第14話 簡単な練習

グロッグ君に大剣の訓練を頼まれた私は、それを了承した。

困ったときは助け合いだと、彼から教わったからだ。


さて、大剣の溜めの練習には段階がある。

先ずは猪型のモンスターであるグフモスの討伐任務。

グフモスの攻撃方法はその場で頭を振り上げる通称、ケツ掘りと突進攻撃の2種類しか無く、攻撃力も体力も低い為に突進攻撃を怯みアクションでキャンセルさせる練習には持って来い、なモンスターだった。


6時間掛けてギルドへ戻り、火竜アルマロスの討伐報酬を貰う。

折角だからと、全員分の練習を請け負った。その報酬をそのまま使い、鍛冶屋で販売している最もランクの低い大剣、ランス、片手剣を買った。

ライトボウガンはそれぞれに癖がある物が多いのでイリヤ君は其の侭の装備で来てもらう事になった。


そして、とんぼ返りで雪山での任務。『突進!グフモス』の討伐クエストを受注した。


「よし、じゃあ雪山へ行こうか!今日はグロッグ君とイリヤ君の練習をしよう!」


「全員で行かないんですか?」


セレナ君が尋ねるが、グフモスは下級中位の中型モンスターで狩人同士の武器範囲の関係上、一斉攻撃は出来ない。

味方同士でも武器に当たったらその場で転んだり、吹っ飛んだりするのだ。


「1人が訓練している所を皆で見るのはあまり意味が無いからね。イリヤ君は回復弾をグフモスに撃って欲しいんだ。グロッグ君はこの大剣で溜めの練習だね。トッド君とセレナ君の訓練は時間が掛るから明日にしようか。最高に疲れるだろうから十分以上に寝た方がいいと思うよ」


そう言ってから、雪山組みのそれぞれがギルドで『カライドリンク』を5つ買って馬車に乗り込む。このアイテムは雪山などの寒い地域で発生する、気力ゲージ消費速度2倍のデバフを10分間打ち消すアイテムだった。

気力ゲージは通常状態で100だが、クエスト開始から10分毎に最大値が25ずつ減っていく。この10分間と言う速度が寒い地域では5分間になってしまうのだった。


夜の帳が降り、周囲はもう暗い。

電灯が付いているわけでも無いこの時間帯は月明りを以てしても非常に暗く、夜行性のモンスターが出没する時間でもあった。


「とうちゃーく」


イリヤ君が馬車を下りたと同時に伸びをする。

本日2度目の狩猟は中型猪のグフモス。

中型と言っても体長10m以下と言うだけで、重量にして500kgは有る。


ギルドがクエストの度に配布する支給品を各自で分け合って登山を開始する。


「私に着いて来てくれ」


デバフが付く地形に入る前に各自がカライドリンクを飲み干して、準備は終わった。


グフモスは山頂手前の地域で活動するため、作戦を説明する。


「先ず、グロッグ君と私がグフモスに攻撃を入れる。そうするとヘイトが一番低いイリヤ君に突進攻撃をしてくるので、突進の間に入って、怯みの行動キャンセルで止める為の練習だ。大剣は最弱の物を装備して貰ってるから、大剣の溜め2以上の攻撃力で無いと怯みキャンセルで止める事は出来ない。初めは私が手本を見せるのでイリヤ君は睡眠弾を装填しておいてくれ。合図したら睡眠弾で攻撃。寝たら装備置換後にグロッグ君がやってみよう。」


やってみて、やらせてみる。

イメージが付かない初心者の内は有効な訓練方法だと思っている。


「グフモスは突進攻撃の前に、前の右足で地面を3回擦って力を溜めた後に突進するんだ。その行動を見たら溜めを始めるのさ。まあ、距離にも依るんだけどね。」


さて、戦闘開始だ。


発見したグフモスにグロッグ君とダッシュで近付き、グロッグ君が私の渡したハンマーで攻撃をしたのを確認した後、大剣の振り降ろし攻撃を当てる。


グフモスは戦闘状態に移行したので、遠い距離にいるイリヤ君に向かって突進行動をする為のモーションを行ったのを確認してから突進攻撃のルート間に入って、大剣の溜めを開始。


グフモスがイリヤ君目掛けて直線で突進攻撃を行うので、鼻先に合わせる様に溜め3を叩き込み、グフモスは怯み突進攻撃はキャンセル。


「イリヤ君、少し下がって。」


私もグフモスから距離を取り、グフモスが再度突進攻撃のモーションを確認し、溜めを開始。次は距離が短くなっているので溜め2で攻撃を開放した。

グフモスは怯んで突進攻撃をキャンセルする。


「イリヤ君、攻撃開始。」


グフモスは睡眠弾3発で眠る。睡眠弾を撃ち込んでいる間は大剣の横の刀身を盾にするガードで、イリヤ君に攻撃が入らないようにした。


グフモスが睡眠状態になったので、遠くで見ていたグロッグ君と装備の置換をする。


「はい大剣、見ててどうだったかな?溜めは大剣を上に担いで腰を落とし、下半身に力を入れればいい感じに出来るよ。2秒で溜め2、溜め1だと怯まないから気を付けて。」


「一応、やって見ます。」


グロッグ君は少し不安な表情で言ったのだった。


「大丈夫さ!全員、回復薬は調合分も含めて持ってきているから60個も使える。馬車で説明した通り、イリヤ君とグフモスの間に、常に入っている様に心掛けてみようか。イリヤ君は回復弾を装填して、グフモスとグロッグ君を纏めて回復してくれるかい?」


「わかった。私の練習はどうすればいいの?」


回復弾は貫通する。

仲間を纏めて回復する事も出来るが、射線を間違えるとモンスターも回復してしまうのがネックで、通常の狩には使用される事が少ない。ゲームではクエスト開始後、直ぐにフィールドへ立って状態から始まっていたので肥やしにもならないと大変不人気な弾だったが、現状はフィールドに到着するまで、片道何時間も掛けるような状態になってしまているので使用用途が出てきたのだった。


「回復弾装填後、直ぐに他の弾丸を装填、その後回復弾を装填・・・と言った一連の動作を繰り返してやって欲しいかな。ライトボウガンは弾種が豊富で色々なサポートが出来るのが利点だけど、状況にあった弾を選ぶのは経験しかないからね。グロッグ君がダメージを受けたら回復弾を撃って、成功している間は他の攻撃系の弾で自分ならこの弾を使うってのを装填して欲しい。モンスターが突進してくる迫力を乗り越えて、慌てずに最適な弾種を選ぶ練習さ。攻撃系の弾は撃たないようにね?撃つのは回復弾だけだよ」


「それ、回復弾と間違って攻撃弾を撃たれたら俺が穴だらけになるんじゃ・・・」


ゲームでは仲間同士の攻撃では吹っ飛ぶことはあっても、ダメージを受ける事は無かったが、現状は違うらしい。


「グロッグ君、仲間を信じなさい。背中を預けると言うのはそういう事だよ。仲間に命を預けられないならパーティーは作ってはいけないんだ。」


グロッグ君は前からも後ろからも攻められる恐怖で思わず弱音を吐いてしまった様に感じたので、真面目な表情で諭すようにする。


ちなみに、私は後ろから撃たれたくないので、この国でパーティーは作らないし、攻撃の前の準備モーションが無いモンスターでパーティー参加は絶対にしない。

なお、2人以上で行かないとクエスト時間内の討伐が不可能なクソモンスターが複数居る模様。私の他にプロハンいないっすかねぇ。


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