第5話 『和解(後)』

場が和んできた所で俺はこれから特大の爆弾へと触れようと思う。それは何かって?遥(はるか)の趣味についてだ。この前までの俺なら聞き出せなかったが今なら大丈夫。多分…。よし、行くぞ…!


「あのさぁ…一つ聞きたい事があるんだけど…」


「…なに?」


「…お前の趣味についてだ」


「……っ!」


 遥は一瞬ビクッとなったが、意外と落ち着いている。


「…いいよ。そのためにそのためにあたしの家に呼んだんだから」


「ぇ…!?俺に見せてくれるのか…?」


 別に見たくはないが。


「うん。メールで謝りたいって書いてあったから、正直に謝ってくれたら見せてもいいかな…って」


「へぇ~……」


 マジか…まさか見ないといけないの?あれを?話を聞く覚悟はしてきたけど、あれを見る覚悟はまだ出来ていない。


「その前に一つ聞かせて。あたしがああいうの持ってたら可笑しいと思う?」


 …これはまた地雷を踏まないように気を付けないとな。


「お前を知ってる奴はそう思うかもな。でも俺は可笑しくないと思ってる」


「ほんとに……?」


「あぁ…」


「ぜ、絶対に…?」


「絶対にだ」


「……理由は?」


 り、理由?随分と聞いてくるなぁ。


「それは…俺もオタクだからだ。…ニワカといわれてるけど。それにひかりだってアイドルオタクだしな?でもお前が気にしてるのは世間体だろ?」


「…うん。でもそっか……あんたは可笑しいとは思わないんだ…」


 の反感を買わないようにドキドキしていると。遥は意を決したように立ち上がり、クローゼットの前まで歩いた。


 そして大きなクローゼットの横にある小さな収納スペースの鍵を開けた。てかそこ、鍵なんか付いてたっけ?


「もしかしてそこに隠してあるのか?」


「うん…。ママに頼んで鍵を付けて貰ったの。美月とかにばれないように」


「でも佐倉にはもう怪しまれているだろ?」


「多分…」


 と呟きながら遥は禁断の扉を開けた。


 ガチャッ……バサッ。


「…ん?何か落ちた…ぞ!?」


 降ってきた本を拾うと、この前のBL本だった。


「うおぉおおお!!」


 盛大に叫んだ。


「なに興奮してんの?あっもしかしてそれ気に入った?」


 んな訳ねぇだろ!!


「これ…好きなのか?」


「あぁ…それは東京のとらのあなで買ったシリーズもののやつね。ま、お気に入りではあるけどね」


 まぁ…学校に持っていくくらいだもんな。てか今までよくばれなかったよな。


「…良かったら貸そうか?」


 いる訳ねぇだろ!!


「あっ…いや、実はさ、俺こういうの苦手なんだよね…男同士とか…」


「ぇ?そうなの?なぁんだ…じゃぁ一緒に話とかできないじゃん」


 え?まさか俺がお前とBLについて語るとか思ってんの?なにそれ、想像するだけで吐きそうなんですけど…。


「ま、まぁ…話くらいは聞いてやるよ」


「本当!?じゃあこういうのはどう?」


 遥は押し入れの上段から大きめの箱を取り出した。


「その…箱は…?」


「これ?これはパソコンゲームの箱」


 なになに…『BL学園』!?


「あんたゲームとか好きでしよ?」


「好きだけどさ…それって多分、エロゲーってやつだろ?」


「うん。そうだよ」


 曇りのない瞳で遥は頷いた。 まじかよ…。


「男同士のそういうシーンがあるんだろ?それならまだ本の方がマシだな…」


 どっちも嫌だけどな。


「あっ…」


 口を大きく開けた遥の顔は『言われて気付いた』という感じだ。


「そ、そっか…」


 遥は見るからに残念そうにしていた。


「ていうかさ、同じ趣味持ってるやつとかいないの?」


「いる訳ないじゃん。みんなには秘密なんだから」


「そ、そうだよな…」


 んー……難しいなぁ。


「ま、まぁ…お前にオタク友達が出来るまで俺が付き合ってやるとして……お前何でBLにはまったんだ?」


「ん~……きっかけかぁ」


 俺の問いに遥は少し考えるフリをすると、


「中学校の時に初めてとらのあなに行った事があってさ…そん時たまたま目に入った少年漫画の『同人アンソロジー』を見た時かな…」


 と答えた。


「へぇ~…その同人誌とかPCゲームってわざわざ東京行って買ってんの?」


「まぁ…全部って訳じゃないけど東京のとらのあなにしか売ってないものもあるから。ネットで買うときもーあるけど、やっぱり自分の目で見て買いたいのよね」


 確かに…。


「まぁそれは分かるが…どっからそんな金が出てくんの?」


「え?バイトだけど?」


「でもこういうのって高いんだろ?電車賃も考えたらそれだけじゃたいないだろ。もしかしてバイトって夜の…?」


「は?そんな訳ないじゃん。バカなの?」


 で、ですよねー…。てかその虫を見る目をやめてくれ!俺にはそっちの趣味はないぞ。


「まぁ足りない分は親にお小遣いを貰ったりするけど…」


「あぁ~…確かにおじさんとおばさん、お前に甘いもんな…」


 逆に俺んちは厳しいからとても羨ましい。てかほとんど家にいないし。


「最後にもう一度だけ聞くけどさ…、あたしの趣味について本当に馬鹿にしてない?」


 ギクッ…!


 遥は真剣な眼差しでこちらを見つめている。こいつ…勘が鋭いな。


 心の中では馬鹿にしてるんじゃないかと疑ってるな…?違うんだ…!馬鹿にしてるんじゃない!!


 苦手とか行ったけどぶっちゃけホモとかゲイとか俺そういうの大っ嫌いなんだ!!


「……馬鹿になんかしてないよ…」


「…その間が怪しいんですけど」


「信じてくれ。俺はお前の趣味を馬鹿になんてしないし、誰かに口外するつもりもない。もちろんひかりや夕夜にも」


「…分かった。しょうがないから信じてあげるよ」


 ほんっとこいつは…。相変わらず上から目線だなぁ。


「信じてくれて良かったよ。じゃ、俺もう帰るわ。邪魔したな」


 俺はそう言って遥の部屋を出ようとしたのだが、


「ねぇ」


「…なに?」


 ドアノブに手をかけたところで呼び止められ、俺は振り向いた。すると遥は照れくさそうに微笑んで、


「ありがとね、大樹」


 はっきりと、そう言った。


 それから直ぐにふいっとそっぽを向いてしまう。心なしか頬が赤かったかもしれない。


「…おう」


 俺は照れくさくなって頬をかいて遥の部屋を出た。



 家に帰ると、食卓には既に料理が並べられていた。


「おかえり。遅かったね」


 ひかりはこちらを見ずに低い声で話す。


「悪い。遥かの家に行ってた」


 するとひかりは


「えっ!?遥ちゃん家!?何で!?」


 と急にテンションをあげて俺に詰め寄る。


「いや…ちゃんと謝って仲直りしてきたんだよ」


「そっかぁ…ちゃんと仲直りできたんだね。お兄ちゃんにしては上出来じゃん。でも今度、遥ちゃんを泣かせたら絶対にゆるさないからね!」


 この上から目線……。着々と遥に似てきているな…。それ以降、俺達に会話はなかった。

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