第10話 はじめてのパーティー
私の初めてのクエストの受注から2週間が経過した。
2回目のギルマスとの同行以降は、無駄に絡まれる事も無く、平穏な日常を送っている。
私は個室の有る宿屋に宿泊しながら昼食と夜食を宿屋で食べて、クエスト終わりに1杯だけ飲む事が日課のようになっていた。
それも、クアルコスのクエストの移動時間だけで往復12時間も掛る。
金策は周回効率を求められるものであり、例え討伐時間が短くても半日も移動に費やしているのなら金策としては微妙になる。
しかし、ギルドポイントの事も考えるのならばこのクエストが中級に行くための最短ルートに違いなかった。
そして先日、やっとの事でクアルコス討伐クエストを10回終了させ、ハンターランクが2に上がったのだ。
これで、難易度5までのモンスターを討伐できる。
そして、竜種でも人気の高い良モンスターである『火竜アルマロス』の討伐が出来るのだ。
火竜アルマロスはナンバリングを重ねた中でも必ずと言って良いほど登場したモンスターで王道のカッコよさと強さを併せ持つ火竜種である。
口から吐くのは青い炎を纏った火炎弾。
空を飛んでの毒爪での強襲攻撃。
上位から確認できる怒り状態での形態変化は男の子のハートをきちんとキャッチした。
公式のお気に入りでもあり、『空の王者アルマロス』は中級からZ級と呼ばれるエンドコンテンツ(最上級難易度)まで強化され続けるのだった。
狩っていて楽しいモンスターであるのに加えて、防具も強くてカッコいい。
武器は残念な事に片手剣しか評価されていないが反面、エンドコンテンツのアルマロス防具は攻撃力特大アップを始め、火力スキルが盛り沢山なのに加えて火属性特大アップまで付いているので、火属性が弱点の敵についてはアルマロス防具一式が最適解とされていた。・・・残念な事に火属性を弱点としているモンスターは少なかったのだが。
私自身、アルマロスが写るパッケージを見てゲームを購入したと言う経緯がある為、一層の事思い出深いモンスターだった。
私は中位モンスターのクエストを案内してくれる受付嬢の元に向かう。
「『死闘、アルマロス』のクエストをお願いします。」
「・・・・・・・・・はい」
中級依頼の受付嬢は下級依頼の受付嬢とは違う人物であったが、やはりと言うべきか装備なしの全裸ハンターに慣れているのだろう。下級依頼の受付嬢の様に無駄に騒がず迅速な対応である。
よーし、折角だからギルドでお弁当頼んじゃおうかな。
ギルドでは有料の弁当をクエストに1つだけ持ち込むことが出来る。
設定では移動時間の間に食べる事で素材によって様々な効果が出るのである。
代表的なのは体力弁当や火事場弁当、攻撃弁当だったか。
私は攻撃弁当と呼ばれている『辛カルビ弁当』を頼む。
中級程度のアルマロスでは本来弁当は必要ないが、折角のアルマロス戦は全力で臨みたいのだった。
私が弁当を受け取り上機嫌でいると、急に肩を掴まれた。
「おい、おっさん!元気してるみたいで良かったぜ!」
「君は、グロッグ君か!」
振り返ると、森丘フィールドのベースキャンプで助けられた短い茶髪の若者、大剣使いのグロッグとそのパーティーメンバーが揃っていた。
馬車での道すがら彼からは色々な話を聞いていたのだ。
少々ガサツな面もあり強面だが、元気で気持ちの良い青年だった。
「正直、堅気な仕事に就いているのかと思っていたぜ!」
「いやね、私も若い君達みたく、狩に力を尽くそうと思ってね。」
はっはっはと笑い合う。
年上の後輩を持った彼は私の事をどう思っているのだろうか。
「それは良かった!確か、2週間位だったか。ハンターランクはどうなった?」
「ああ、今のハンターランクは2だよ。移動時間が長すぎて時間が掛ってしまった。今から火竜アルマロスの討伐に行くんだ。」
「えっ?ハンターランク2って、私たちと同じ・・・?」
長い金髪が美しいライトボウガン使いのイリヤがグロッグ君の横から顔を覗かせる。
確かグロッグ君と同じ22歳だっただろうか、美しい少女である。
「君は、イリヤ君だったね。君達もハンターランク2なのかい?」
「ええ、2年程狩人をしているのだけれど・・・。おじさんは本当に?」
「そうさ、ほらギルドカード」
ハンターギルド入会時にはギルドカードと呼ばれる成績表が個人に配布される。
設定では、どの国に居ても正当な評価を得る為に配布されるもので、モンスター討伐数や称号、使用武器・防具、ハンターランク、ギルドポイント、ギルドに預けている所持金等の個人情報が詰まっている。
狩人はギルドカードで預金を引き落としたり、情報の交換をするので名刺代わりにこのギルドカードを見せ合うのが手っ取り早い自己紹介の方法だった。
何より、ギルドが公式に発行するものなので嘘が無いのが良い。
「わっ本当だ!おじさんすごいね。」
「はっはっは、おじさん頑張ったからね!若い子たちにはまだまだ負けんよ!」
私は野球のバットを振るような動きで腕を振る。
ハンマーの通常攻撃の3撃目。下から思いっきり振り上げるその様は、ホームラン攻撃と同じ動きだ。
「おっさん。そういえばさっきアルマロスを討伐するって言ってたよな?パーティーメンバーは何処にいるんだ?」
「うん?1人で行くのさ。彼とは長い付き合いだからね」
「ちょっと待って!おっさん死んじゃうよ?」
グロッグ君の隣から出てきたのは、ふわふわした印象の長いピンク髪の少女であるセレナ君だったか。ハンターでは珍しい片手剣使いだ。
「まさか!中級程度のアルマロスに負けるわけないじゃないか」
ジョークの様な話に私は思わず笑ってしまった。
アルマロスの事が好きすぎて、中級程度なら12種類の最低ランクの武器をどれでも持って、アイテム使用無しの全裸ノーダメージ討伐が出来る。
「うーん。狩人は自己責任だけど、ちょっと心配かなー。折角助けたのに死なれたら目覚め悪いし・・・。」
「流石に見逃せないな!じゃあ、おっさん!俺たちも行くぜ!」
「・・・うむ」
このパーティー最後の一人、ランス使いのトッド君だ。
グロッグ君の実の兄で茶髪に短い髪に、古い傷跡の残る顔が痛々しい。大変無口だが、パーティーメンバーの事を一番気遣っているのは彼だろう。
確かグロッグ君達よりも3つ年上だったかな?
「そうか・・・。じゃあ、お願いしようかな!」
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