第59話 愛の詩
リリィ・シグナルは口を押さえ、碧眼を大きく震わす。
メイ・トクガワは真っ直ぐに沈黙を貫き見守る。
エルマは腹部を押さえた。
刀を地面に突き刺し、漏れる血を眺める。
クリスは、落ちた右腕を水色の瞳に映す。
ロングソードの先端が地面に突き刺さり、それでも離すまいと握り締めている右腕はだらん、と垂れていた。
噴き出る血飛沫。
徐々に目は虚ろに変わり、霞んでいく。
リリィは声よりも先に体を動かした。
駆け寄りしゃがみ、服が砂で汚れ、綺麗な金髪にもかかる。
メイは馬車から救急道具を取り出し、二人のもとへ。
遅れてやってきた帝国兵達はクリスを担架に乗せて運んでいく。
「エルマにも衛生兵を出せ、治癒魔法が扱えるやつもだ」
ミイルズも合流し、部下に命令。
「うっせ……決闘の、ジャマ、すんな」
仰向けに倒されたエルマは苦い顔でリリィに呟く。
「もう決闘は終わりです! 今すぐ止血しますから!」
「クリス……お前の復讐なんて、そんなもんかよ」
「エルマさん! 喋らないでください!!」
「エルマの勝ち、あっちは右腕なくした。もう終わり、だから今は傷を治す」
傷に分厚い布を当てて、包帯を巻き付ける。
「どーでもいい」
ボソリ、また呟いた。
「リリィ……歌」
「今はそれどころじゃ、ないですよ」
拒否を聞かず、エルマは掠れた声で途切れ途切れ『愛の詩』を口ずさむ。
駆け付けた衛生兵は、歌うエルマに驚く。
追うように口ずさむ大陸の言語に慣れ始めた歌声。
リリィは横に顔を向けた。
今にも消えてしまいそうなエルマの掠れ声に、目が滲む。
震える細い指先で握り締め、願うように俯いたリリィ。
繊細な硝子を連想させるほど透き通った美しい歌声が全体を包み始める。
「……へぇ」
鼻で笑うエルマは力尽きたのか、歌うのをやめてしまう。
土を一滴、一滴と間隔なく濡らしていく雫。
止まない美しいブレのない歌声。
すると、メイのポケットから突然七色の光が漏れ始めた。
淡く白い光がリリィの輪郭をなぞるように浮かび上がる。
ミイルズは老いた目を大きくさせた。
「まさか、魔法鉱石が……」
メイはポケットから魔法鉱石を取り出す。
リリィの歌声に反応してどんどん眩しくなっていく。
王都を包むほど七色の光が拡がる……――。
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