第20話 中級最強

狩人の狩では基本的にノーダメが基本である。

これは、当然の事と言っても良い。なぜならプロハンにして至高とも言える極となる文言が有る。それは、

「します、させます、させません。」


隙を晒したモンスターに対して有効打になる攻撃をします。

モンスターAIを管理し、大きな隙を晒す行動をさせます。

回避不能、広範囲攻撃等の厄介で回避の難しい攻撃をさせません。


全裸ハンターでも、RTAハンターでも、バグハンターでもプロハンと呼ばれるプレーヤーは結局、此処に辿り着く。

ゲームと言う体を取っている以上はゲーム内の全てがデータ、詰りは数値やAI等の人工知能が全てのアクションを管理しているのだから、そのデータ上で最も有利な行動をしましょうと言う文言である。


逆にいうのなら、敵モンスターに対してこれらの何れかが出来ない場合はそれだけで不利を取ると言う事なのだが、残念な事にプロハンの極みが通じない敵がいる。


それは、雑魚モンスターに代表される小型モンスターであり、小型モンスターが中型モンスターと呼ばれるまで成長した、頭に『ドス』の付くモンスター群である。


雑魚モンスターについてはその大体が中重量の武器の1撃で屠る事が出来るのだが、『ドス』付きのモンスターについては当てはまらない。

下級から中級下位まで分布するこの『ドス』付きモンスターは肉質は全部位一定であるが、その小ささ故に弱点部位である頭に当て難く、小型モンスターが成長したと言う設定を持つが故に、小型モンスターの素早い攻撃の範囲をそのまま大きくした様な攻撃が多く隙が少ない。


それでも『ドス』付きモンスターは普通の狩人の脅威足り得ない。なぜなら、体力が他の中級よりも少なく、下級から慣れ親しんだ雑魚モンスターの攻撃ゆえに避け方を知っているからだ。


しかし、ノーダメを基本としたプロハンに対しては『ドス』モンスターの攻撃は下手な上位モンスターよりも脅威になる。

全てのモンスターには攻撃準備となる前行動が設定されているが、『ドス』モンスターは稀に前行動が存在しない『ノーモーション攻撃』が有る。雑魚モンスターに前行動を付けないのは運営の要求スペック節約術だ。


中級モンスター程度であれば攻撃を食らっても大した攻撃力を持たないが現在、全裸である私にとっての脅威足り得る物だった。


『試し切り』の為にドスアルタスのクエストを選んだのは、武器の『属性』がどの様に発現するのかを確かめる為と特殊なアイテム集め。


武器には属性を持つ物が在り、その属性に対したエフェクトが発生する。今までは無属性の『モスハンマー』を使用していたが、エフェクトの入る属性武器である『火竜の太刀』の使用感を確かめなければ安心して振り回せない。


ドスアルタスは戦闘中、特殊な鳴き声を発してアルタスを5体呼び寄せる。

基本的には討伐完了まで1度鳴き声を上げられるか否か程度の頻度なのだが、クエスト時間の制限が無い現状からこの特殊攻撃は無限に繰り返されると考えている。


今回は支給品の武器の切れ味を持続させる砥石を3つ持ち込みをしたので、通算120匹程度のアルタスを狩る事が出来る。

アルタスは全身肉質が5で固定されている柔らかいモンスターなのだ。『火竜の太刀』の攻撃力も相まって2撃決殺出来る。


私はドスアルタスが出現する雪山6番のマップへ急ぐ。小型以上、クエストの討伐モンスターの殆どがマップの限られた番地を巡回しているのだが、巡回はクエスト開始直後から行われる。

それ以降、巡回する番地はランダムだが、初期のボスモンスター配置は固定されている為に最速での番地入場がプロハンの狩の基本であった。


私はデバフが付く地形に入る前に各自がカライドリンクを飲み干して、雪山への登山を開始する。


「そういえば、カライドリンクは辛くないな・・・。」


『空の王者アルマロス』を討伐する前に食べた攻撃力上昇弁当にはその名の通り、『辛カルビ弁当』の味がした。唐辛子とニンニクが効いた蜂蜜と味噌を使ったかの様な調味料の甘辛いタレに2mm程度の薄切りの肉とその下に引いてある千切りのキャベツと白米の弁当には確かな効果の実感を得ていたのだが、所持アイテムである『携帯食料』や『回復薬』『カライドリンク』は服用しても味と言う味を感じられずにいる。


狩には関係ないと切り捨てる事は出来ない。不味い飯ではメンタルを保てない。狩は数字とメンタルで決まるのだ。私とてインフルエンザで会社を休んだ日は大人しく寝ていたものだ。


「そこらも検証が必要か。」


狩には十全な準備が必要不可欠だ。そこにはメンタルも含まれる。

丁度、格下との闘いなので、余った時間は検証に回そうと考えつつも、雪山6番地に辿り着いた。


私はドスアルタスの威嚇音を聞きながら、戦闘開始した。


太刀の基本モーションの縦切りを2回。切り上げ、切り下がりでダメージを与えつつ闘気を回収する。闘気とは太刀武器の特有のゲージで、敵を攻撃する毎にゲージが上昇し、最大値までゲージを溜める事で攻撃力を上昇させるという物である。

一定時間を過ぎて攻撃をしなかった場合は徐々にゲージが減少して行くのでゲージを維持したまま狩を行うのが基本になる。


太刀の攻撃が当たると、剣先から炎属性の爆発エフェクトが奔り爆発音が聞こえた。


「なるほど。こうなるのね。」


属性エフェクトの発生で振り回す太刀に違和感は無い。無属性武器の様に使用できるのでエフェクトには反力が発生していない。

私は其の侭、闘気ゲージを使用した特殊攻撃に移行する。

右からのなで斬り、左からのなで斬りを連続し、その後に力を溜めての兜割に繋がる。


太刀の動作は十分に確認できた。後は、ドスアルタスを捌きながら、アルタスの狩猟に勤しむ事にした。

後、1撃で倒せる範囲でダメージを与え、特殊な鳴き声を誘発させる。目的は鳴き声に反応して出てくる白アルタス。


今回の目的の序でに特殊素材の宝玉を入手しようという算段だった。


アルタスは1%の確立で討伐時に宝玉が落ちる。この討伐時と言う部分が特殊で、基本的には討伐したモンスターから【剥ぎ取り】モーションでアイテムを入手するのが常のゲームに討伐しただけで入手できるアルタスの宝玉は入手経路が大変珍しいアイテムであった。


小型肉食モンスターから入手できるのはアルタスのみ。目的の防具を作るために5種類の宝玉が必要だ。

今回は雪山の白アルタス。計算上、200匹程度狩れば1つは宝玉が出る計算となるが、此処は運任せ。なお、ゲームクリアまでに宝玉を入手できない場合が多い模様。


所謂やり込みの1種だったがスキル構成が優秀な防具で努力相応の優秀さ。なお防御力は下級上位の防具に劣るので本当にやり込み防具だ。







肉質


武器のダメージ計算時に行われる数字の1つ。

アルタスの肉質5は最終ダメージ計算時、95%の武器攻撃力がダメージとして算出される。

中型以降のモンスターには、各部位に設定されており、基本的に頭や尻尾の肉質が柔らかいが、モンスターの攻撃の起点となる為に最も危険な立ち位置であり、慎重な行動が求められる。

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異世界攻略おじさん~廃ゲーマーが教える完全攻略マニュアル~ 煙道 紫 @endouyukari

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