第11話『テルビンの力』
テルビンが仲間になった翌日、僕はテルビンを連れて弥生の家に行った。
テルビンの脳力はまだはっきりしないし、テルビンがなぜ照美を名乗ったのかも分からない。だけど、テルビンは悪い脳獣じゃないし、いつか話してくれるだろう。しかし弥生とはバイヤの事があって以来、学校で顔を合わせることはあっても話すことはない。こうしている間にも姉ちゃんの命日からどんどん日が過ぎて、その一日一日が弥生を苦しめている。弥生を解放するためには姉ちゃんの仇を討つしかないのだ。
傘に当たる雨の音と共に三度目のインターホンが鳴り響く。
「居留守かな?」
一緒に来たイツキが言った。
「仕方ない...この前の告白の時に
そう言って僕が取り出したのは相田家の合鍵。
「認めた!今、
「なら始めからそれ使えばよかったじゃん」
テルビンとイツキに同時にツッコまれる。
「いや、いくら
そう僕は反論する。テルビン?知らなーい。そして、僕は扉を開け放った。階段を登って右手の部屋。ノックをして入る。中には誰もいなかった。
「マジで留守だったんだな」
「ああ、それにしても弥生の部屋綺麗だな」
「マジで捕まるぞお前」
そんな会話をしながらも僕は持ってきたメモ用紙を机の上に置く。わざわざアナログな方法を選んだのはメールがブロックされているからだ。そして何事もなかったように鍵を閉めて家を後にした。
そして帰ってきた弥生は机の上のメモ用紙に気づいた。弥生は一瞬目を見開いたが、小さく
「なによ...」
と呟くとメモ用紙を丸めて捨てた。メモ用紙には『明日の午後1時に千の塔1階、隠れ家に来てくれないか?話したいことがある』と書かれていた。
翌日、午後1時、5分前、地上庭園
僕達は隠れ家でくつろいでいた。
「アヤ、来るかな?」
「見てないってことはないと思うよ」
イツキが言った。
「アヤさん、どんな人ですか?」
テルビンが聞いた。
「アヤ殿はクサナギ殿には勿体ないほどに素敵な方ですよ」
「うむ、拙者もそう思うでござる」
セイとサスケ、二人がこちらをチラチラと伺ってくる。
(全く...何を期待しているのやら)
「そんなに好きならあげるぞ、別に僕は本当に好きって訳じゃなくて、ただ話の流れ的にそうなってしまっただけで別に付き合いたいとかそういう訳じゃ...」
「...
僕は身の危機を感じて振り返る。そこには、まさに鬼神と呼ぶべきアヤがいた。
(てかなんでこいつ、僕の昔のあだ名知ってるの⁉︎)
「あの時、私告白されて嬉しかったのよ、でも好きとは言われたけど『付き合いたい』とか『彼女になってくれ』とか言われてないものね、私の勘違いであなたを文字通り付き合わせちゃってごめんなさいね」
「ア、アヤ。違うんだこれは、男子同時の決まり文句というか、照れ隠しというか......ごめん!」
僕がそう謝ると、アヤはとびっきりの笑顔を見せて言った。
「...ふふ、分かってくれればいいのよ。からかってごめんね。私も、あなたが好きだったからあなたに告白まがいなことされた時は勝手に舞いあがっちゃって、ごめんなさいね」
「アヤ...」
僕らが、ドラマならキラキラと周りに光が舞う演出があっても良さそうな会話をしている間に、割り込んでくる声があった。
「あなたがアヤさんですか?優しいですね。というか、優しすぎます。初対面でこんなこと言うのはなんですが、もう少し怒ってもいいと思います!」
(え?
「この子がテルビンちゃんね。はじめまして相田弥生、アヤって言います」
「こ、こちらこそはじめまして。テルビンです。たしかに、聞いてた通りとっても可愛いですね」
「あなたの
「あ、ありがとうございます!」
それからしばらく他愛もない話をしていると、アヤは突然部屋から出て、僕に手招きした。僕が彼女についていく。扉を閉め、二人きり。きっと事務的な話だろう。
「たしかにあの子は楽器の脳獣。それもあなたの吹いている楽器『トロンボーン』の。彼女の脳力はもしかしたら音楽系じゃないかと思うの」
「僕もそう思う。だから君にも来てほしかった。あと、バイヤのことを謝りたくて...」
「なに?私はこの通りピンピンしてるわ、だから心配しなくて平気よ」
「でも、君の心は傷ついただろ?君は脳獣と脳戦士の共存を望んでる。相手がどんな脳獣でも、必ず助けられる方法を探すんだ。だから僕もそうしようと心がけてきた。でも、あの時僕は君が殺されそうになったとはいえ、力任せにバイヤを殺そうとしたから...」
[私ね、いつも思うんだ...。私とユイカが仲良くなれているように、他の脳獣も脳戦士と、人間と、仲良くなれないのかな...って]
昔聞いた声が頭をよぎる。
「私はね、たしかに脳獣と脳戦士の共存を望んでる。でも、私を守りたいっていうあなたの思い、ちゃんと届いてるから」
「ありがとうアヤ..」
僕は泣いてしまった。止めようと思っても瞳からどんどん溢れ出てくる。ふと見ると、アヤも泣いていた。彼女は涙を止めようと必死に顔を拭っている。そしてそこに様子を見に来たテルビンが来て言った。
「お二人ともどうしたんですか?まさか、クサナギさんがアヤさんを泣かせて...すみませんアヤさん。ほらクサナギさんも」
「うふふ、違うのよテルビンちゃん。クサナギは私に謝ってくれたの。それで私が許してあげたら泣き出しちゃって、私ももらい泣き」
予想外の発言にアヤは思わず笑ってしまった。
「そうだったんですね、やっぱりお二人は仲が良くて羨ましいくらいです」
「そうだ!テルビンちゃん。私たちを慰めるためだと思って歌を歌ってくれない?」
「歌ですか...分かりました。アヤさんの頼みなら。ラーラー」
テルビンの歌声が家中に響き渡る。それはとても綺麗な、そしてとても元気の出るソプラノボイスだった。
「トロンボーンは中低音楽器なのに高音出るんだな」
と何気なく言った僕はアヤの
「もう、
という言葉のせいで悪役にされてしまった。
※この時、アヤが『私も、あなたが好きだったから』とちゃっかり言っていたのに気づいたのは、これを書いている時で、アヤに確認したら[え?そうだったっけ?]と言われたことを追記しておく。
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