第10話『新たな出会いはTBの音色と共に』

 それから僕の通り名は『灰の雨』になった。しかし、脳戦士ランキングトップの座は最強の脳戦士が譲ってくれない。

(本当は、『血色の死神サリエル』より姉ちゃんの方が強かったのに、あいつは姉ちゃんが死んだから繰り上げでNo.1になった奴だ。だから僕は姉ちゃんのいたNo.1を取り戻したいんだ)

 そう思いながら努力した。そしてNo.8になった。でもこれから先、どれだけ努力しても、No.2が限界だろう。『血色の死神』はその強さとカリスマ性で多くの脳戦士から高い評価を得ている。

(最強の脳戦士は姉ちゃんなのに...)

 そんなことを考えながら歩いた帰り道。河川敷を通りかかった時に僕はそれを聞いた。文字にするなら『パーン』といった音。それは吹奏楽部に所属する僕には聞き慣れた音だった。むしろ、自らが出す音だった。

トロンボーンTB?)

 僕は音のした方に駆けつける。

「なあイツキ、ここに誰かいるのか?」

 僕は聞く。

「ああ、金髪の幼い令嬢って感じの脳獣がいる」

 僕は空気に向かって話しかける。

「こんにちは、そこにいるなら返事してくれる?」

 何もないところから声が返ってくる。

「...私が見えるの?幽霊になった私が?」

(うーむ、幽霊と来ましたか)

「見えないけど、聞こえる。さっきトロンボーンみたいな音が聞こえたんだ」

「...トロンボーン」

「お名前は何かな?」

 幼稚な声にどうしても小さい子に接するような反応をしてしまった。

「......美です。私の名前は照美です」

「照美?それはどう書くの?」

 僕は聞く。

「日に刀に口に烈火で照。点を二つに王に大で美です」

「漢字?」

「はい...」

 僕は戸惑う。

(...日本の脳獣の名前は全員カタカナなのに。中国?でも、言語は流暢りゅうちょうな日本語なのに...)

「あのさ、顔を見て君と話がしたいからついてきてくれる?」

「はいっ!」

 僕はこの脳獣に興味が湧いた。


 自宅に帰ると彼女?を連れて1階『地上庭園』に向かう。そこにある僕らの隠れ家で僕らは再び言葉を交えた。

「改めてこんにちは、照美」

 そこにいたのは7〜8才くらいの少女。彼女は大きな帽子にきらびやかなドレス、綺麗な瞳に長髪を持っていた。そしてその全てが金色だった。

「こんにちは、お名前を教えていただいてもよろしいですか?」

 僕は戸惑ったが本当のことを教える。

「僕の名前は佐々木岳流。脳名はクサナギ」

「ノーメイ?先程聞いたノージューと言い、よく分からないので分かりやすく話してくれるとありがたいです」

 僕の目の前に座る脳獣はまだ何も知らなかった。

「分かった、話すよ。これは君の知らない物語、そしてとても奇怪な物語。どうか、怖がらないで聞いてくれ」

「...はい」

 そして僕は脳獣と脳戦士、照美がどういう存在で僕が何をしているか、包み隠さず話した。

 そして、僕が姉ちゃんの仇を討とうとしていることも。

 照美が姉ちゃんを殺したやつの仲間だったり、そうでなくとも敵であるかもしれないけれど、僕は信用して話せた。だって僕の音楽の師は[音楽好きに悪い人はいない]と言っていたから。なんてったって見る限り、聞く限り、彼女はトロンボーンの脳獣だろう?

「分かりました。いや、まだ少し分かってないのかな。でも、私がなんなのか、私が何をしないといけないのか分かりました。その脳力ってものが私に備わってるのかもどんなものなのかも分からないけれど、私はあなたの力になりたい。あなたが探しているお姉様の仇を見つけるお手伝いを私もしたい。だから私を仲間にしてくれませんか?」

 僕は戸惑う。

「嬉しいけど、そんな簡単に決めていいの?一旦所有脳獣の契約をしちゃうと簡単に契約は切れないし、今後の脳獣生活を左右してしまう」

「いいんです。私は、あなたの生き方が気に入ったんです。私は今まで、照美として、恋と部活のために生きてきました。だから、私はもう一度この姿で、何かのために、誰かのために生きたいんです。お願いします。だから私を連れていってください」

「うん、分かった。この本にサインをしてくれる?でも、漢字じゃな...」

 僕が取り出したのは一冊の本。そこに名前を刻めば彼女ははれて僕の所有脳獣になる。でも、日本の脳獣の名前はカタカナ表記することが義務付けられている。

「なら『テルミ』にするか?」

 僕はそう聞くが、彼女は首を横に振る。

「いいえ、私はテルビン。トロンボーンTBの脳獣です」

「テルビン?」

 僕が聞く。

「はい、私が私のトロンボーンにつけた名前です。ずっと想像してたんです。テルビンはきっとこんな見た目で、こんな性格で、きっとモテるんだろうなって!今の私がトロンボーンならそれがピッタリだなと思うんです。それに、私はずっとテルビンになりたかったんですよ。だって可愛いじゃないですか。金色のサラサラな髪に、吸い込まれるような澄んだ金色の目。この優しくて綺麗な声。私の理想と全くおんなじです!」

 僕は微笑ほほえむ。

「自分じゃありませんよ。私は、テルビンを褒めたんです」

「言葉の意味を分かりかねるけど...自分が、いや。テルビンが本当に好きなんだね」

「はいっ!」

 テルビンは年相応のとびきりのハニカミスマイルを見せた。

「じゃあ、改めて。ここにサインを。テルビン」

「はい」

 こうして僕に新しい仲間ができた。

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