第2話 新たな生い立ち

目覚めた時に直ぐ状況を理解する自分と、何も考えられない自分が居た。頭でわかっているのに、身体は動かない様な。

それも数日で慣れてしまった。

今の自分は三歳らしい。身体は上手く動かない。恐らく筋肉等が出来ていないのと、感覚のズレが原因だ。今は指先からヘソの奥まで、全身に神経を研ぎ澄ませを一心不乱に動かそうとしている。

幼い自分が幼さに従い動いている。それを見守る自分がいる。


自分の中にもう一人の自分がいるのは幼い頃から気がついていた。ただその存在について知識がなく、ただそういうものだと受け入れるのも違う。最初からいたのだしそれは紛れもなく自分自身であった。


僕の生まれは国王の妾腹ということになる。一応は王の実子として認知されているが、継承権は期待できない地位だ。先王の兄弟筋や他の兄妹達をの中では最も低いだろう。

それでも王族として認められ、扱いも相応なのは悪いことではない。

幸いな事に僕は人より物覚えが良いようで、教育に関しては手のかからなかった。それに学ぶことが楽しいと思える性分でもあったようだ。


ある日、家庭教師に与えられた課題を終えて、魔術の自主勉強をしていると、第一王子である兄に遭遇した。


「勉学によく励んでいると聞いた。王族とはいえ、お前には継承権どころか都合の良い縁談の駒にされるだけだろうに何故だ。」


特に含むことも無いだろう。継承権など無いに等しい自分の中の目標を聞いてきただけだろう。そこでもう一人の僕が関与してきた。


「お兄様が王様になったら少しでもお手伝い出来るように頑張ってます。」

僕からすれば本音である。なんの陰りもなく笑顔で、兄とその後ろに立つ第一婦人に答える。

「これはこれは、マルスは僕が王様になると?」

「うん、けーしょーけんが一番だからお兄様が次の王さまでしょ。だからお兄様のお手伝い出来るように頑張るんだ。」


こちらの笑顔に押され少し困り顔の兄の後ろでご機嫌そうなのは第一婦人である。

「半分はあの人の血を引いているようね。よくわきまえているわね。話を聞いてる限り優秀な様子だし。」

そしてこっそり飴玉をくれる。


「アスラン、マルスは腹違いとはいえ、貴方の弟に当たります。家族として導いてあけなさい。」

「ええ、素直で可愛い弟てす。目にかけて起きましょう。」


簡単な話、今後の継承居争いで早々に放棄して第一王子支持を子どもが裏無くシンプルに表明したのだ。

それからは母に対しても婦人の対応は柔らかいものとなった。曰く妾としてわきまえて、子供の躾がなっているとの事だ。

そういった空気は周囲に伝わるもので、淀んだ政治の話にはあまり関与すること無く、早々に程よい所に婿に出し、王宮から消える流れでこの時は皆が納得していたのだろう。他の親戚も明確な敵意を向けるものは居なかった。


幸いな事に伸び伸びと暮らすことが出来ていたのは齢10を迎え貴族向けの学校に通うまでとなる。

そこには王宮とは異なる政治、子ども同士の上下関係や幼さ故の問題が存在する。

上の学年に兄や従兄弟といった親戚は居たものの、同学年に王族は居らず、自ずと僕を中心にピラミッドが出来て行く。そこには親の権威を借りるような物や、成績によるものもあり、表面上だけですら善意だけで成り立つものではなかった。

この学校にて僕の嫁ぎ先、現状にてそれなりに有力な貴族筋で男児の居ない家が望ましい。を選ぶ様に第一夫人に言い含められている。

お勧めは社交場にて面識もある中堅処のご令嬢。長く王家に仕えながらも地位よりもその忠誠と民への向き合い方を重んじており、故に政治的な争いからは中立、一歩引いた立場故に中堅に留まっている。

男児には恵まれないものの長女は才に恵まれており、実際に話すとその知識量と話を続ける頭の回転は目を見張る。物腰も伝統ある貴族らしく自然に気品あるもので、勧められるもの納得したものだ。

しかし、そうした周りの意図せぬ事もある。

三年間の初等部での生活を経て、身分のあるものや経済的に豊かなもの、成績優秀者は高等部へ進学する。そこで二年の更なる教育を経て、更に高みへ向かうのだ。

僕はここで学歴という箔と最低限度の貴族としての事務能力と知識を身に付け、卒業と共に学園で見つけた恋の終着へたどり着く。

その筈だったのだか。

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