第19話 煽りおじさん。

モンスターには剥ぎ取り確率の低い素材が多く存在している。それらは強い武器や防具を作る際に必須の素材で大抵の素材が20%程度の剥ぎ取り確率なのに対してレア素材と言われる剥ぎ取り確率の低い素材は数%。


中級の火竜アルマロスから低確率で剥ぎ取る事が出来る『火竜の竜玉』の剥ぎ取り確率は2%程度。

上級上位のアルマロス討伐からは5%で剥ぎ取れるので上級狩人になってからアルマロスの周回を行う予定だったが、狩人ギルドの余りのレベルの低さに大規模討伐戦で使用する武器を早めに作っておかなければ不安になったのだった。


「いやー長かった!」


私は周回後特有の解放感を味わう。1カ月も移動し続けたのだ。ゲームでの解放感とは比較にならない。

どの様なゲームでも周回は有る。その中でもインターネットゲームと言う物は非常にやり込み要素が強く、家庭用ゲーム機と比べて周回回数が多い傾向にあるのだ。

ギルドランクを3まで上げると、緊急クエストと言う形で始まる大規模討伐戦では大量のモンスターが町を襲う。そのモンスター達を討伐する場合、攻撃範囲が狭いハンマーでは不利になる。と言うか面倒になる。

今後、楽をする為に攻撃範囲の広い武器を作成する事がこの周回の目的だった。


「まあ、結局作るし・・・。」


火竜アルマロスの武器は片手剣しか評価されていないが、武器は強化するごとに単体のモンスターの素材だけでは無く、複数のモンスターの素材を要求されていく武器も存在する。

弱いモンスターの素材を基軸に強いモンスターの素材を使用する事で金属では越える事が出来ない強さを得ていくと言うのがコンセプトで、火竜アルマロスの素材を最終強化まで継ぎ足して行った武器は片手剣しか評価されていないが、他の火属性モンスターの素材を使う為の基の武器にはなる。


「という訳で出来たのが『火竜の太刀』!」


太刀と言う武器は攻撃範囲が大きく攻撃力も高い。それ故に初心者からプロハンまで御用達の武器である。本来は『火竜の太刀』の2段階強化先まで一気に強化を重ねていく予定だったが、仕方ない。


暫くは『モスハンマー』を使用する。武器毎のダメージ計算では同じ攻撃力でも攻撃速度の遅いハンマーの方が武器種のモーション計算時、最終的に与えるダメージの期待値が高い為だ。

ただ、一部の素早いモンスターや1撃で倒す事が出来る雑魚モンスターについては攻撃範囲が広い太刀の方が効率が良いのだった。


プロハンはモンスターによって武器種を変える。モンスターには相性が有るのだ。

そして・・・。


「おい、お前。王の御前である。跪け!」


武器を作ったので試し切りにクエストを受注しようとしたらこれである。

眼前には体格が良く横にも縦にも大きい『アイアンガード』という種類の防具を着た男。ゲームで良く見るフルメタルアーマーで【採掘】を使用して集める事が出来る鉱石系の素材をふんだんに使用した防御力の高い防具だ。武器は『ナイトソード』と呼ばれる双剣。これも鉱石系の素材で作る武器で、双剣と言う武器種と言う事を加味すれば攻撃力もそこそこで切れ味もそこそこという、中級中位の武器防具だった。


「私かい?ああ、クエスト受注は早い者勝ちだから、順番を守ろうね。あっ、雪山のドスアルタスのクエストをよろしく。」


こういった面倒な手合いはどこにでも居る。ネットゲームと言う、顔の見えない人間と遊ぶ以上はインターネットマナーが大切になって来るが、子供や大人になれなかった人間が喚き散らすのはよくある事だったので慣れていた。

クエスト受注を早く終わらせてしまおうと受付嬢を見ると受付嬢は立ち上がり頭を下げていた。

周囲を確認すると大体の狩人が片膝を地面に付けて頭を下げていた。こっわ。


「あー頭下げてないでさ、クエスト受注処理を早くしてくれないかな?」


「あっはい。」


私が受付嬢を急かすと彼女はクエスト処理を直ぐに始めた。

今回はプロハンになって始めて見るイベントに遭遇した。NPCとのイベントは好感度や時間がトリガーになって始まる。

好感度が高いなら良イベント、低いならその逆と単純で、イベントを熟すと新しいクエストを受注する事が出来る様になるのだが、そのどれもが面倒な割に実入りが少ないクエストばかりで隠し要素も無い為、『なりきりプレイ』をするには良いのだが強さを求めるのであれば不要としか言えない物だった。


そもそもアクションゲームにギャルゲーの様な好感度と言う仕様を入れたのは、運営がプレイヤーと『狩人道』をより良いゲームにして行くために企画した『君の物語をゲームにしよう!』と言う企画でキャラクターの短編を募集したのが始まりで、採用されると記念防具が貰えるキャンペーンをやっていたのだが、社内で人材移動があったらしく、中途半端に実装された運営の負の遺産である。

なお、私もカッコいい防具に釣られて応募したが余裕で不採用だった模様。


「おい、お前!無視するな・・・」


そして、執拗な狩人。恐らくだが、大人になれなかったタイプのプレイヤーだろう。(すっとぼけ)

こういった手合いは現実逃避の為にゲームの世界にのめり込み、部屋から出てこないので、弱点は現実だ。

私は執拗な彼を煽る為に諭す様に話す。


「君は。親に誇れる大人になってるかい?」


「は?なにを・・・。」


「今の君を見て、君の親はどう思うんだい?たった1,2分待てば良いだけの順番も守れないで怒鳴り散らして。ギルド職員の手を止めさせている。顔は見えないけど、成人してるんだろう?もう、昼間だ。仕事をしている時間じゃないのかい?」


「えっ?いや・・・。私は近衛騎士で。」


「勤務中に怒鳴り散らして威圧してるのかい?それが騎士なのかい?違うだろ。君は騎士じゃない。私は今、現実の話をしているんだ!君がいくら騎士になり切っていても周りは認めてくれないんだ。いい加減目を覚ませよ!」


最後は此方も怒鳴り散らす。

私自身、ゲームの中に入り込んだことは認識している。ゲームを模して作ったかの様なこの世界もクエスト移動時の馬車等、中途半端に現実を持ってきている以上、例えば私以外の狩人を画面越しに見ていると言う事も無い。と思いたい。

現実とゲームが混ざったこの世界の住民が元プレイヤーと言う確率も低い。


それはそうと煽る。


ゲーム時代。ネットマナーが酷いプレイヤーは掲示板に晒され、共有された。

誰だって気持ちよくゲームをしたいのだ。そういったプレイヤーは淘汰されて当然とも思っている。だからこそ、今、私は目の前の男を煽る。

ネットゲームでは煽り合いも一つの楽しみなのだ。

良い物でも悪い物でもコミュニケーションを楽しむ。私はそれも含めて遊戯であると思っているのだった。

受付嬢を見るとクエストの処理は完了している。私は其れを確認すると相手の男の反応を見ずに捲し立てる様にクエストに向かった。


「じゃあ。そういう事だから。ちゃんと親孝行するんだぞ!」


私は逃げる様にして馬車に乗り込む。

楽しい範囲で楽しく悪口を言い合うネットゲーム特有の文化をここに示した。




ネット煽り。


基本的には問いに対する答えが哲学的、論理的もしくはエンターテイメントに特化した物であればある程評価される。

「ばか」「あほ」「きもい」等、対面していない相手に対して根拠の無い悪口は幼稚とされ逆に馬鹿にされるのが常。


初心者狩人が「俺つえーから!」と全体チャットで言っているのを「お前が強いんじゃなくて武器防具が強いんだろ」と言うのがマナーになっている。

異世界転生もので良くある、俺TUEEEしているのは大抵このタイプ。

なお、本作も含まれる模様。

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