第15話 空白

おっさんに連れられて、雪山に来た。

火竜アルマロスの討伐後、少しの休憩も無く準備を行い馬車に乗る事になるとは思わなかった。

狩人になった時に行われる任意で受注する先輩狩人の初心者基礎訓練の100倍は辛い。


「おっさんは、疲れてないのか?」


「うん?疲れるような事やったっけ?」


「あっ(察し)何でもないです。」


俺たちの火竜アルマロスの討伐はギルド内で話題になった。

通常2日以上かかる竜種討伐を半日(その殆どが移動時間)で討伐したのに加えて、パーティー規模が明らかに少なかったからだ。


竜種の討伐には騎士団や、狩猟団と呼ばれる12人以上のパーティーで行われる。

常に攻撃を続けて、アルマロスを疲労させて仕留めるのが前提とされている竜種の討伐に於いてこれだけ短時間の、しかも少人数での討伐は国内でも初めてだろう。


小規模パーティーでの討伐はその実績だけでも国からの名誉を与えられるのだった。

そもそも、火竜の討伐が出来るパーティーは国内でも指で数える程しかいない。


狩人はモンスターを倒すたびに格を上げる。

これは、唯の人間には実現不可能な運動能力を与えるのだ。国の騎士よりも何倍も強いと言うのは、国の力で制御できない程に強いと言う事であり、称号の授与と言う形でその事がギルドカードに書き込まれる。

国が認めた強者である『ドラゴンスレイヤー』と。

言うまでも無く、その称号だけで大抵の人間が跪く。ドラゴンを殺せる人間が町を歩いているのだから当然の事ではあるのだが。


それだけの大仕事をしておいて疲れを微塵も見せないおっさんの体力は、それこそ人間離れしていた。

狩人歴が短い人間ではありえない事だった。


ハンマーだけでは無く、様々な武器種を使えるのは何故なのだろうか。

1つの武器を極めるのにどれだけの労力と時間が掛るのか。狩人は知っている。


雪山に来たにも関らず、インナーしか着ていないのは何故なのだろうか。

装備を付けないで日常を過ごすのはどの様な意味が有るのだろうか。雪山で装備を付けないのは自殺に等しいのだが・・・。


おっさんに対する興味は尽きない。

いや、彼曰くプロハンだったか・・・。


おっさんに大剣の『溜め』の基本的な出し方を教えてもらった。

目の前で突進攻撃をするモンスターに対して、どうしたら恐怖心を持たずにいられるのか。

おっさんが、手本を見せてくれた後には、俺がソレをやらなければならない。


「それ、回復弾と間違って攻撃弾を撃たれたら俺が穴だらけになるんじゃ・・・」


俺はモンスターの突進攻撃が余りにも怖く弱音を吐いてしまったが、おっさんはそんな俺を優しく叱咤した。


「グロッグ君、仲間を信じなさい。背中を預けると言うのはそういう事だよ。仲間に命を預けられないならパーティーは作ってはいけないんだ。」


イリヤを引き合いに出してしまったのは俺の心の弱さだ。

自分が恐怖しているのは、俺が悪いのではなくイリヤが後ろに居るせいだと言い訳をしてしまったのだ。

グフモスと対峙して、おっさんに丁寧に手本まで見せて貰ってまで吐いたのが、こんな言葉なのか。


自分の情けなさに怒りが込み上げる。

それが、ギルベルトと言う英雄を目指す男の言葉なのか。

一歩進もうと思ったのは英雄への道を諦める為では無い筈だ!


怒りが、大剣を構えた下半身に集中するのを感じる。

大地と足がピタリと接着し、抑えきれないような怒りの熱が全身を覆った。

これが・・・!


「これが、『溜め』か!」


突進攻撃の前のグフモスが鳴き声を上げる。

鼻息を何度も吹き鳴らしながら前足を3度、地面に擦り付けた。

これが、攻撃前のモーション。


「見える・・・見えるぞ・・・!」


これが、おっさんの見ていた世界。

グフモスが頭を下げて、その大きな牙を俺に突き立てようと迫ってくるが、今の俺は全てがスローモーションに見える程、集中していた。

全身を覆う熱が、腕に沁み込んでいく。俺は力の暴走を押さえつける様に大剣の柄を強く握った。


「こいつを・・・喰らええぇぇぇえ!」


それは、力の暴発に近い。

大剣の柄を強く握る事で押さえつけていた力の奔流が、怒りを動力源とした、抑えようのない暴力となって大剣と共に振り降ろされる。


そして、グフモスの鼻先に当たる前に俺の大剣は地面に喰い込んだ。


「へ?」


大剣を振り降ろした格好のまま俺は吹き飛ばされる。


「ごっふ!」


「いやー、ちょっとタイミングが早かったね!まま、良くある良くある。」


そして、おっさんの明るいフォローが凍えるような寒さの中響き渡るのであった。






狩猟団


狩人はクエストを受領する際にパーティー単位での受注が基本となるが、ギルドが推奨するパーティーの人数は6人以下。

1体のモンスターを囲んで攻撃する為には、それぞれの武器が味方に当たらない様に距離を取る必要があるので、この人数を推奨している。6人以上での狩についての罰則は無いが、攻撃効率や報酬金を考えると6人以下が無難。


6人以下のパーティーが2つ以上集まった時に、ギルドに申請する事で認められるのが狩猟団である。

竜種の討伐に狩猟団が使われるのは、昼夜を問わず攻撃し続ける為、パーティーを交代させる要員にするのに加え、竜種がそれ相応に大きいと言う理由がある。






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