第12話 プロハンターの狩

さて、やってきましたのは森丘フィールド。

片道6時間の道のりも何度も通えば流石に慣れてくる。


移動の途中で攻撃弁当を食べて攻撃力を上昇させておいた。

正直、パーティーまで連れてきたのだから火力的には過剰なので、結構遊ぶつもりだった。


途中、グロッグ君に防具の事を聞かれたので防具無しで行くと言ったら引き返そうとした事件があったがトッド君の説得もあり、今は沈静化している。兄は強い。


森丘フィールドのベースキャンプに到着すると、支給品を取らずに最速で4番地に向かう。12番地以降は熱帯雨林の様な湿度を持つ森丘フィールドだが、その前の番地は牧歌的な土地で、大変戦いやすい地形だ。


事前にパーティーメンバーにも支給品を取らない事を通達していたので移動に淀みは無い。


4番地に到着すると、イリヤ君に毒弾の装填をお願いし、セレナ君には手前の小型肉食獣のアルタスの討伐をお願いした。全てのアルタスの群れを討伐するとそれぞれの位置に着く。


「よし、じゃあグロッグ君はこの場所で合図したら大剣の溜め3をお願いするよ!」


「ん?溜めってなんだ?」


「え?」


そして、予想外が起きた。大剣の魅力の殆どは溜めと言われる特殊攻撃にある。

単純に大剣を構えて力を溜める事で1撃のダメージ量を上げる動作なのだが、出来ないらしく、中年の悪い癖だろうか今回の狩の間に教えようと言う思いが込み上げて来てしまった。


「よし、じゃあ狩の間に教えよう。この場は私がやるから、尻尾の方を頼んだよ!」


「あ、ああ」


そして、影が出来た。


「イリヤ君。まだ撃たないでくれよ!」


この段階で攻撃してしまうと空中ツアーと言われる遅延行動を取るのだ。

何もしてこないし、何もできない割に10秒以上飛び回るのでそれを眺める事しか出来なくなる。


さて、火竜アルマロスの足が見えた瞬間にハンマー通常攻撃の振り降ろしを2回、そしてホームラン攻撃。


「ガァアアッ!」


「よし、当たった。イリヤ君!毒弾攻撃開始!」


私がやったのはホームラン攻撃を下降中のアルマロスに当てる事。

対空中に一定以上のダメージを与えると空中で怯みを起こし、墜落する。

通常の怯みは敵エネミーの攻撃キャンセルと数秒間の怯みアクションによって、狩人の攻撃チャンスになるのだが、空を飛んでいる間の怯みには墜落ダメージが入る。

小爆弾1つ分のダメージだが、肉質に関係なく固定ダメージで入るのでどの竜種にも有効な戦法だった。


イリヤ君の毒弾がアルマロスに命中する。


「後5発撃ったら睡眠弾に切り替え!近接は立ち上がったら尻尾攻撃に注意!」


私は墜落モーションの間に頭部を通常攻撃のホームラン攻撃までの流れをする。

ダメージ効率が一番良いし、スタン値も稼げるのでこの方法が最も有効だった。


アルマロスが火炎弾を吐く。狙いは私だ。


「見とけよ、見とけよー」


私はその火球を前転で回避する。

一般的にフレーム回避と呼ばれる技で回避時の無敵時間を利用した回避方法である。

これが楽しいんだ。


「えっ!火球がすり抜けた!?」


イリヤ君は遠目に見ていたので私がやっている事が見えたのだろう。

丁度良くアルマロスは毒状態になる。


「睡眠弾8発!トッド君は突進に注意!」


アルマロスの突進攻撃はヘイト値の低いメンバーに攻撃を行う。

トッド君に攻撃をさせなかった理由だった。

突進攻撃はフレーム回避できない。近接攻撃をしているメンバーに突っ込ませてしまったらダメージを受けるので頭を殴っている私がトッド君の線上に位置取り、私は突進攻撃時に回避。

突進はトッド君とイリヤ君に向かうが、ランスは自分の気力を使う事で防御範囲に居るメンバーを守る事が出来るので問題ない。


「武器を仕舞って咆哮の範囲外に逃げる!近接攻撃は終了。全員私の後ろに移動!」


イリヤ君とトッド君は直ぐに行動を起こした。

道中にパターンを教え込んでいた為、機械的に行えていた。

私は溜めを開始する。アルマロスの突進攻撃は2回ある。1度目の突進攻撃を外すと2度目の攻撃を行う仕様になっているので、攻撃を食らわないプロハンター的には2度目の突進攻撃は確定だ。


アルマロスの突進攻撃が私に向かって来る。

私はアルマロスの突進に合わせ、鼻先に当たるようにスタンプ攻撃を当てるとアルマロスはスタン状態に移行した。突進攻撃は強制中断し、横に倒れ込むように悶絶する。


「セレナ君とグロッグ君は担当部位に攻撃開始、イリヤ君は残りの睡眠弾ぶち込んで!」


睡眠弾の被弾数を数える。

後2発。

1発。


「全員攻撃中止!咆哮の範囲外に退避、イリヤ君は毒弾装填」


アルマロスは睡眠状態に移行した。本来ならグロッグ君の大剣の溜め3を頭に当てたいのだが、睡眠終了後は怒り状態に移行する。毒状態で睡眠を取ると毒ダメージが2倍になるので毒状態が切れるのと同時にスタンプの振り降ろしのみを頭に当てた。


「ギャァアァァァア!」


咆哮攻撃を食らうとダメージは受けないのだが、体が一定時間硬直する。

その間に火球や突進を食らうのが素人ハンターのよくあるパターンだが、プロハンターは咆哮攻撃をフレーム回避で避ける。

アルマロスに近付くようにして前転回避。振り降ろしを1回して、溜め開始。


「全員、攻撃開始!」


暫く攻撃していると足のダメージ蓄積でアルマロスが転倒し、尻尾の切断も出来た。

アルマロスは飛び上がり、上空から火球を打ってくるが着地時にホームラン攻撃で撃墜。

上空からの爪攻撃は最もヘイトを稼いでいるメンバーの私に攻撃が来るのでフレーム回避をして、着地時に撃墜。


そして、遅延行動である空中ツアーを開始した所で、グロッグ君に溜めの使い方を教えるために大剣を借りた。


「グロッグ君!大剣借りるよ。ハンマー持って下がってて」


アルマロスは空中ツアー時に上空から強襲爪攻撃を行ってくる。

これを利用して、魅せプレイをするのが私の目的だった。


上空のアルマロスが私に狙いを定めた瞬間から大剣の溜めを開始する。

大剣の溜めはハンマーの為と違い、溜め行動中に動く事と自分の任意のタイミングで最大溜め攻撃を開放出来ない。

ハンマーは最大溜め後、その状態を気力が続くまで維持できるが、大剣は3秒間の溜め後に自動的に振り下ろす。


タイミングが重要な特殊攻撃だが、威力は非常に強いのだ。


「こう・・・やって・・・振り下ろす!」


溜め開始から3秒後、渾身の1撃が振り降ろされる。

その振り降ろされた大剣に吸い込まれるように向かっていったアルマロスの頭部が、破砕音を鳴らすのであった。


「あれ?」


終わった。

実感ではもう少し体力が多かった筈なのだが、中級の依頼に態々パーティーを組んで行かないので、パーティーメンバーを加えたらこんなものなのだろうか。それとも攻撃弁当のお陰か。


うん。いい感じに遊べた。

特にフレーム回避はプロハンターの嗜みだ。プロハンターになる為の練習台に使われる事も多いモンスターなので腕の衰えが無い事を確認できた。


「よしっ、じゃあ剥ぎ取ろうか」


グロッグ君に大剣を返し、ハンマーを受け取りメンバーで剥ぎ取りを開始する。

2回の尻尾剥ぎ取りからは鱗。5回の本体剥ぎ取りからは甲殻、鱗、火炎袋が出た。

火炎袋は火属性の武器を作成するのに必需となるので、これは運が良い。


「ふむ、楽しかった」


この世界の初めてのパーティーとは、とても楽しい狩になったのであった。




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