第8話『彼女の危機に』
目を開けるとそこは見慣れない脳内世界だった。
(『常夜の城』?)
「あっ!ヴァンパイア」
勢いよく立ち上がって周囲を見渡す。するとどこからか声が聞こえてきた。
「ヴァンパイアか、そうだな。我が名は『バイヤ』ヴァンパイアの脳獣だ」
「どこだ、どこにいる!アヤはどうした」
声の主は極めて冷静に僕の問いに応える。
「興奮すると血は不味くなる。もっと冷静でいられぬのか?女の血は美味での、あの女は今宵のメインディッシュになる予定なのでな、今は調理の準備をしているところだ」
「アヤの血を飲む?そんなことさせない」
僕は『
「何を偉そうに、汝はあの女の何なのだ?」
「僕は...アヤの...」
言葉に詰まる。その時、耳にアヤの声がこだました。
剣を握る手により一層力がこもる。その切先はバイヤに向いていた。
[神達も私達が
「僕は、アヤの彼......同業者だ」
言いかけて...やめた。言いたくても、言えなかった。勇気がないからじゃない。似合わないと思っているからだ。そう。アヤは一緒の中学校にいた僕の同業者で、姉ちゃんの影響で仲良くなった。それだけの関係で、僕は満足だったんだ。だから言えない。彼女と過ごすデートや結婚後、老後が、今の復讐のために生きる血生臭い僕の人生には似合わないから。
「そうか、仕事仲間として助ける義務があると?」
「そうだ!」
そう叫びながら勢いよく振り上げた剣をバイヤに向かって振り下ろす。
“
僕の剣はバイヤが小さくも沢山の
“
再びヴァンパイアに戻ったバイヤが僕に向かって鋭い牙を向ける。
「まあ、汝のように若い男なら前菜程度にはなるだろう」
そう言うと、バイヤは飛んで距離を詰めてくる。僕の首筋に牙が突き立てられる立てられる寸前のところで僕は右手に握っていた『
“
再び避けられたものの自分も回避することに成功した。しかし、蝙蝠に噛まれたせいで剣が折れて消えてしまった。
(想像が弱かったか...)
“
「そうか、汝なかなかの手練れだな、ならば」
“
下半身だけが蝙蝠になったバイヤがニヤリと笑う。僕が何事かと思っていると地面に倒された。どうやらバイヤの下半身分の蝙蝠が僕にのしかかっているようだ。そのせいでなかなか起き上がらせてくれない。
「そこよでよく見ておけ、自分の同業者が殺される様を」
バイヤが指を鳴らすと隠し扉になっていた壁が開く。その奥に、檻に入ったアヤが現れた。アヤは気絶していて自分の危機に気づいていない。
「ただ殺すだけではつまらぬ、余興じゃ。せいぜい我を楽しませてみよ」
そう言ってバイヤは空を舞う。アヤに近づき、アヤの首に牙を...
(そうはさせない)
「あああああぁぁぁぁぁっ!」
バイヤの牙が空を切る。アヤは僕の近くに倒れていた。
「馬鹿な、想像力で呼び寄せた⁉︎それではまるであいつと同じではないか」
「お前は、絶対に、許さないって、決めた」
僕はゆっくりと息を吸って言った。
「想像...創造...」
僕の右手に光が集まる。そこにはずっと振るい続けた愛剣『
「伸びろ...」
それを合図に『
「すまぬ、この女を殺そうとしたことは謝る。二度と人を殺さぬと誓うから許してくれ」
「なんだ今更、見苦しいんだよっ!」
『天叢雲剣』がバイヤの羽を切る。そしてバイヤは地を転がる。
「死ねよ、さっさと死ねよ」
『天叢雲剣』は動けないバイヤを確実に仕留めようとしている。その時、誰かの声が聞こえた。
「やめてクサナギ、殺しちゃダメだよ。あなたなら、ユイさんを失ったあなたなら大切な人を失う気持ちが分かるよね?」
紛れもない、アヤの声だった。目を覚ましたアヤが僕を向いて叫んでいた。
「でもこいつは、アヤを殺そうとして...」
「うん、そうだね。あなたがどうしても許せないなら『契約』すれば良いよ」
『契約』とは瀕死の脳獣が脳戦士に対してとる苦肉の策。本来なら殺されるはずだった脳獣が、自らの脳力を脳戦士に与える代わりにその脳戦士の脳内世界で匿ってもらうというもの。『契約』をした脳獣は、脳戦士の許可なく外には出られない。だからその脳獣が人を襲うことはないので実質討伐と同じことだ。
「『契約』か...我が力の一つに対象を灰にするという力がある。これは、吸血鬼が血を吸った者や吸血鬼に殺された者が同じく吸血鬼になるという伝承があり、それを元となったこの力は対象に吸血鬼としてのアイデンティティーを与えるという物。その一つ、吸血鬼は日の光を浴びると灰に帰すという伝承を元にした相手を灰に帰す技。それを汝の右眼に授けよう。ただしこの力には欠点があってな、この力は相手がフロギストンを多く含んでいる脳獣にしか使えない」
(フロギストン説?いつの時代の話をしてるんだ?)
「いいじゃないの、それだけの力があれば敵と有利に戦える」
「そうか...分かった。アヤがそこまで言うなら...『契約』」
「『契約』」
バイヤが光に包まれて消えていく。その光はキラキラと空を舞い漂うと僕の右目に吸い込まれていった。
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