第16話『アメリカデート:計画編』

翌日、11月29日月曜日

22:53

 何事もなく一日が終わった。

 アヤカが戻ってくるまで残り364日。

 弥生は、学校では楽しげに振る舞っているけど、一人の時は寂しそうな顔をしている。その顔を見るたびに

(なんとか励ましてあげたい)

と思った。

 その願いが届いたのか、テレビを見ていると伯母からスマホに電話があった。

「もしもし」

「岳流?久しぶり、元気だった?声低くなった?会いたいわ」

 いつも通り、ぐいぐい押してくる元気な声だった。

「急にどうしたの?」

 だから僕は、冷めた口調で答える。これで、会話の温度はプラスマイナスゼロだ。

「どうしたもこうしたもないわ、『カノジョ』できたんだって?美冬岳流のお母さんから聞いたわ、おめでとう」

「そんなことのためにわざわざ連絡を?国際電話高いんだから」

 伯母の小雪こゆきは夫の仕事の都合上アメリカに住んでいる。

「まさか、カノジョさんに会いたいから連れてこっちきてほしいなと思ってさ。お金はこっちが持つから。ね?」

「聞いてみないと、なんとも言えないけど...」

「じゃあ聞いてきて。いい知らせを待ってるよ」

(弥生とアメリカか...悪くないかもな。弥生をはげますいい機会になる)

「何にやけてんのよ」

 振り向くとそこには母さんがいた。

「母さん、伯母さんに弥生とのこと話したの?」

「もちろんよ、なんなら私と連絡先交換してる人はみんな知ってるわよ」

 僕は母の行動に声が出なかった。

「...どうかした?」

「伯母さんが弥生に会いたいから一緒にアメリカに来てくれって。お金は向こうが払ってくれるってさ」

「あらいいじゃない、久々のアメリカ。私も行きたいけど...二人だけで行ってらっしゃい。私は日本で明日香さんとお茶でもしてるわ。あ、お土産はお菓子ね」

 母さんはいつも通り即答した。この人は本当に決断力が高いのだ。そしてその素早く出した答えがほとんど正しい。でも、今回の決断は僕的には正しくなかった。

 本音と建前。『弥生を励ます』はあくまで建前。本音は別にある。

[『カノジョ』さんに会いたいから連れてこっちきてほしいなと思ってさ]

[『二人だけ』で行ってらっしゃい]

 旧矢口やぐち(母さんの旧姓)姉妹しまいの発言を頭で流しつつ、僕はある単語を脳内検索にかけた。


デート: 男女が日時を決めて会うこと。また、その約束。


(これって、『デート』だよね。しかも『初デート』まあ、『バイヤ』の時に家の前で落ち合ったのはデートではあるまい。条件は満たしてるけど...)

 僕個人としては、僕らをまだカップルとは認めていないのでこの『カレカノ』がするであろうこの行為デートは例え目的が『弥生を元気付けること』であっても、乗り気ではなかった。

(母さんに肯定されては弥生に断ってもらうしかない。さしもの母も、弥生の言うことは聞くだろう)

 そう思い願い僕は口を開いた。

「でも弥生に聞いてみないと」

「それもそうね」

 流石の即答。もし、脳戦士の判断基準に『決断力』があったらきっと母さんは脳戦士になれていただろう。そして母さんは携帯電話を取り出して弥生の母明日香あすかさんに電話をかける。

「あら、もしもし明日香さん?その声聞く限りだと元気そうね。あのね...」

 しばらく話した後、母が電話を切る。

(どうか断ってくれ弥生)

「明日香さんいいって、弥生ちゃんはもう寝てるそうだけど行かせたいって」

「そ、そうなんだ。僕ももう寝るね」

「おやすみなさい」

(今日はとても疲れた)


翌日、11月30日火曜日

学校で弥生と会った。

「ねえ、岳流。今朝お母さんから話聞いたわよ、アメリカ。私、海外は前にハワイに行ったくらいなんだけど大丈夫かな?」

 どうやら『行く』方向で話は進んでいるらしい。だからこそ僕は自分の意見をはっきりと言おう。

「僕は行きたくないけどな。だって弥生と二人、伯母さんがいると言っても飛行機とかでは二人きりだしデートみたいじゃん。なんか、恥ずかしい」

「いいじゃないの、私たちの初デート。アメリカなんて素敵じゃない。いつ行こっか?」

「いつでもいいって伯母さんは言ってた」

(僕はなんで肯定するようなこと言ってるんだろう。でも、弥生がいいならそれでいいかな...)


 そしてその日の。再び伯母小雪さんから電話がかかってきた。

岳流。元気?」

「もう寝るところなんだけど...」

「そうか、そっちは夜か。でさ、アメリカデートの件なんだけど...」

(中止になった?やめる?僕は別にそれでもいいけど)

「12月の3、4、5日に来れるかな?その日なら私、街を案内できるから。それでいいなら2日の夜の便のチケット買ってそっちに送るよ」

「やっぱり聞いてみないとな...」

「そうね、明日聞いてみて」

「うん...」


翌日、12月1日水曜日

学校で弥生と会った。

「あのさ、伯母さんがさ今月の3、4、5日だったら街を案内できるから2日の夜の便で来てくれないかって」

「分かったわ。パスポートもあったし、荷物もまとめてある。いつでも出発できるわ」

僕の彼女は用意がいいらしい。

あ、今のはで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る