異世界攻略おじさん~廃ゲーマーが教える完全攻略マニュアル~
煙道 紫
第1話 はじまり
世界の大地の2割に及ぶ人領域。
未だ解明されない未開の土地を目指して狩人達は進む。
富と名声に力。栄光を求めて危険を顧みずに未開域を探索する狩人(ハンター)が人類の希望になった時代。
新人狩人の貴方はこの惑星リフティリアで最強の狩人を目指すのであった。
◇
大人気アクションゲームである【狩人道】。20年の間ナンバリングを繰り返し続けたアクションゲームはこの時終わりを告げる。
PCゲームから家庭用ゲーム機、携帯ゲーム機に渡るまで、多くのコンシューマーゲーム機の時代を跨いできたが、人類の進化は時代の変化に及ばずヴァーチャルリアリティゲームの断頭により激しく動くアクションゲームの類はゲーム酔いを引き起こすとして不人気になっていた。
平面な画面で見る3Dゲームでも酔いが起こるのだから、体感型と言われるヴァーチャルリアリティゲーム機類のそれは、画面が平面であった時代の比では無く、ある種の社会問題にまで取り上げられるようになり、ヴァーチャルと現実の区別が付かずに
起きた事件・事故が多発した事を背景に、一昔にあった『犯人はオタクです』という偏った報道も多くなっていく。
政府はヴァーチャルリアリティ機器に関して新たな法案を立て、暴力性のあるゲームに関してのレーディングが厳しくなり、その波がヴァーチャルリアリティとは関係のない3Dゲームにまで波及したのが原因だった。
時勢であるので仕方ない。とは思っていても多大な時間と金を掛けたゲームの終わりを惜しむ声は少なくなく、それも大本になるゲーム会社の倒産という形なので文句よりもプレイヤーからの同情の声が多くなっていた。
「仕方ない・・・か」
そう、仕方ないのだ。
青春時代から社会人になってもナンバリングを跨いでこのゲームをプレイしてきた。
先月、上位ランカー達の新規法案に対する抗議運動が行われていたが、無意味極まるその行動にパソコンの前でココアを啜っていたのを覚えている。
法律を変えたいのであればそれ相応の立場にならなくては無意味であり、民主主義の皮を被った共産主義者が多いこの国ではマスゴミと言われる糞共の力は強い。
大陸の資金が多分に含まれる偏向報道は国民の大部分に対して大抵は馬鹿にされるのが通例であったが、未だにテレビや新聞の情報に踊らされる人間も多いが現状であった。
詰る所、馬鹿な情報を真に受けて愚直にアクションゲームプレイヤー=犯罪者
と言う図式が脳内にある人間が多かったと言う事だろう。
今回、ゲーム会社を倒産させ、この国の産業を1つ破壊した『国民の声』が多いのは国が悪く、その国に住む国民が悪かった。
つまり、この国の国民である私も悪い。
紅茶を啜り、パソコンに映る3Dキャラクター達を眺める。
クエストを受注する大広間に様々な装備をしたプレイヤー達が手を振り、若しくは踊ってこのゲームの最後となる時間を過ごしていた。
明日の0:00にこの世界は終わる。
この世界最後となる瞬間を全てのプレイヤーが騒がしく、何処か名残惜しそうに迎えようとしていたのだった。
23:59。
ゲーム終了の10秒前になり、大広間のハンター達がオープンチャットで示し合わせた様にカウントダウンを始める。
10、
9、
8、
7、
何処か冷めていたように感じていた私自身も、終わりの瞬間になり、やっと実感が湧いたかのようになって心の熱が灯る。
「3、」
意図していた事では無いが、心の熱に体が押されたのか、私はカウントダウンを口ずさみ画面に見入る。長年にわたり連れ添って来たキャラクターの姿を目に焼き付ける様に。
「2、」
「1、」
ブツリ、と画面が暗転しサーバーメンテナンスのポップアップが画面に表示された。
「終わった。」
狩人道の全プレイヤーとのカウントダウン。
子供の時に家族とした新年のカウントダウンに似たその熱を飲み込むかのように紅茶を啜った。
ぬるい紅茶の熱を飲み込み、私はベッドで眠る。
明日も仕事だ。
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