第2話『脳戦士』
さて、僕は物語を読む時、長々とした説明は飛ばしてしまうタイプであるものの、ここに
改めて僕、
そして姉ちゃんはとても優秀な脳戦士だった。いずれの仕事も完璧にこなし、まだ学生でありながら優秀な成績を収め、日本の脳戦士ランキングではNo.1の座を冠していた。
しかしその姉ちゃんが一年前に死んだ。事故なんかではない。れっきとした殺人事件だった。
その日は、姉ちゃんの十五歳の誕生日だった。燃え盛る『空の丘』で倒れていた。
犯人は未だに見つかっておらず、詳しい証拠もなかったことから、犯人は脳獣であると判断された。姉ちゃんの仲間であった『セイ』が現場から立ち去る二人の男を見たという証言をしたものの、[そのような特徴の脳獣及び脳戦士はいない]と、聞く耳を持たれなかった。その証言を知っていて、まともに扱っているのは、僕と弥生だけだ。
そして『No.1が殺された』というニュースが脳戦士達に混乱を招く恐れがあったので、脳戦士社会の偉い人と相談して、『通りすがりの野良脳獣による事故』という形でまとまっている。
しかし、あれは明確な殺意を持って殺された『殺人事件』だった。
今でも思う。あの日、僕にできたことは何かなかったのか、と。でも、何もできなかった。
姉ちゃんの名は
その後も、ずっと空の丘に行く機会を伺っていたのだけど、いつの間にか授業が終わり、掃除をして
そして、放課後
学校からの帰り道、後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこに少女がいた。弥生だった。
本名は
「なに?」
「単刀直入に聞くわ。由祈さんを殺した奴らに復讐する気はもうないの?」
弥生らしいズバッとした聞き方だ。答えは否。復讐する気がないわけではない。この一年間、僕は色々な事をした。空の丘の消火が完全に終わった後、犯人の手がかりが残っていないか念入りに探した。
どんな脳獣が姉ちゃんを殺したのか。
どんな理由で姉ちゃんを殺したのか。
そして、一年が経った。
その結果、分かったことがある。
だから、僕は言う。
「もういいんだ...」
「ねえ、悔しくないの?由祈さんのこと」
そういえば、弥生は生前の姉ちゃんに優しくしてもらっていた。
「悔しいよ、何度も探したよ。でもさすがにセイの情報だけじゃ無理があったんだよ」
「何諦めてるの?」
「諦めてなんかいないよ。でも...」
「でも?」
「...なんでもない。でもとにかく、これ以上あの事件には関わらないでいいから」
「......」
弥生は少したじろぐも、すぐに立て直して言う。
「でも、私はやるべきだと思う」
僕は口早に続ける。
「それにさ、あの
僕は弥生を振り切って早足で逃げる。
「だからって何もしないの?いい?石橋も叩いて渡れば安全よ。転ばぬ先の杖って知ってる?」
「だからなんだよ?」
「失敗しないように前もって用心するって意味よ。大丈夫、岳流は強いんだから」
弥生が僕の手を掴む。それを僕は振り払って叫ぶ。
「なんでそんな無責任なことを」
「論より証拠!あなたは日本脳戦士ランキングでNo.8を誇る脳戦士じゃない」
「今まで調べたことは?何かあったんでしょ?」
僕は正直に語る。
「脳獣は一通り調べ終わった。でも赤い髪で炎使いの男、もう一人は雷使いの男って情報しかないんだ。でも、その特徴を持つ脳獣は一体もいなかった」
「...!そう。脳獣じゃないという結論に至ったわけね。なら......まだやっていない事をしたらどう?」
「でも、まさかそんな事ないよ。だってそれこそ犯罪行為だよ、神が黙ってるわけがない!それに、もしそうだとしたら、仇は討てないよ」
話しているうちに家の前まで来てしまっていた。
「物は試し。やってみる価値はあると思うの。もし、仮説が正しかったなら、それはその時に考えましょう。それじゃあ、すぐに
僕は渋々うなずく。それを見た弥生も満足そうにうなずく。僕達はお互いに背を向けて、自分の家へと歩き出す。不意に涙が
僕は、家の中に入り、自分の部屋に入る。鍵を閉めて、ベッドに横になる。そんな一連の動作を、慣れた習慣を、流れるようにこなして、ベッドの上に横たわる。目を閉じると、異界の景色を想像しながら唱える。
それは『脳内世界』へ入るための
大きな塔。それを囲む清らかな水、広大な草原、炎の山、砂の大地に氷の城、空飛ぶ島もある夢の世界。僕らの家があり、自然が広がり、人と脳獣が共存する世界。
もう弥生は先に着いて待っているだろうか?
「クサナギより申請,入場,千の塔,1000階,中枢都市」
僕の意識は異界の塔に吸い込まれる。
『クサナギ』として数々の敵と戦い、そしてこれからも戦い続ける戦場へと。
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