第12話『第32回隠れ家会議』
テルビンの歌も終わり、僕ら十一人は机を囲んで話し合いをはじめた。
「これより、第32回隠れ家会議をはじめます。起立、気をつけ、礼」
「「「「「「「「「よろしくお願いします」」」」」」」」」
月に一回行われる隠れ家の定例会議。
姉ちゃんがいた頃からやっていて、その頃は強い脳獣に対する作戦会議をしていた。でも、姉ちゃんが死んでからは、復讐のための話し合いをすることの方が増えた。姉ちゃんが死んだ頃は緊急会議という形で多くやってたけど、弥生と出会ってから、もうすぐ二年が経とうとしているというわけだ。
(短いようで、長いな...まあ、その間に、色々なことがあったからな...)
でも、そんな事を考えている暇はない。
僕は立ち上がって言った。
「本日の議題は僕、クサナギが発表させていただきます。一つ目は未だ見つからない姉ちゃんの仇について。二つ目はテルビンの脳力について。本日はこの二つについて話し合っていきたいと思います」
「さっき私とクサナギはテルビンちゃんの脳力は音関係かもしれないって話してたんだけど...」
「私もそう思う。さっきのテルビンちゃんの歌声聞いてたら元気出たもの」
アヤの脳獣アヤカが言った。
僕のイツキとアヤのアヤカは僕のお気に入りのとあるファンタジー小説の主人公とヒロインの、親友の名前に由来している。名前のなかった二人に僕がつけた名前だ。その小説の中で二人はカップルなのだが、こちらの二人もそういう関係のようで仲良くしている。ちなみに、主人公の親友が
「テルビン、何か異変はないか?」
「私の方には何も...」
「そうか...ならこの話は置いておいて、姉ちゃんの仇について僕から話があるんだ。先月の会議の後に起こった事だから話すのが遅れたんだけど...」
僕はそうしてベイクとの話を話した。
「犯人が得るものか...みんな欲しいものは?」
イツキが聞いた。
「お金」「仲間」「愛」「姉ちゃん」「力」「名誉」「上役」「銃」「美貌」「...ギ」
「まさに十人十色ね」
「じゃあこの中で考えるとしてユイを殺して得られるものってなんだろうか?」
いつのまにかイツキが場を仕切っている。
「力?」
とテルビン。
「名誉の可能性はない?強い脳戦士を倒せばそれは名誉なことよ」
元姉ちゃんの脳獣ガドリナが言った。
「確かにそうだね。でもツメが甘いかな、ガドリナ。今件の犯人が脳獣だったらそれもあり得るけど、脳戦士が犯人である以上それはないのさ」
姉ちゃんのイケメン脳獣リカールが指を鳴らしながら言った。
「なら、
考えても出てこないその問いの答えに皆が黙る中、一人静かに発言をした。
「上役」
しかしそれは誰の耳にも入らなかった。言った本人も首を傾げ、違うと思い至り、なかったことになった。
二十分後
「あーもう我慢できない。なんなのこの空気、重い!重すぎる!誰かなんとかして!」
我慢できなくなったアヤカが叫ぶ。
「なら私が演奏しますね」
テルビンはそう言うと僕の方を見る。
「分かった」
僕はトロンボーンを想像創造する。それをテルビンに渡す。
テルビンは嬉しそうにトロンボーンを構えると、奏ではじめた。
『
「テルビンは歌もいいけど楽器も上手いね。なんだか頭が冴えてきた気がするよ」
僕が褒めるとテルビンは嬉しそうに目を細めた。
「これじゃないかしら?テルビンちゃんの力」
アヤが言った。
「ねえ、今度は『悲しさ』をイメージして吹いてみてくれる?」
「分かりました。『悲しさ』ですね...」
『
テルビンが再びトロンボーンを奏でる。とても悲しい調べだった。するとみんなが涙を浮かべはじめた。
「もう、いいよ、テルビン」
「そうですか?分かりました」
テルビンが演奏を止めると悲しいという気持ちがすぐに消え去った。
「きっとこれがあなたの脳力よ!すごいじゃないテルビンちゃん」
「ありがとうございます」
「名前は何にするの?」
ガドリナが聞いた。
「うーん音色は?使う技によって『○○の音色』って使うの」
ユイカが提案する。
「はい、いいと思います。これが私の脳力、これでクサナギさんの力になれますね」
「ああ、これからよろしくな。テルビン」
僕が頭を撫でてあげるとテルビンは嬉しそうに笑った。
三十分後
「犯人の目的...」
「犯人が得るもの...」
「ねえ、そこから離れない?初心忘るべからずよ」
「初心ね...」
「ねえ...『
順番に、僕、イツキ、アヤ、僕、アヤカが言った。
「でも、ここ、ここまで出かかってんの」
イツキが自分の喉を指差して言った。
「てか僕たちの『初心』って何?」
「それはもちろん......
悩む僕とアヤにセイが言った。
「クサナギ殿とアヤ殿は、犯人を探して何がしたいのですか?」
「えっ?何って...」
アヤが戸惑う。
「どうしてユイ殿を殺したんだって問い詰めたいのですか?」
だから僕が答える。
「復讐だよ。僕はそいつを、殺したいほどに
「それが、クサナギ殿の初心ではないのですか?ユイ殿を殺されて、悔しくて、辛くて。楽しいと想像していた未来が一瞬で壊されて、とにかく無性に腹が立って。そのぶつける対象がない苛立ちを、復讐という形で発散しようとしている。そうでしょう?」
「.........」
その後しばらく考えたものの、犯人の目的など本人でなければ分かるはずもなく、そのままお開きとなった。
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