第2話 全裸ハンター
温かい陽気に目を覚ます。
太陽の光が私の顔を照らし、芝生の青臭い香りが心地良い風と共に体を吹き付けた。
「さて、」
異様な現状に脳内がエマージェンシーコールを鳴らす。
冬に暖房を付けて寝ていたのだから芝生の香りがするのは可笑しいし、そもそも冬に窓を開けて寝ないだろう。
慌てて飛び起きると自分の格好にも明らかな変化。
オレンジ色の短いスパッツに短い袖の布の服。
レーディングの都合上、乳首と股間を隠しているこの状態は狩人道の【全裸】と呼ばれている何も装備していない状態であった。
「あかん死ぬぅ」
格好は全裸。武器なし。
狩人道の始まりは町の中で、町長から最低ランクの防具と武器が12種類支給されるがこの状態はそれ以下。ゲームを思い起こすと現状、アクションの【張り手】【挑発】【蹴り】だけが攻撃手段になっている。どれもスキルを使用しなければ固定ダメージは1である。
結論、モンスターとの遭遇はそのまま死である。
一般的に最弱と言われているミニブタでもその体力は130。
武器を使えば1撃だが、この状態では・・・。
兎にも角にも先ずは町を見つけなければならないだろう。
周囲をよく見ると、この場所は森丘フィールドの3。
最も近いベースキャンプまでに小型肉食獣アルタスの小群を抜けなければならない。
アルタスの攻撃力は全裸の状態で20~25。ハンターの体力は初期で100固定。
最短4発で死ぬ。
「・・・ダッシュで抜ける他無い・・・が」
アルタスの攻撃で飛び掛かりがある。
これは山なりにジャンプをしてプレイヤーに爪を立てると言う攻撃であるが、その攻撃には吹き飛ばし能力があり、攻撃を受けるとアルタスの飛び掛かり方向に大きく吹き飛ぶ。
この攻撃はモンスターAIの問題で、プレイヤーのダッシュ時に使われることが多いのだが、アルタスの最強の攻撃であるので全裸のまま攻撃を食らう事を避けたかった。
ゲームでは体力が0になった瞬間にネコタクと言われるケットシーの集団が救護に入る演出が挿入された後にハンターはベースキャンプに移送されているが、この現状でそれを期待する事は出来ないだろう。
何故なら、ハンターがクエストを受注しているから専用の救護隊が編成されると考えられるからだ。
いや、しかし、
「ここはゲームなのか?」
そもそも、今立って居る場所がゲーム内なのか現実なのかが判らない。
例えば、敵エネミーはフィールドを自由自在に駆け回っている訳では無い。
この、森丘フィールドならば、1,2,3・・・とフィールドを区切る番地が振られている。敵エネミーはこの番地を越えることが出来ない様になっているのだ。
だが、ゲーム内のイベントである大規模討伐等は町に雑魚エネミーが襲撃するイベントであり、これはフィールドに振られた番地から敵エネミーが進軍してくると言うものだ。
この場合を考えると敵エネミーは番地を越えてくる。
つまり、安全地帯であるベースキャンプは安全地帯足り得ないと言う事になるのだ。
・・・これは検証しなければならないだろう。
私は、最も近い採取場所で薬草を採取する。町の商人から30F(フューゲン)で買う事が出来きる、体力を微量回復させる薬草は自分の命を繋ぐ貴重な物資となっていた。
1場所の採取回数は4回。薬草の排出確率は60%だが、幸運にも3本の薬草を手に入れる事が出来た。
「さて・・・行くか」
自分に気合を入れる。
雑魚の代表角である小型肉食獣種と死の鬼ごっこの始まりだった。
「おぎゃあぁぁぁあぁあぁ」
叫びながら走る。
現実なのかアルタスを見た瞬間に、その肉食獣特有の臭気が私の恐怖心を掻き立てたのだ。
恐怖で指先の感覚がなくなり、無駄に大きなフォームで走っている事を自覚できたので、声を出して恐怖心を掻き消す。
なお現実では、周りから見ると不審者であるこの方法を使う事はやめた方が良い。
兎に角ジグザグに走る事を意識する。
アルタスの飛び掛かりはその性質上、途中で着地点を変更できない。
ターゲティングされて飛び掛かってくるのだから、その着地点からずれる様に動く事で回避できる。
必死のダッシュを続けていると、急に脳内が真っ白になりその場で立ち止まってしまった。
「あ、やべ」
ダッシュや武器の特殊攻撃時には気力を使う。
歩くなどの気力を使わない状態である限り時間と共に回復するのだが気力を使い切るとその場で立ち止まり大きく深呼吸する動作に移る。
このアクションの最中は基本的に無防備であった。
「ごぶっ」
アルタスの飛び掛かり攻撃が私を襲う。
私は次の番地まで大きく吹き飛ばされていくであった。
「セ―――――フっ!」
吹き飛ばし状態から回復すると敵エネミーは番地を越えて追ってこなかった。
薬草を2つ飲み下し体力を回復する。
この情報で確定的になった事がある。
「ゲームの中っすわこれぇ」
肉食獣が弱っている獲物を逃す意味は無い。
それに、インナーにも傷が付いていなかった。
飛び掛かり攻撃を受けたのならば、爪でインナーが引き裂けている筈であるし、血が出ている筈にも拘わらず、服にも体にも傷が見当たらなかった。
ならば、やる事は1つ。
「始祖竜倒さなきゃ(使命感)」
9つの国を滅ぼし10国目としてハンターのホームタウンを襲ってくる始祖竜。
ハンターの敗北=世界滅亡となる公式の最難関クエスト。
《餓えし竜の絶叫》
勝利しても人類の7割が奴の腹の中に消えると言う、危機感溢れる謳い文句が魅力のラスボスさんである。
◇
アルタス
小型の肉食獣。
二足歩行の痩せたワニの様な見た目で、前足には鋭い爪が2本生えている。
常に3~5体の群れで行動し狩を行う。
生息地域によって、青、赤、黄色、紫、白色のアルタスが確認されている。
生息地域によって特殊行動をとる個体も存在し、特に毒を吐き出す白アルタスは
20%の確立で相手を毒状態にすることが出来る危険な個体。
10以上の群れになると、殆どの場合リーダー格である、ドスアルタスが存在し討伐難易度が跳ね上がる。これは、ドスアルタスの持つ、特殊な命令系統で群れを軍隊の様に操り、その統率力が跳ね上がる為である。
赤アルタスは火に強い
青アルタスはおぼれない
黄アルタスは高く飛ぶ
紫アルタス力持ち
白アルタスには毒がある
他社のパクリは不味いですよ!
がネットでの通例。
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