第23話『第33回隠れ家会議』
脳内世界某所
二人の男が話していた。
「ユイの弟、この一年でずいぶん強くなったな」
「そうですね、No.8でしたっけ?」
「ああ、きっと奴はそれだけでは終わらない。いつかNo.1を奪う日がやってくるだろう」
「ならば、早いとこ殺しておくべきでしょうか。姉のように」
「あの姉の死に方は良かった。弟はもっと苦しんで死んでもらいたいものだ」
「ならばこの私に良い考えがございます」
「そうか、なら任せるとするか。期待してるぞ」
同刻。『千の塔』一階『地上庭園』の南東『隠れ家』のリビング。
「これより、第33回隠れ家会議をはじめます。起立、気をつけ、礼」
「「「「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」」」」
「本日の議題は私、ユイカが発表させていただきます。今日の議題は一つ。ユイの仇について、とことん話し合っていきたいと思います」
僕は立ち上がって発言する。
「前回は姉ちゃんを殺すメリットや目的を考えました。今回もその方向で行こうと思います」
そう言い終わると、アヤが勢いよく立ち上がった。
「はい!あの、私から一つよろしいでしょうか?」
「どうぞ。どうしたの?改まって」
イツキが聞いた。
「実は、前の隠れ家会議で考えたんだけど、言えてなかったことがあって...」
発言するアヤの顔を見る。相手の目を見て話し、聞く。常識的なマナーだ。だけど、アヤは僕に見られていると気がつくと、目を逸らした。
(まあそりゃ、当然だよな...)
ここでしばし回想をする時間を設けさせてもらおう。なに、さっきの『親隠れ』での真実を知ってもらおうと思っただけだよ。
**********
僕らはキスをした。ファーストキスは甘酸っぱいと聞くけれど、この時の僕はキスの味を考える余裕などないくらいに舞い上がっていた。
故に気づかなかった。後ろから近づく、駄菓子屋のおばちゃんに。
「あれまあ、若いって良いわね」
「「......っっ〜〜〜〜!!」」
勢いよく振り返った僕らは、エクスクラメーションマークを二つもつけるほど大きな、声にならない悲鳴をあげた僕らは一目散に逃げ出した。背後から
「ごめんね〜邪魔する気はなかったのよ」
という声が聞こえたが、立ち止まることはなかった。この時の僕らはただ、早くこの場から立ち去ることだけを考えていた。走っているうちに家に着いていた。「さよなら」を言うことなくお互いの家に駆け込み、「ただいま」を言うことなく自室に駆け込もうとする僕をユイカが止めたのだ。
「そうだ、岳流君。今日、今月分の隠れ家会議やるから準備しといて。弥生ちゃんにはもうメールしてあるから」
**********
ということで今に至る。
アヤは、やったことを恥じているのか、見られたことを恥じているのか分からないが、あの時のことを恥じているのは手に取るように分かる。そのアヤのセリフはまあ
「と、いうことで、私は考えたのです。I think that the criminal's purpose might be to become No.1」
「ごめん、分からない...」
「っ〜〜。
「......?」
(なんて言ったんだ?)
隣に座るユイカがこっそりと聞いてくる。
「なんかあったの?」
「えーと、なんかあったのか聞かれて、なかったと答えると嘘になるんだけど...なかったと答えさせてほしい」
「うん、察した。分かった、ごめんね」
「いえ...察されました」
「アヤさんは[私は犯人の目的はNo.1になることなのではないかと考えました]と申しております」
流石アメリカ出身の脳獣と言うべきか、ファルコンが翻訳する。
「No.1に?その根拠は?」
と言ったのはリカール。
「특별한 이유는 없지만, 그것밖에 생각할 수 없었으니까요」
「何語?」
「韓国語です。アヤさんは[特に理由はないけど、それしか考えられなかったから]と申しております」
「アヤって何ヶ国語話せるの?」
イツキが聞いた。僕としては、何故アメリカ出身のファルコンが韓国語を通訳できるのか知りたい。
「Около десять языков」
「アヤさんは...」
「言わなくていい、通訳しなくていい、知りたくない。怖くなってきた」
「そうですか」
「あのさ。頭が真っ白になると外国語を話すその癖、そろそろやめてくれる?」
「...分かった。落ち着いてきた。今なら話せる。ちなみにさっきのはロシア語。訳は...」
「もういい、その件は無かったことに」
「そう...そんな驚くほどでもないのに...」
ボソッと言った。
「なんか言った?」
「ううん、何にも。話戻そっか」
「でも、弥生。君の意見が正しければ犯人はあの人ってことになるんだろうけど...」
「うん、まず間違いないと思う。そう思い始めてから調べたの。あの男の素性。髪の毛は一年前まで赤かった。なのに、前から黒かったと認識させられてる。全脳戦士及び全脳獣に対しての強い催眠。きっとそんな脳力を使ってる」
「きっと彼は、その脳力を隠してるんだろう。幹部も報告されてないから使える脳力の欄にそれがないんだと思う」
「このまま、幹部に連絡して捕まえてもらってもいいと思うけど...」
アヤが言うも、僕が反論する。
「そもそも決定的な証拠がないだろ?それに、やっぱり僕は...」
みんなが僕に注目する。
「でも、やっぱり僕が、あいつを殺す!」
「...クサナギ」
「......アヤ。君は優しい。でも、僕の中にあるこの感情は、優しさだけじゃ解決できないんだ。止めるなら、僕は君を拘束してでも...」
「ストップ!」
みんなの視線が今度はリビングの入り口に向けられる。そこには、神がいた。
「よくそこまで辿り着いたね。すごいよ、みんな。ところで、クサナギ。君が奴を殺したとする。で?それからは?君は人殺しとして、これからの何十年という人生を歩んでいくんだ。脳内で起こったことだから、警察は動けない。でもな。事実が消えるわけじゃないんだよ」
「......でも!」
神は、僕に反論の余地を与えない。
「別に説教しに来たんじゃない。お前にその覚悟があるのか聞きに来たんだ。あるならやればいい。俺は止めない。ただ、それで後悔するなよ。自分の最善だと思う道を行け」
「.........」
「最後に。君たちが犯人だと思っている奴は、ユイを殺していない。それでも、彼が人を殺めたことがある。もし、そう言ったら?それでも君は、彼を殺す?」
「...分からない」
そう思った。自分でも、何をしでかすか分からない。
「そう。先のことは誰にも分からない。だからこそ、自分が思うその時の最善の道を選べ。それだけだ」
「.........」
「それともう一つ。これが俺がここに来た本題なんだけど、脳皇から直々に、クサナギに依頼したい」
「
「そいつは、直接的であれ、間接的であれ、何人も人を殺している。だけど、証拠がない。これは最近ようやく掴めた情報なんだけどさ、『
「......」
僕は歯を強く噛み締めた。
「それじゃあ、調査及び捕獲または殺人よろしく頼むぞ」
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