第22話『雪の降る帰り道は二人で』
「雪降るなんて言ってなかったのに」
弥生は天気予報の話でもしているのだろう。
「でも、クリスマスイブは降るって言ってたよ。クリスマスにはたくさん積もるだろうって」
何が言いたいんだよと自分でも思う。
「クリスマス...」
「何か予定があるの?」
「そういう岳流はどうなの?」
「僕は...」
予定はあるものの、そこまで重要な予定じゃない。別に僕がいなくても事足りるだろう。
ただ弥生に[なら...一緒にいる?]とか言われると、なんか困る。なぜかは分からないけど嫌だ。
いや、もう分かっているのかもしれない。でも僕はまだ素直になれなかった。
「確かあったな。うん、あった。絶対に外せない予定が」
「そうなんだ...」
弥生は少し落ち込んだリアクションをする。
「私は、何もやることがなくて。お母さんもお父さんも仕事が入ったって言ってた。まあ、お金を稼いでくれてるんだから感謝しないといけないんだけどね...」
その落ち込んだ顔と理由に僕は
「...暇なら、一緒にやる?」
と言っていた。
「えっ⁉︎いいの?」
びっくりした顔で弥生は聞いてくる。僕は当然のように返す。
「いいよ、当然だろ。友達なんだから」
「友達〜?」
弥生は、怒るように頬を膨らませながら言った。
僕はそれを見て、頭を軽く掻きながら考えた。小さくため息を
(そろそろ認めて、正直になる頃なのかな...)
「彼女なんだから...」
それを聞いて弥生は笑う。
「やっと彼女って認めてくれた。デートもしたし、手も繋いだのにまだ彼女って認めてくれないから...」
「言うのが恥ずかしかったんだよ...」
僕の顔は真っ赤だ。
「それはそうと、その用事ってのが、母さん達とクリスマスケーキを作ることだから、エプロンとケーキに入れたいフルーツを持ってきて」
「......え?料理?」
「うん。姉ちゃんも母さんも料理が得意だから、冬休みの暇な時間を使ってクリスマスケーキは自分たちで作るんだ。まあ、今年作るのはユイカだからどうなるかは知らないけどね」
過失だった。とりあえず、この時のムードがいい感じでなかったら、今の僕が殴りに行くぐらいの過失だった。
この時の僕はまだ知らなかった。弥生の料理センスがボロボロであることを。どのくらいかというと、『塩と砂糖を間違えるのは日常茶飯事』『コンロを使えば生焼けか丸焦げ』『冷凍食品でさえ食べられた物じゃない』その結果、明日香さんにキッチンへ入ることを禁じられたそうだ。
「...行く」
しかし、気を遣わせたくない弥生はこう言った。弥生の料理センスの無さを知った日には精一杯謝ったのだが、それはまた、別の話だ。
「分かった。ところで、弥生って普段どんな物作るんだ?弥生の手料理食べてみたい」
この気を使えない発言にツッコみたい気持ちは分かりますが、全読者を代表して代わりに今の僕が反省しておきます。とはいえ、優しい弥生は
「(お母さんが作り置きしてくれた)味噌汁とか、(カップ)ラーメンとかかな?」
「へー、すごいじゃん。やっぱり弥生ってなんでもできるよね」
「......あ、ありがとう。そうね...なら熟語ことわざ慣用句を使って私を褒めてよ」
嬉しそうに微笑み言う弥生。
突然のオファーに戸惑う僕。
「えっと...」
「早く〜」
「
「他には?」
「花蝶風月のような美人。とか?」
「花鳥風月をなんだと思ってるの?」
僕は自分の知ってる通りに話す。
「この世の美しい四つのことだろ?花、蝶々、風、月」
「花鳥風月のチョウは鳥よ」
呆れた口調で言ってくる。
「はっ⁉︎えっ?マジで?」
「ちなみに意味は自然の風物。あなたは私を野生の猿だとでも思ってるのかしら?」
「いや、人には得意不得意があって、僕はそういうのは不得意の分類になるのだけど...」
「あと見た目ばっかりね。あなたは私の顔が好きなのかしら?」
「いや、そう言う訳じゃ...えーっと、
「あら、上手くできるじゃない。『色』の意味には触れないでおいてあげるけど...他には?」
「えっ?えーっと、うーんと」
「全部四字熟語だからことわざとか欲しいな〜」
「こ、ことわざ⁉︎えーと」
どんどん慌てていく僕を見て弥生は楽しんでいるようだった。
「すみません。もう無理です」
「ふふ、からかってごめんね?」
(よし、誤魔化せた...)
同刻。僕らの頭上より、イツキ、アヤカ
「
「え?」
「『
「アヤカ⁉︎」
「ふふ、これは『
「もう『三連スペル』使えるようになったのか?」
「まあ、封印解くだけだったし、今は制御する練習。だから来ちゃった。『
「今のは『遠距離観賞の三連スペル』と言ったところか?」
「まあそんなもん。それにしてもあの二人、やっぱり仲良いね」
「ああ、俺たち邪魔者だな」
「お先に帰った方がいいかしら?」
「そうだな。おーい」
「『
「
「『
「ぷはっ!やめろよアヤカ。俺は先帰ってるって伝えようとしただけなのに...」
「余計な発言はしちゃダメ!二人の邪魔はしちゃダメだからね!それに、弥生にはもっと強くなってから会いたいし」
「そっか...分かった」
「じゃあ私はこれで。また来るね!」
「うん。待ってる」
同刻。そこから少し離れた上空より、セイ、サスケ、テルビン、ファルコン
「イツキ殿とアヤカ殿も仲が良いですな」とセイ
「もっともでござる」とサスケ
「いいな...」とテルビン
「テルビン殿、貴女も思い人を御所望で?」とセイ
「いや、そう言う訳じゃないんです。ただ...あんな風になんてことない話で盛り上がれる人がいるっていいな。と思っただけです」とテルビン
「ここに拙者達がおります」とサスケ
「ああ、俺は弥生さんの所有脳獣だけど、岳流の所有脳獣であるみんなとも仲良くするかんな」とファルコン
「ありがとうございます、みなさん」とテルビン
「あれ?岳流殿は?」とセイ
「本当だ、弥生さんもいない」とファルコン
「どこかしら?」とテルビン
「二人きりにさせて差し上げましょう。イツキの言葉を借りるならば拙者たちは邪魔者でござる」とサスケ
「そうだな」とファルコン
数刻後、僕、弥生
「みんなついてこないわね」
「さっき自分たちは邪魔者だって聞こえた」
「それでか...」
僕達二人は商店街の路地裏、中学生の間で『親隠れ』と呼ばれているところに来ていた。人目につかない。故にデートスポットや、怒った親から逃げ隠れる場所として使われているが、今は雪が降っているので他に人はいなかった。
「あのさ、前、告白した時、なんか
「もちろん」
「あの日、あなたにもう恋していました。好きです。付き合ってください」
「はい...」
僕らはキスをした。ファーストキスは甘酸っぱいと聞くけれど、この時の僕はキスの味を考える余裕などないくらいに舞い上がっていた。
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