第13話 予想外

「アルマロスの突進はね・・・。」


先日、助けたおっさんの熱弁が馬車の中に響き渡る。


「・・・すれば、毒状態に加えて睡眠状態も獲れる。睡眠中の持続ダメージは2倍の固定ダメージが入り続けるんだ!」


正直、言っている意味は解らない。

ダメージは与えた傷の事だと説明されたが、武器種によって計算式が違うとかフレーム回避だとかヘイト管理だとか。

判っていないのは俺だけでは無いだろう。

俺たちよりも遥かに頭の良いセレナが都度、用語についての説明を求めている。

トッド兄貴も普段の無口っぷりが嘘かの様に、作戦について精力的に聞いていた。


狩人は何も武器を振り回す事だけが仕事ではない。

モンスターの弱点を資料から読み取り、その弱点を突くようにして立ち回るのが狩人。

だからこそモンスターに対する知識は先輩ハンターに金を払い授けて貰うか、資料室の生態報告書から経験を元に読み解くしかない。

どの狩人が言ったのか、知識は宝。頭の悪い俺でもそれは良く解っているつもりだが、このおっさんは火竜アルマロスの生態について非常に詳しく調べ尽くしていた。


「アルマロスは攻撃前に特定のアクションを取るんだ!空気を吸い込む音がしたら火球攻撃が来る。単発の火球は吸い込む時間が短くて、3連火球の時は吸い込み時間が長いのさ!近接なら音で解るよ」


まるで、見て来たかのような発言。

ギルドカードには討伐したモンスターの名前と、頭数も記録される。

おっさんのギルドカードには火竜アルマロスの討伐は記載されていなかった筈だが、それにしては詳し過ぎた。

セレナの質問にも直ぐに答えるし、トッド兄貴のランスの立ち回りの質問にも何が大切かを言い含めて指導している。


「ランスはヘイト管理が大切なんだ!皆を守る為の大盾だからね、アルマロスをパーティーでやるならランスは攻撃しちゃいけない。遠距離武器使いを突進やブレスから守るのが仕事だよ。運営は寄生ハンターの事が大嫌いだからね!逆手を突くのさ!」


「運営って何ですか?」


イリヤも随分、大人しく話を聴いている。

セレナは専門用語を紙にメモをしていた。

紙は高価な貴重品だ。それに書き記すのはそれだけの価値があると、認めたと言う事だろう。


「神の事さ!」


「えぇ・・・。」


傍から聞いていると、おっさんの言葉は胡散臭く詐欺にでも合っているのではないのかと思う。だがイリヤは兎も角、商人の娘であるセレナは詐欺だのペテンだのには極めて詳しい。田舎の過疎地からこの国のギルドに入ってからは、都会特有の詐欺の様な手合いも相手にして来たが、セレナはその度にパーティーを悪意から守って来た。


今更になって、セレナの頭脳を疑う程リーダーとしての器が小さい訳では無い。


セレナが背を正して聞き入っている時点で、おっさんの話にそう言った悪意も未熟ゆえの無知も存在しないのだろう。

グロッグはふと、空を見上げる。おっさんの熱弁を意識の外に追いやり風を感じていると、不意に違和感が襲ってきたのだ。


「そういえば、おっさん。防具は?」


「全裸に決まっているだろう?」


「それは!まて、ギルドに帰るぞ!」


悪名高い『モスハンマー』を装備しているのなら、アルマロスの攻撃を1撃食らうだけでも十分即死範囲だ。

初めて会った時から、ギルドの中でも防具を装備していなかったので違和感に気付けなかった!御守りとは言え、パーティーを組んだ以上はメンバーを生きて返すのがリーダーの仕事だ。


「・・・グロッグ。問題ない」


トッド兄貴が静かに俺を宥める。兄貴の眼差しは真っ直ぐと真剣だった。


「兄貴!」


「プロハンさんが言うのだから間違いない。」


「・・・兄貴?」


ギルドから乗り入れた時の和気藹々とした馬車中の雰囲気が一変していた。

気が付くとイリヤもセレナもヤバい宗教にでもハマったかの様に目をグルグルさせているし、トッド兄貴も・・・。こんな事を言う人では無い。


パーティーを守るためにランスを、痛みに堪えなければならない盾役を買って出た程、仲間思いな兄貴が一時的とは言えパーティーを組んだ人間を見捨てるような事は絶対にしないし、人を情報も無しに信じて「彼が言うから間違いない」等と思考を停止するような人ではない。

パーティーリーダーは俺だが、兄貴は道を違えそうな俺たちを一歩引いた目線で導いてきたのだ。


「グロッグ君は私が『モスハンマー』を装備しているから心配してくれたんだね。ありがとう。でも、当たらなければ問題ないからね。大丈夫さ!」


「成程!確かにどのような高火力の攻撃でも、当たらなければダメージを受ける事はない!流石はプロハンさんですね!」


セレナがおっさんの言葉に反応する。


「????」


俺は、リーダーだ。

そう、俺はリーダー。おっさんは兎も角、パーティーメンバーを疑う程,

器が小さい訳では・・・・・・無い。





「うっそだろ」


俺の心配を余所に俺たちの目標であった火竜アルマロスは10分も掛らずに討伐されてしまった。

俺が知る限り、竜種はその強い生命力から討伐に2日以上かかる超大物だ。

だからこそ、俺たちが討伐目標にして来た訳である。

国内を見ても竜種を狩れる狩人パーティーは指で数えるほどしか居らず、火竜アルマロスの討伐には勲章が授与されるほど、国では名誉とされていた。


それを、10分。

極めて効率的で、計算され尽くしたおっさんの指示に加え、最後に見せた大剣での『溜め3』。

おっさんの二の腕は力を溜める毎に肥大化していき、ギチギチと筋肉が唸っているのを確かに聞いた。

その後に放たれる渾身の振り降ろしは、飛行し迫り来るアルマロス頭部をかち割り、下の地面までを両断する程の威力。放たれた瞬間に光が見えたのは刀身を振り降ろした際の残像か。


俺は、子供の頃から狩人に憧れていた。

きっかけは1冊の本『ギルベルトの冒険譚』。伝説の狩人ギルベルトのパーティーが未開域を渡り歩き、各地で伝説を作っていく冒険譚を作者が各国からかき集めて、時系列順にして書き下ろしたもの。

ギルベルトは実在しその伝説は今も尚、歌で、本で、昔話として語り継がれている。


それと比べて、俺はどうだ?

パーティーを生かして返す為、安全を取りクエストを受注しているが死闘をした事は無い。ギルベルトの伝説は彼の死闘の数々を記録したものであった筈だ。


俺は、ギルベルトに憧れて狩人になった。彼が使っていた大剣を手に取って。

今でもその思いは消えていない。

だからこそ、


「おっさん。大剣を教えてくれないか?」


安全だけを取り日々を浪費するだけの現状から一歩、踏み出してみる事にした。



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