第3話 やばいおっさん

ソメリア国が抱える大規模狩人組合、通称『ハンターギルド』。

100年を越える歴史がある世界でも指折りのこの狩人ギルドの窓口として新人配属されたソフィアは大変な危機的状況に陥っていた。


いや、変態なの間違えだろうか。


眼前には上下インナーのみで狩人ギルドの説明を求めるおっさん。

狩人は基本的に15歳以上の成人であれば、登録料も無く誰にでもなれる。

人類の生存域が2割程度しか無い中で生存圏の拡大は人類側にとっても急務であり、限られた領域内だけでは無論の事ではあるが、食料も自然の恩恵も足りていないかった。

人類の人口急増に合わせて狩人についても比例するように増加していく。大抵は明日の食事もままならない浮浪者の場合が多い。

限られた生存圏を多数の人類が奪い合っている状況なのだから、弱者が食えなくなるのはある意味自然的なのだろうか。


そんな世界情勢の中、ハンターギルドの受付嬢として浮浪者の登録は何度もやってきた。


そして、その大体が最低ランクの防具を付けてクエストを受注し、帰ってこない事が多い。狩人になる様な人間はそういった事を覚悟して来ている事は承知しているが、命の軽い世界に対して涙を流してきた事もある。


やっと、受付嬢という仕事に胸を張れるようになってきたのに。


ある程度の浮浪者を相手取って、受付としてもやっと板に付いてきたと先輩からお言葉を頂いたソフィアにとっても初めての状況だった。


ハンターギルドの通例として、ハンターギルドの入会時に初心者武器と防具を支給される。

全身最低ランクの防具に12種類の武器から1種類だけ好きな武器を選び渡されるのは先輩狩人達が、自身のクエスト達成料金から少しずつお金を出し合って、初心者の生存率を上げると言うハンターギルドの100年の歴史の中で芽生えた善意であった。


狩人の死亡率は高い。

モンスターを倒せば相応の達成料金に加え、モンスターの素材も手に入る。一獲千金を狙うことが出来る数少ない職業であるが、毎日のように命を賭けているのだと考えるならば普通の人間はやらないものだ。

そのハンターギルド100年の歴史を鑑みても前代未聞だろうと思う。


このおっさん。


防具を全部売りやがった。

スパッツを見ると、もっこりとした下半身が嫌に目に付く。


「あー、鍛冶屋ってどこにある?」


「ハンターギルドを出て右手にありますよ」


「ありがとね」


軽薄そうにおっさんが手を振り、鍛冶屋に向かう。

暫くして担いできたのは大振りのハンマー。


「この依頼受けたいんだけど・・・。」


そして、受注しようとしているのは身の程知らずな依頼。


「あの、このクエストは中級狩人向けで・・・。」


「ランク的には問題ないと思うケド」


確かに問題は無い。

だが、受付嬢としてではなく心ある人間として注意はしなくてはならない。

たとえ、先輩たちの善意を即、金に換えた心無い人間であっても。


「初めてのご依頼ですし、契約金がない物を選ぶ事をお勧めしています。」


「防具も無いし、止まる所のお金が欲しいからこの依頼にするよ」


お前が売ったんだろ。と言う言葉を飲み下してソフィアは止めに入る。


「いえ、防具が無いハンターが受けるには荷が勝ちすぎていると言うか・・・。」


ソフィアが食い下がって目の前の馬鹿なおっさんを止めに入るが如何にも聞き入れてくれそうにない。困っていると、この悶着を見つけたのかギルドマスターが仲介に入ってくれた。


「はじめまして、ギルドマスターをしているリュウゼツです。なにかありましたかな?」


「いやね、受付嬢にクエストを受注させて貰えず困っているのです」


これは、とソフィアに目を向けるギルマスにソフィアも説明に入る。


「鳥竜クアルコスの討伐依頼です。初めてのご依頼ですので御止めしています」


ギルマスは困ったような顔をしておっさんに説明する。


「私からも一応御止め致しますが、ハンターランクを見ますと受託できる範囲になりますので受注自体は出来ます」


「ああ、よかった。じゃあ受注処理をよろしくお願いします」


ギルマスの制止さえも振り切り、おっさんはクエストを受注してしまった。

おっさんの背を見ながら、ソフィアはため息を漏らす。


「ソフィア、ああいう方もいるのですよ。身の程に合わない自信を持った方が。彼が帰ってこなくても貴女は責任を感じる必要はありませんよ」


「・・・はい」


ギルマスも感じているのだ。彼は帰ってこないと。


何とも言えない嫌な気分になりながらソフィアは業務を続けるのであった。





鳥竜クアルコス


森丘・沼地・火山に分布する鳥獣種。

大きな鶏の様な姿で尻尾を振り回して攻撃してくる。

特徴的なのはモフモフの羽を周囲にまき散らし、口から吐く火炎弾でその羽に着火し攻撃を行う、範囲攻撃。

なお狩人が一定の行動をすると、自身の体にも火が燃え移る様からネット上では、

不死鳥(死なないとは言ってない)の愛称で親しまれている。

竜種の基礎行動を全て行い、チャンス以外は攻撃しないと言う基本を教えてくれる為、先生とも呼ばれる。


中級ハンターに上がる際の課題依頼モンスター。







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