第17話『アメリカデート:実行編』
翌日、12月2日木曜日
空港にて僕と弥生は落ち合った。
「楽しみね、岳流」
「そう、だね」
僕は控えめに言う。
「もう、もっと笑って。笑う門には福来るだよ」
(緊張してるんだよ!)
「二人とも楽しんでくるんだよ。岳流君、弥生のことよろしくね」
「はっ、はい」
見送りに来てくれだ弥生のお母さんが言った。そうして僕らはアメリカへと旅立った。
飛行機の中、弥生は隣の席で映画を見ていた。
「ねえ弥生、それ面白い?」
「暇だから見てるだけで
「ずっと思ってたけど最後の羊頭狗肉って必要?言いたいだけじゃない?」
「...っ〜!もう寝る!」
と言った。弥生はそのまま映画を消してタオルケットを被った。きっと寝たふりだろうが、話しかける気にはなれなかった。
翌日、12月3日金曜日
「岳流!弥生ちゃん!ようこそアメリカへ!飛行機、疲れたでしょう。表で旦那が車停めてるから家まで飛ばすから車で少し休んで、思う存分楽しんでね!」
アメリカに着いた僕らは空港にて、伯母さんに迎えられた。
「はいっ!私、今日をずっと楽しみにしてたんです。今私、天にも
ちらっと僕の方を見てきた弥生の視線が痛い。
そのあと僕らは伯母さんの旦那さんである峰彦さんの運転する車に乗って伯母さんの家に向かった。
アメリカに住んでいるだけで、伯母さんの家は全員日本人だ。
峰彦さんの車は左ハンドルで弥生は写真を撮らせてもらっていた。それからも弥生は楽しんでいて、僕とも話してくれた。別に怒っているわけではないのだろうが、難しい言葉は一度も使わなかった。
「さあ、ニューヨーク観光と行こうか」
伯母さんの家に着いて、荷物を置くと、伯母さんが楽しそうに言った。
「はい、楽しみです!」
弥生も嬉しそうに言う。
「弥生がいると通訳がいらないからいい」
僕がつまらなそうに言う。弁解しておくが、本当につまらなかったわけじゃない。ただ、弥生とのデートを意識していると悟られるのが嫌なだけだ。
僕達は歩いてニューヨーク市内を観光した。
「見える?あれが『自由の女神』英語では"Statue of Liberty“」
「へー、あれが。大きいんですね」
弥生が感想を述べる。確かに大きい。
「全長93メートル。でもね、日本のとある像には負けるんだけど」
伯母さんの話に僕は食いつく。
「牛久大仏だね、茨城の。全長120メートル」
「正解だけど、私は弥生ちゃんに答えて欲しかったのにな...」
残念そうな顔をする伯母さん。しかし残念なことに、弥生は文系は引くほどにすごいのに、こういった雑学や豆知識には興味を示さない。僕が答えなければ、弥生はずっと黙ったままだっただろう。
「弥生ちゃーん!写真撮ろうよ!」
「はいっ!」
自由の女神に近寄った伯母さんに呼ばれて弥生は走り出した。
「岳流もー!」
「そんなにはしゃぐとすぐバテるよー!」
僕は渋々二人の元へ駆け寄る。
「いーの!(すみません。写真撮ってもらえますか?)」
伯母さんが現地の女性に話しかける。
「(あっ、はい。) Say cheese!」
「「Cheese」」「チーズ」
「(ありがとうございます)」
アメリカの『はいチーズ』は『Say cheese』である。訳すと『チーズって言え』(だって命令文だしそうじゃない?)それに『Cheese』と答える。まあ、英語のスピーキングが苦手な僕からしたら、無理な話である。そして、それからしばらく僕らはアメリカを楽しんだ。
「はー、疲れた。さすがに歳かしらね」
「お疲れさまです。私達は楽しかったですよ」
弥生は疲れ果てて机に突っ伏して座っている伯母さんに感想を伝える。
「いやー、若いね。私もう無理、明日案内できないかもしれない」
まあ、あの母さんの姉だ。年はもう3...やめておこう。身内とはいえ、女性の歳を計算するのは、いささかマナー違反だろう。
「ねえ、明日は二人で行ってきてくれない?大丈夫よ。二人なら安心だし」
「「はあ...」」
そういった約束をして、今日の観光は幕を閉じた。
その夜。お風呂を出た僕は[岳流の部屋はいつものところだから]と言われて部屋に向かう。この家には何度か来ていて、僕と姉ちゃんも母さんで泊まりに来た時はこの部屋に三人で寝たのである。とりわけ、僕らのための部屋ではなく、客間と言った部屋なのだが、ここだけ和室で、布団を敷いて寝る。伯母さんが日本を思い出すために和室にしたのか、僕達日本人を招くために和室にしたのかは分からないが、僕はこの部屋が結構好きなのだ。そう思いながら部屋の前まできた。
(疲れたから早く寝たい)
そう思いながら扉を開くと、そこには既に弥生がいた。
言葉が足りなかったな。
そこには着替え中の弥生がいた。
状況を説明するなら...下着は着ていたが、上下ともにそれだけで、右手にパジャマを掲げた状態でフリーズしていた。
やがて弥生は目を見開くと、そこまで取り乱すことなく素早く毛布に包まって、僕を睨む。
「...出てってよ。早く出てってよ」
「ごっ、ごめん」
ノックでもすればこの事故は未然に防げたかもしれないけど、普段は母さんと姉ちゃんがいる部屋だし、二人は自室で着替えたりしないからあの部屋に対してノックするという意識がなかったのがいけないのだろう。僕は弥生から逃げて、伯母さんの部屋に行く。
「伯母さん。今、部屋にや、弥生が、弥生がいたんだけど...」
「あー、そのことね。一緒の部屋でいいでしょ?寝られる場所あそこしかないんよ」
「なら...分かったよ。でも、弥生には伝えたの?」
「別に伝える必要ないかなーって。平気でしょ?」
僕はそれ以上何も言わなかった。その感情の名前は『
その後僕は、律儀にノックした後で部屋に入り、またしても寝たふりしているであろう弥生に今度は「おやすみ」と声をかけると毛布に包まった。
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