第20話『アメリカデート:帰国編』

 そのままドッペルゲンガーを『アメリカの脳戦士幹部』に引き渡し、ドッペルゲンガーは僕をコピーすることをやめた。そして、弥生経由翻訳で、僕の安全が保証された。

「クサナギより申請,退場,千の塔,100階,円形闘技場」


(ミルヒルの説明だけじゃよく分からなかったから、後で弥生に聞いてみよう)

 と思っていると、弥生がこっちの世界でようやく姿を現したルドルフと話している。

「(約束は守るわ。いくら払えばいいの?)」

(相変わらず、発音いいな...僕からしてみたら逆に聞き取りずらいけど...)

「(そうだな...普段の俺があのレベルの脳獣を倒した場合、5000ドル(日本円で約500000円)くらい貰いたいところなんだけどな、ここはオマケして0ドルタダで手を打たないか?)」

「(いいの⁉︎)」

 弥生が大きな声をあげる。周りの目が彼女に向いた。恥ずかしかったのか彼女は口を手で押さえ、下を向いた。そんな弥生に向かってルドルフは声をかける。

「(ああ、だってあの男、日本の元No.1の弟だろ?『灰の目Ash eye』に『想像創造 Imagine createこっちアメリカまで伝わってきてるよ。というか、そもそもあいつドッペルゲンガーは俺に対する『支部長』からの依頼だったからな。むしろ君たちに手伝ってもらったくらいだ。礼を言うよ)」

「(は?だましたの?)」

「(良いじゃないか、日本のことわざにこんなのがあったぞ『終わり良ければ全て良し』)」

「はぁ...まあ良いわ。それはともかく岳流、褒められてるよ。お礼お礼」

 見ているだけだったのに急に振られてびっくりした。

「えっ、でも僕英語話せないし...」

 弥生は[はー...]と溜息を吐くと言った。

「私に続けて言って...」

「分かった」

 僕はうなずいた。

リアリー本当ですか?」

「りありー?」

センキューありがとうございます

「さんきゅー」

アイムハッピー私は嬉しいです

「あいむはっぴー」

アイニューユートゥー私もあなたを知っていました

「あいにゅーゆーつー」

バッドアイディドゥントゥノウでも私は知りませんでした

「ばっとあいじずんとのー」

ユーアーソーストロングあなたがそんなに強いってことを

「ゆーあーそー...」

(ユーアーソーストロング?それくらい僕でも分かる。『ユー』が『あなたは』『アー』が『〜です』『ソース』が『ソース』でも、『トロング』ってなんだ?......あっ!『トング』か!だから『ユーアーソーストング』は『あなたはソースのトングです』)

「...何が言いたいの?悪口?」

 僕が英語を喋れないからって悪口を言わせようとしてもそうはいかない。

「えっ?何が?」

 僕が問い詰めても悪びれることなく話す弥生。それに対してルドルフは

おーOhセンキューthank you

 なんて言っていた。

(やっぱり英語は難しい)

「(それで、俺はお前らがどれだけ強いか知りたい。対人戦は得意か?)」

「(はい、私は一応)」

 ルドルフが聞き、弥生が答える。僕にとってはさっぱりだ。

「(それで、順位は?元No.1の弟とそのなんだしさぞ高いんだろうな)」

「(ガールフレンドですか...残念ながら彼は認めてくれません。順位でしたら私が16、彼は8ですよ)」

「(ははは...そうなのか。それはともかく、戦わないか?明日でもいい。なんならどちらか一人でもいいぜ)」

「(明日、私たちは日本に帰るし、岳流は戦えない。対人は不向き、『灰の目Ash eye』を見れば分かりますよね?それに、彼は人を切れない。私でよろしければ今日の夕方に相手して差し上げます)」

「(言えないような事情があるのか...。分かった。それで)」

「オーケー」

 弥生はルドルフに軽く手を振った。


 そのまま帰ろうとする弥生を横目で見つつ、僕は文明の利器スマホを取り出して、ルドルフに見せる。開いたアプリは翻訳アプリ。その文面は『アヤにぴったりの脳獣って心当たりありますか?』

「(何故だい?)」

 僕らはアプリを介して話す。

『弥生のたった一体の所有脳獣が、つい最近、イギリスに『修練』に行って、寂しそうだったから』

「(そういうことなら、一体紹介するよ。最近『脳戦士幹部アメリカ支部』で脳獣の保護と、戦闘に向けた育成を行なっているんだ。その中から一体選んで、今日の夕方彼女と会う時に連れて行くよ)」

「お願いします!」

「岳流ー!何話してるのー!先行っちゃうよー!」

「あっ、行かなきゃ。シーユー」

「(またな!)」


 そのままルドルフと別れた僕らは伯母さんの家に帰った。

「あー、疲れたー」

 弥生が言った。

「そう?」

 僕が言うと、すぐに反論してくる。

「あのね、あなたには分からないと思うけど、英語を同時翻訳して返すのって結構疲れるんだからね」

「...そうなんだ。お疲れ様です」

 僕は素直に労いの言葉をかける。弥生は耳まで赤くしてそっぽを向いた。


 そのあと、弥生に[本当はお金が取られるはずだったんだけど、岳流の未来に期待してタダにしてくれるって]と聞かされた。


 その日の夜

 寝室にて僕らは会話をしていた。

「じゃあ挨拶して。こちら、『鳥人』の脳獣『ファルコン』」

「へー、見えないんだけどね...ハヤブサか、いい名前じゃん。弥生のことを守ってくれよ」

「はい、分かりました。これからは俺が守るかんな。弥生さん」

 カッコつけてファルコンが言う。でも、僕は彼に対して無性に腹が立った。

「弥生には聞こえてないよ」

(ルドルフさん、なんでこいつ選んだの?何?三角関係ラブコメ好きなの?あの人)

「もう、頭撫でないでよ」

(は⁉︎僕が見えないからってこいつそんなことしてるの?許すまじ)

 そのタイミングでトントントンと扉がノックされた。

「岳流、弥生ちゃん。起きてる?会わせたい人がいるんだけど」

 伯母さんだった。

「二人とも起きてるよ」

僕が返す。

「よかった。入っていいって」

(そこまでは言ってないでしょ。やっぱりこの人ぐいぐいくるな...)

 扉が開いて入ってきたのは大学生の女子(大学生は女性だろうか?)

「初めまして、涼鈴すずです。岳流とは、従姉弟いとこ。だから、弥生ちゃんとも従姉妹いとこになる訳だ。ふふ、妹欲しかったんだ!よろしくね!」

「あ、はい。よろしくお願いします」

 と言いながらも、弥生は少しひいている。だって、抱きつかれた上にほっぺすりすりだよ?弥生の中にはないコミュニケーション手段だ。

 そして涼鈴さんの攻撃は僕にも飛んできた。

「いやー、岳流の彼女がこんなに可愛い人でよかったよ。まさか、傷つけたりしてないよね?」

 僕は明後日の方向を向いた。

 心当たりが多すぎる。

「...その反応は、図星だな?私の弥生ちゃんを傷つけたらダメだぞ!」

「はい...というか私のって何?どちらかというと弥生はぼ...」

「「ぼ?」」

「何でもない!」

 僕は叫んで布団に潜り込んだ。

「岳流さん。弥生さんは俺がもらうから岳流さんはこの人涼鈴と結婚しろよ」

 布団の中からでもファルコンの声が聞こえた。正直、どう苦しめてやろうかと考えた。


翌日、12月6日月曜日。早朝。

 帰りの飛行機の中、僕は言った。

「行きの飛行機の時のことなんだけどさ...『羊頭狗肉』について『言いたいだけ』なんて言ってごめん」

 その言葉は静かな機内に独り言として広がっていく。

「...許さない」

 弥生も呟いた。

「えーと、反躬自省はんきゅうじせい。今回のことで感慨無量かんがいむりょう、君を傷つけちゃいけないと身にしみて分かったよ」

「ふふ、そう...」

「なんで笑うの?難しい言葉使いたくてネットで検索したのに」

「そうなんだ、別に気にしてないのに。それに、ありがとう。アメリカデート、楽しかったわよ」

 僕らは、それ以上何も言わなかった。




__________________________________

お詫びと訂正

 当初、ファルコンは作品の始まった時点で弥生の所有脳獣であるつもりで書いていたのですが、途中で計画を変更し、このタイミングでの初登場となりました。

 しかし、添削のミスにより、第23話『第42回隠れ家会議』で、既にファルコンを登場させてしまいました。誠にお詫び申し上げます。そちらは既に訂正済みですので、ファルコンの登場はこのタイミングである。との考えでこの先もお楽しみいただけたら幸いです。

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