第17話 詰みの予感

「じゃあ、もうそろそろ戻ろうか!」


セレナ君との話で2分が経った。

別エリアに移動したので片手剣に装備を置換する。

ランスは別エリアの隅に置いておいた。


「ええ。そうしましょうか」


2人で4番地に戻るとトッド君が吹っ飛ばされていた。


「プロハンさん。トッドはどれくらいで出来る様になると思いますか?」


セレナ君が心配そうに聞いてくる。

グロッグ君との訓練では、比較的簡単な溜め攻撃での怯みキャンセルに予想以上に時間が掛った。


「うーん、今日中に出来たら超天才。回復薬が全部切れるまでに出来たら天才かな。正直、このクエストの内に出来るとは思ってないよ。セレナ君の訓練もあるから、数を熟すよりも1回1回を丁寧にやって欲しいイメージ。」


「トッド!数じゃなくて質だって!」


「解った。感謝する!」


狩の間は自然と大声になる。

指示が聞こえずにチャンスを逃したとか最高にアホなので、チャットを使えない現状ではこれが正しい。

モンスターは声に反応して発覚状態にならない。モンスターの索敵範囲内に入る事で発覚状態になるので、4番地の端で逆側の遠い所で戦っている分には発覚されようがないのであった。


トッド君が既存の回復薬を使い切った辺りで、私と交代する。回復薬は10個持ち込むことが出来る。調合分を合わせれば合計20個。丁度半分が終わったのだった。

次は片手剣のフレーム回避の練習だ。


「はいトッド君。交代だよ。エリア移動して回復薬を調合!2分経ったら戻ってきてね!」


私は片手剣でクルックーの腹を5度、切り付けてターゲットを取る。

トッド君はランスのフレーム回避の練習で1度も成功させることが出来ていなかったので、ヘイトは低い。

敵の攻撃に被弾するとヘイトが下がる。攻撃すればヘイトは上昇するが、今回の練習ではヘイトを取る為の3回しか攻撃していなかったので被弾数の方が圧倒的に多く、パーティー全員のヘイト値が極端に低いのだった。


「じゃあ、参考までに見ててね。片手剣は突進攻撃以外は全部避けれるからトッド君よりも忙しいよ!」


近くに居る私にクルックーの噛み付き攻撃をフレーム回避。

そのまま尻尾攻撃に移行したのでそれもフレーム回避。

連続啄ばみ攻撃をフレーム回避。

再度尻尾攻撃もフレーム回避。


「なんとなくイメージは湧いたかな?片手剣の回避行動は転がる動作になるけど、尻尾攻撃は尻尾を潜り抜けるイメージで、噛み付きは反対側に回避する。連続啄ばみは縦方向に迫って来るから左右のどちらかに回避をすれば当たらないよ。」


回避しながら話しかける。

突進攻撃は遠い処の相手を攻撃するものなので近距離では余り使用してこない。

クルックーの良個体に当たると、クエスト中の攻撃は全て上記の3種類に落ち着くので、その討伐時間は2分を切る。


「やって見ます!」


セレナ君とクルックーの相手を交代する。

彼女が腹に5度、攻撃を与えるとクルックーのヘイトがセレナ君に向いた。

私の最弱片手剣の攻撃力よりも良い物を使っているので同じ攻撃回数でも与えたダメージはセレナ君の方が大きいのだった。


セレナ君のフレーム回避の練習が始まった。

回避行動には気力ゲージを使用する。直ぐに回復するのだが、不用意に回避を乱発すると気力ゲージは直ぐに切れてしまうのだ。


「プロハンさん。戻ってきました。」


トッド君が回復薬の調合を終えて帰って来た。

暫くセレナ君が吹っ飛ぶ姿をトッド君と眺める。


「セレナの方が回避する攻撃が多くないですか?」


トッド君の練習では尻尾攻撃をフレーム回避する練習であったがセレナ君は突進攻撃以外の全てをフレーム回避の練習に使って貰っている。


「ランスはその場にモンスターを留まらせて味方の攻撃チャンスを作るのが仕事だから回避とガードに専念出来る。ランスは攻撃をあまりしなくても良いんだけど、片手剣はモンスターの撹乱が目的なんだ。攻撃力が低いから常に攻撃し続けないとダメージを与えられない。実は難しい武器種なんだ。」


初心者に『使いやすい』とされている片手剣だが、それはゴリ押しが出来る中級上位までが限界。それ以上になると敵の攻撃が来る度にフレーム回避を行い、絶えず攻撃し続けなければ為らないので中級者には非常に難しい。パーティー内での求められる役割が多いのだった。

ゲームでは片手剣を使用する狩人は『初心者』『プロハン』の何方かで、間の『中級者』には扱いが難しすぎるのが現状だった。


「本当はモンスターによって武器種を変えた方が良いんだよ。武器1種類を極めるのは本来、その後にやる事なんだ。」


素早いモンスターには片手剣か双剣を。隙の大きいモンスターには大剣かヘビィボウガンを。

武器種によって攻撃モーションが違うので、モンスターとの相性は如何しても出て来てしまう。私がハンマーを選んだのは、ハンマーは大体のモンスターに相性が良いからだった。


「プロハンさんが其処まで言うのですか。」


「中級の間は普通の回避でも通用するんだけどね。上級になると片手剣は基本フレーム回避が前提で動かないといけないし、敵の体力も多くなってくるから討伐時間も長くなる。討伐時間が長くなると被弾する確率が上がるからね。」


「・・・セレナは武器を変えた方が良いでしょうか?」


「最上級クエストでは片手剣は選択肢に入らない。結局はトッド君達のパーティーが何処を目指すのかが重要さ。」


「最上級クエスト?依頼表には乗ってなかったと思いますが・・・。」


依頼表を見る分にはハンターランクは関係ない。

ハンターランクを満たしていないとクエストの受注は出来ないが、依頼表は受付嬢から受注するだけでなく、クエストボードと言う掲示板にも貼られるので、見る事自体は出来るのだ。


「まだ貼ってないね。特定のクエストを熟せば、新しい受付嬢と一緒に出てくるよ。」


クエストの完了以外にも特定の条件でハンターランクは上昇する。

称号や特定モンスターの討伐数を満たすのだが、元々がパソコンゲームなので大変面倒な仕様だった。


「セレナ君!回復薬を使い切ったらトッド君と交代ね!」


「解りました、後2つです!」


セレナ君の練習をトッド君と見る。

翌日の日が昇る前にトッド君とセレナ君は調合分の回復薬を全て使い切り、練習は完了した。

グロッグ君達よりも時間が掛っていないのは攻撃を受ける頻度が圧倒的に多いからだろう。

私は最後にランスで怪鳥クルックーの討伐方法を見せる。


「練習も済んだし、もう遅い時間だから最後にランスの立ち回りだけ2人に教えるね!」


怪鳥クルックーの尻尾攻撃を背に受ける様にフレーム回避して腹にランスの突き攻撃を3回。突進攻撃はガードしてクルックーの威嚇中に嘴に3回攻撃。ステップで後方に下がり3回攻撃すると嘴の破壊が完了。

噛み付き攻撃を右ステップで回避し足に1撃。連続啄ばみ攻撃を右ステップで回避し足に後方ステップを含めて6発攻撃。クルックーが転倒したらランスの特殊攻撃の突進攻撃で終了する。


「大体3分くらいかな?」


最低ランクのランスでも正しい部位に攻撃する事が出来れば討伐速度はそこそこ早い。モンスターには部位毎に肉質と言う数値が設定されており、攻撃部位によってダメージの入り方が違う。

鈍器属性のハンマーなら嘴に12発当てれば討伐できるし、斬撃属性のランスなら腹か嘴に20発前後で討伐できる。

討伐後に剥ぎ取りを行っていると剥ぎ取り中のセレナ君が声を掛けてきた。


「流石はプロハンさんですね。通常は1日くらい掛かるのですが・・・。」


「中級で?それ、弱点肉質に攻撃してないと思うよ。」


「えっ。肉質って何ですか?」


「まあ、それは馬車でね。」


別フィールドに放置していた片手剣をセレナ君に持って貰い、ベースキャンプに戻り帰りの馬車に乗る。

セレナ君とトッド君の話では、誰でも狩人になる事が出来るが、その大体がハンターランク2か、優秀でも3らしい。


最低ランクの武器防具でクエストに向かうのは褒められた話ではない。私が防具を売り、有り金を使って鍛冶屋で買うことが出来る武器を買ったのは、最低ランクの防具は部位毎に1か3程度の防御力しかなく全部位でも合計12しか防御力が無い為である。スキルも付かないので、全裸の防御力と比べると誤差の範囲に収まる。

最低ランクの武器は切れ味が大変悪く、攻撃時に弾かれる可能性がある。

攻撃を弾かれると、弾かれモーションに入り隙を晒すだけでなく、モーション中に攻撃を食らうとダメージが30%上昇するのだ。


狩人の大体が討伐クエスト中に死に、私が聞く限りでは格上の討伐クエストに向かっている訳では無いので、狩人ギルドが狩についての情報を知らなさすぎるのだろう。


「これ、大規模討伐戦が始まったら詰むのでは?」


私はゲーム内イベントが予想よりも厳しくなると確信していた。

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