第3話委員長に相談

遥の地雷を踏んでしまった次の日。


 モヤモヤとしたまま自分の席に着くと、クラス委員長の小原こはら香純かすみさんが声をかけてきた。


「山下くん。ちょっといいかな?」


 黒髪にショートカット。友達も多く、人気者なのに誰にでも別け隔てなく接する気さくな性格でクラスの中心人物ともいってもいい。


 ハキハキとした明るい声は憂鬱(ゆううつ)な俺にとって、とてもうらやましい。


「相変わらず元気でいいね、委員長は」


「どうしたの山下くん。何か悩み事?わたしで良ければ相談に乗るよ!」


 ハキのない俺の顔を見て委員長は心配そうにこちらを見る。


「ありがとう。でもその前に何か用があったんじゃないの?」


「あっそうだった!あのね、進路希望調査を出してないの山下くんだけなんだ」


「ぇっ!?みんなもう出したの!?」


 優秀過ぎんだろ、うちのクラス!


「うん。だからね、放課後までにわたしの所までもってきてくれる?」


「分かった」


 そう言って前を向き直そうとすると、委員長が止めに入った。


「それで、悩み事ってなぁに?」


「やっぱりそこ聞く?そーだなぁ…夕夜に聞くよりも、女子の委員長の方がいいか…」


 俺は教室にいる遥に聞こえないように、小声で喋った。


「昨日、遥と久しぶりに話し合ったんだけどさ、あいつ高校にもなって幼馴染みの俺と仲良くするのは可笑しいっていうんだ」


「うんうん」


 委員長は相づちを打ちながら真剣にきいてくれる。


「だからさ、俺あいつにいってやったんだよ。下らないって。そしたらさ、あいつ急に怒り出して帰っちゃったんだよ」


「ふぅ~ん…二人の気持ち、良く分かったよ。遥ちゃんはさ、『高校生にもなって二人が仲良くするのは可笑しい』って悩んでてそれを山下くんが冷たく否定しちゃったから怒っちゃったんだと思うよ」


「ぇ!?そうなの?」


 委員長はまるで遥の気持ちが分かるかのように答えた。


「うん。逆に山下くんは『高校生になったら遥ちゃんと仲が悪くなって寂しい』って思ってて遥ちゃんの考えに納得いかなかったって事だよね」


 そんなはっきり言わなくても…。恥ずかしいから。


「…凄いね委員長は。教師の仕事に向いてると思うよ」


 本当に委員長は凄い。俺達の気持ちを良く理解してくれているんだから。


「えへへ…そうかなぁ?」


 そう言った委員長はとても嬉しそうにしており、こういうのを天然って言うんだろうなぁと思った。


「うん。尊敬するよ!じゃあ、どうやったら仲直り出来るか分かる?」


「もちろん!もう一回、ちゃんとお話をすればいいんだよ」


「ぇ、それだけ?」


 もう一回話してもまたあいつに怒られるだけだと思うんだけどなぁ。


「話し合いは大事だよ?だってそれを怠って来たから二人とも悩みを抱え込んじゃってるんじゃないかな?」


「確かに…」


「だからもう一度、本音で話し合って互いの思いをぶつけ合ったらいいんじゃないかな?」


「…分かった。ありがとう委員長!」


 俺は感謝を込めて、笑顔を作った。


「あれ?委員長、顔があかいけどもしかして照れてる?」


「あっいや…何でもないよっ!また、放課後ね!」


 委員長はそう言うとそそくさと自分の席に戻っていった。


「おーっす、大樹!」


 するとそこへタイミングを見計らったかのように夕夜がやって来た。


「もしかして聞こえてた!?」


「いや、他の連中も喋ってたから内容は聞こえなかったけど」


「そっか…」


 俺はホッとしてため息をついた。


 夕夜は俺の肩に手を回して囁ささやいた。


「それよりも何でお前が小原と喋ってんだよ!」


「べ、別に俺が委員長と喋ってたっていいだろ!委員長は誰にでも気さくに話しかけてくれるんだから」


「それにしてもよ…あれは普通のクラスメイト同士の会話って感じじゃなかったぜ?」


「そうか?てか見てんなよ、恥ずかしいだろ!」


「ははは…そういうなって…!」


 気が付くと遥がまたこちらを見ていた。昨日と同じで直ぐに目を逸らしてしまったが。一体あいつは何がしたいんだよ。




 昼休み。遥に『放課後、話がしたい』とメールを送ったが、中々返信がこない。あいつわざと無視してるな…?早くしないと、昼休みが終わってしまう。


『頼む。昨日の事で謝りたいんだ』


 ともう一度送ると、


『分かった。放課後、うちに来て』


 とすぐに返信が来た。ふう…まずは第一段階クリアだな、とホッとしていると夕夜がちょっかいを出してきた。


「誰とメールしてんだよ!」


「あっいや…ちょっと…」


「何だよ、言えないことか?」


「まぁ…ちょっとな」


 俺の真剣な表情で悟さとったのか、


「分かったよ。もう聞かねぇよ」


 とすぐに引っ込んでくれた。


 夕夜はノリは軽いけど、マジな時はちゃんと分かってくれる。


 だから俺はこいつと今まで付き合って来たわけだし、これからもそうするつもりだ。本人には恥ずかしくて言えないけどな。



 放課後。委員長に急かされながら進路希望調査のプリントを書き、彼女に提出した。


「山下くん、先生の所に持ってくの手伝ってくれる?」


 これから遥と話そうと思ってたけど、すぐ終わるか。


「うん。いいよ」


「ありがとうじゃあ半分持ってくれる?」


「オッケー」


 俺はそう言って彼女からプリントを半分受け取った。


「そう言えばさ、これから遥と話し合う事にしたよ」


「あっそうなんだ!じゃあ急いだ方がいいんじゃないかな?」


「大丈夫だよ。職員室すぐそこだし」


「.......そうだね。ありがとう」


 職員室に着き、プリントを先生に渡すと委員長が急かしてきた。


「わたしの方はもういいから、早く遥ちゃんの所に行ってあげて!」


「う、うん!」


 委員長は一瞬寂しげの表情をした。俺は気のせいだと自分に言い聞かせ、学校を後にした。

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