたびに思い出しちゃうから。こっちの姉ちゃんの写真は我慢できるんだけど、ユイの写真とかはダメなんだよ。今でもキツイ」
「そっか…。まあ行こうぜ脳内世界。ジュースくらいあるだろ」
「そうだね。そうでもしないと寝られなそうだ」
ふと、天窓から光が漏れていることに気づいた。
電気をつけていないこの部屋を明るくしていた。
月は出ていないから、街灯か何かがついているのだろう。
部屋に戻ろうとする足を止めて、僕は天窓を覗き込んだ。
明日起こる出来事に期待を寄せながら、窓の外の曇り空を徒然なるままに、眺めていた。
「どうした?行こうぜ」
その声で我に返った。
「ああ、ごめん。今行くよ」
世話焼きな脳獣のせいでそれは叶いそうにもないが、それなりに楽しいクリスマスイブだった。
夜も遅かったからすぐにイブは終わり、日付が変わった。
それからもしばらく飲み会は続いた。
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