第4話 『和解(前)』
自転車で約10分。大急ぎでこいで汗だくになりながら、遥(はるか)の家に着いた。目の前には『水瀬(みなせ)』と書かれた表札。この家に来るのも久しぶりだな。
遥はもう帰ってるよなぁと思いながら恐る恐るチャイムを鳴らす。
ピンポーンとのんびりした音が鳴り、ドキドキしながら待つ。
『……はい』
と遥から返事が。
良かった…居た…と思いながら返事をする。
『俺だ。開けてくれ』
インターホンが切れてから暫しばらく待つと、ガチャッと音の後にドアが開いて中から遥が出てきた。
遥は既に私服に着替えていた。
「遅かったか?」
「…ううん。あたしも今、準備が終わったから」
「そっか。中に入るぞ」
「……うん」
遥は昨日までとは違い、ずいぶんと塩らしかった。緊張しているのだろうか?
俺は「お邪魔します」と言って靴を脱いだ。遥の後を着き、二階に上がる。
「…いいよ、入っても」
「…お、おう」
先導する遥に促され俺は彼女の部屋へと久しぶりに足を踏み入れた。実に感慨深いものである。それから、妙に甘ったるい匂いがする。
小学生の頃とは家具や配置等がガラリと変わっていたが相変わらずピンクが多いカラーリングだ。
「ジロジロ見ないでよ」
「わ、悪い」
さっきまでは塩らしかったが今はいつもの遥に戻っている。
遥はベッドにちょこんと腰掛け、地べたを指差す。
「座って」
「…いや、座布団くらい寄越せよ」
「………っ!」
遥は何故か怒ってピンク色の座布団を投げてけて来た。
「ちょっ、何すんだよ。危ねぇだろ!」
「…ふん」
遥はムスッとしたままそっぽを向いた。
俺はピンクの座布団をお尻に敷いて、あぐらをかいた。…ほんっとこいつ可愛くねぇなぁと思いつつも、俺は遥に向かって頭を下げた。
「ごめん……!昨日は俺が悪かった。許してくれ!」
「ふぅん…。やけに素直ね」
「お前が俺との事で悩んでたなんて知らなかったんだよ」
「なっ!?別にそんな事言ってないでしょ!」
遥は怒り為か照れの為かどっちかは分からないが、顔を赤くさせ動揺した。
「でも中学に上がってすぐくらいから俺と話さなくなったけど、その頃から俺と仲良くするのは可笑しいって思ってたって事?」
遥はすぅはぁと深呼吸してから語り出した。
「…中学に上がってすぐに美月(みづき)と仲良くなったんだけど、その時あんたと仲良くしてるのを見て『もう中学生なんだから幼馴染みと仲良くするのはやめた方がいいよ。みんなに変な噂とかされるよ』っていわれたの」
『美月』とは遥と仲良い佐倉(さくら) 美月の事だ。
「…なるほど。俺とお前の仲が悪くなったのは佐倉のせいって訳だ」
「美月の事を悪く言わないで。あんたと話さなくなったのはあたしの意志だから」
遥はまた冷たい目で俺を睨んでくる。…やれやれ。すぐ怒るんだから、こいつは。
「分かった。悪かったよ。でも何で俺と居たら変な噂されるんだ?」
「女の醜みにくい嫉妬しっとよ。そういう事でイジってくる子もいるってこと。確かに女子中学生はそういう事に敏感びんかんだから」
やっぱり女って怖えー!!
「だからお前は俺から距離をとったってこと?」
「そう。美月はあたしの事を本当に心配してるんだなぁつて…そう思ったから」
こいつは完全に佐倉に心酔しんすいしてんな。
「でもさぁ、お前はどうなんだよ」
「……は?あたし?」
「そうだよお前の気持ちはどうなんだよって事」
「あたしの…気持ち…?」
「俺と話さなくなったのはやっぱり佐倉に言われたからだろ。でもお前自身はどう思ってるんだよ。本当にこのまま俺と縁えんが切れてもいいのかよ!」
「……」
遥は俺の言葉を黙って聞いている。
「俺は嫌だね!お前と話さなかったこの四年間、俺はずっと寂しかった!いつになったらまたお前と仲良く話せるんだろって…。これが俺の気持ちだ。お前はどうなんだ!」
ーーうわぁ…超恥ずかしい…と、言った後に気づく。確かにとんでもない事を口走ってしまったが、お陰でどこかすっきりとした気持ちも感じている。
「……うるさい。うるさい、うるさい、うるさーい!!」
遥も溜まった気持ちをはきだすかのようにして叫んだ。
「あたしだってあんたと話さなくなって寂しいに決まってるでしょ!でも仕方がないのよ!もう昔にはもどれないのよ!!」
遥が叫び終えるとと、二人のハァハァという呼吸の音だけが聞こえる。
「でもさ、お前って家の中だと俺と話すよな。それって、佐倉の考えに少しでも抗おうって意志はあるって事だよな?」
「別にそういうわけじゃ……。でも、家で二人っきりだったら世間体とか関係ないっしょ」
「じゃあやっぱり、俺と話す意志はあるって事?」
「……まぁね」
遥は恥そう言うと、恥ずかしそうにそっぽを向いて頬を指で擦こする。
「そっかぁ……。ならいいや。じゃあこれからも話したい時は家でしよう」
「そうね…。美月の家はあたし達とは反対方向だし」
俺は嬉しくてにやにやしていると、
「か、勘違いしないでよね!あんたがどうしても話したいっていうから仕方なく同意しただけだから!あんたと話したいなんて一言も言ってないから!」
遥は顔を真っ赤にして捲し立てるように叫んだ。
「はは…そうだな」
「…ふんっ」
遥は恥ずかしくなったり照れたりすると、顔を背ける癖があるんだな、とそう思った。
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