第7話 大変な変態

初代ギルドマスターからこのギルドを預かって60年。

かつてのギルドの従業員が年老いて引退していく様を見て、人間達の寿命の短さに寂しさを覚えながらも時代を担う新人達を1から育て上げ、たったの4,5年で胸を張って仕事をしている様を見ると植物の様に過ごす竜人族よりも勤勉で早熟である事は否定できな事実だろう。


狩人ギルドはいつも忙しい。

人類の支配域が大陸の2割程度であるので大陸を切り開き、支配域を広げる事が急務になっているからだ。

現状でも人類の支配域に対して人口が多すぎる。

海は巨大モンスターの巣である場合が多く漁が出来ず、一歩でも支配域から出れば自然の生態系が無慈悲に襲ってくる。

竜人族の様に寝なくても行動できるわけでも無く、植物の様に水だけで生きていける訳でもない弱小種族の人類にとって、この星の自然はあまりにも非情だった。


それでもこの星で生きていくにはアルタスの様に群れるしか無く、ポギーの様に支配域を主張する為の堀と壁を作って、代わる代わる寝ずの番をする他ないのだ。


人は限られた支配域で社会的なヒエラルキーを持つ事で、その最下層の人間を犠牲にしながらなんとか生きながらえていた。


そして最下層の人間が唯一、その社会的なヒエラルキーを急激に上昇させることが出来る職業が狩人である。

モンスターの素材は非常に有用な物が多い。

人が振るう武器・防具にモンスターの力を備え付けるだけでは無く、人間としての格を段階的に上げる事で、通常の人類の進化の中ではありえない程の力を付ける事が出来る。


狩人ギルドはそういった人間達の管理を行い、ハンターたちが国の中で住民と衝突しない様に調整する意味合いで各国に必ず設置される国営機関だった。

力を付けた人間はその国でのヒエラルキーを上げる。

力を付けたハンターにしかできない事は山の様にあり、弱者は強者の慈悲に縋るしかないのは自然な流れ。

だからこそ、勘違いを起こすハンターも居る。

住民を奴隷の様に私物化し、非道を行う者を別のハンターが制裁を加える事で一応の均衡を保っていた。


我々、狩人ギルドが危険視するのはそういった非道なハンターだ。

強い者が強い者を監視し、問題を起こした場合に制裁を加えると言う側面を持っているが為にギルドの最重要業務は危険人物の監視であった。


そして、


「・・・この男」


何故かインナーだけで狩人ギルドの門を叩いた男。

人間でいうなら中年と言って差し支えないような、くたびれた様を隠そうともしない男は、身の程を知らずにも鳥竜クアルコスのクエストを受注した。


鳥竜クアルコスは下級のハンターが1人前と呼ばれる中級ハンターになる為の昇級試験になるモンスターである。

武器・防具を十分に固め、回復アイテムや足止め用アイテムを正しく活用できているかの確認の為の依頼であるが故に、防具を付けずアイテムを持っていかないと言うのはお話にならない。


格を上げていない、

例えば辺境の村に出没すれば、追い返すまでに必ずと言って良いほど死人が出る。

要するに、唯の『人』から格を上げた『狩人』になったかを確認するための依頼が鳥竜クアルコスの討伐。


だからこそ狩人になり立ての、村人然としたこの中年男が装備無しで、生物としての格が違う鳥竜クアルコスの討伐依頼を受けたのは自殺でしかなかった。


無い筈だったのだが・・・。


「ソフィア、彼は・・・。」


「ええ、私が鳥竜クアルコスの依頼をお停めした方です。討伐証明になるだけの素材をお持ちでしたので討伐成功の処理をいたしました。」


彼女も同じ気持ちだろう。

狩人に夢見て未開域に挑み、散っていったハンターは山のようにいる。

未熟な者も熟達した者も一瞬の気の緩みが生死を分ける事になるなど、今更語るまでも無い。

だからこそ、彼の死は確定的だった。


防具無しでの活動などハンターどころか村人でもやらない。と言うか普段から服を着ていない人間はこの国を見ても彼だけだろう。服を着ろ。


「彼は・・・。何者だ・・・。」


彼の狩人登録は確かに初めてだった。登録時に各国に活動履歴が無いのかを確認するため重複しての登録は出来ない仕組みになっている。

そして、狩人としての格を一切上げずに初依頼で鳥竜クアルコスを討伐したと言う事は子犬が虎を食い殺したと言うレベルでの非常識。


そう思ったからこそリュウゼツの行動は早かった。


「彼を暫定での危険人物として監視します。」


明確な違反を起こした訳では無いので明らかに過剰干渉である。如何に狩人ギルドでも犯罪を起こしてもいないハンターの行動を制限するのは論外。


装備をしていないのも恥部を隠しているのだから罪に問えない。

だが、その在り様があまりにも異質であった為の措置・・・だが。


「彼が、どのレベルに居るのか・・・確かめなければ」


恐怖心を消すには理解する事だとリュウゼツの経験が語っていた。

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