第24話『姉ちゃんの友人』
翌日、12月9日木曜日。
道路には、昨日降った雪が、まだ溶けきらず、残っていた。
そんな日は外出する気にもならず、僕は自室で本を読んでいた。
その本の題は、何を隠そう弥生の愛読書『使えたらかっこいい日本語辞典』だ。もう二度とあんな失態を起こさないように買った。
母さんも父さんもユイカも出かけていて、家には僕しかいなかった。
そして、午後の二時を回った頃、その客はやってきた。
ピンポーン
と、インターホンの音が異常なまでに静かな我が家に響き渡る。
「はーい」
(誰だろう?)
と思いながらも僕は扉を開けてその人を出迎える。否、その人達を出迎える。そこにいたのは二人組の男子高校生。予想外の展開に戸惑っているようだ。
「「.........」」
「どちら様でしょうか?」
「あ、弟君かな?オレたち佐々木の友達なんだけど、佐々木いる?」
と一人が言う。スポーツをやっていそうな見た目だ。
「バカ、この家にいる人はみんな佐々木だろう。由祈さんいますか?」
ともう一人が言う。真面目そうな顔をしている。
「ああ。姉ちゃんは今、母と一緒に買い物に行ってるんですけど、何か御用ですか?」
僕が聞くと『自称姉ちゃんの友人
「そうなんだ。ありがとね弟君。名前は?」
「佐々木岳流です」
「かっけーじゃん、タケルだって。どう書くの?」
さらに『自称姉ちゃんの友人
「
「へー、オレの名前は
「ぼくは、
(どうやら
南原さんが手を出してきたので握る。
「ずるいぞ南原。オレもよろしくな」
「はい」
遅れて手を出してきた北山さんとも握手をする。
その手を離して相手の出方を見る。
「「「......」」」
しかし、しばらく間を置いても帰らなそうだった。
「あのー。どうかしました?」
「上がって良い?」
「だっ、ダメです!」
「ならここで話そうぜ、岳流。姉ちゃんのこと話してやるよ」
「ま、まあ、そのくらいなら...」
昨年の、10月30日、姉ちゃんは死んだ。中学3年生だった姉ちゃんはちょうど進路について考えていた頃だった。
**********
「あのね、今日行った高校見学にね、面白い二人組がいたの。なんか[good school lifeを送ることが目標]って言ってる男子なんだけどね、私が二人と話があってさ。二人がそこ行くって言ってたから、私もそうしようかな...って思ってるんだけど、どう思う?成績的にはもうちょい上狙えるって先生は言ってるんだけど」
夜、父さんと母さんがリビングで晩酌をしている時刻、姉ちゃんが僕の部屋に来て言った。
「へー。いいんじゃない。姉ちゃんの好きに生きなよ」
僕は素直に思ったことを言った。
「ふふっ、ありがとう。先生とお母さんとお父さんを説得しないとね」
「微力ながら、僕も手伝うよ」
「重ね重ねありがとう」
「こちらこそ...いつもお世話になってるし...」
姉ちゃんにとはいえ、感謝されれば照れるものだ。
「多分あの二人と一緒にいれば、高校での友達作りは大丈夫だと思うんだよね!」
「そんなにすごい人なんだ。会ってみたいなその人達」
僕はその人達に興味が湧いた。
「メールのID交換したから、高校受かったらうち呼ぼうか」
「男子でしょ?平気なの?」
「大丈夫だよ。集人君と道男君っていうんだ。きっと岳流とも仲良くなれるよ」
「そっか、楽しみだな!」
僕は心の底から本当にそう思った。
「うん、私も!」
この頃、この話は現実になると思っていた。
**********
結局姉ちゃんはその高校を受けることになったのだが、10月30日、姉ちゃんは死んだ。入試は[由祈の行きたかった高校、何が何でも受かってやる]と張り切っていたユイカが受けた。そしてユイカは見事合格。そして、高校で姉ちゃんの友達と会って、仲良くなったのだろう。
「それでさ。由祈と3人で、新しい部活を作ろうって話になってな。[高校行ったら部活でいっぱい青春を謳歌するぞ!]って話してたのに、先生達ったら[部活作りは認めていない!]って言ってきてさ。それからオレ達...」
そして、気になったので、聞いてみることにした。
「もしかしてgood school lifeの人ですか?」
「あれ?もしかしてお姉さんから聞いてる?」
「はい、高校見学で面白い人たちにあったと」
「そっか...」
「姉ちゃんと[会いたいなー]って話していて、やっと会えたので、嬉しいです!」
「オレもだよ!岳流!」
「ぼくも。佐々木の弟君と会えて嬉しいよ」
それから僕らは姉ちゃんの事、僕の事、二人の事、色々な事について話した。気がつけば、いつのまにか日は暮れていた。
「ありがとな岳流、今日は楽しかったぜ」
「はい、こちらこそ。姉ちゃんが学校でどんなふうに過ごしてるのか、知れてよかったです」
「それは良かった。それと、お姉さんが帰ってきたら伝えてくれる?『クリスマスの日、学校の校門前で待ってるから遊ぼう』って」
「はい、必ず」
「じゃーなー。岳流ー!」
「また会おうねー!」
そう言い残して二人は帰って行った。
最初から最後まで元気な二人だったと思った。
姉ちゃんにも友達がいた。優しい優しい友達がいた。なのにあいつはそれを壊した。許されない行為だ。もし、あの二人が姉ちゃんが死んだことを知ったらどんな顔をするだろうか。少なくとも、僕は見たくないと思った。
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