第57話 空っぽ

「やったぜ……親父」


 刀を握り締め、呟いた。


「見事ね、エルマ。今この瞬間大陸一の剣士よ」


 称えた後、メイは布に包まれたローグを見下ろす。

 寂し気に目を細くさせた。 


「エルマさん」

「リリィ見てたろ、オレ、やったんだ」

「はい……」


 リリィは小さく頷く。

 喉に手を触れ、布を見下ろす。


「なーんもねぇ」

「エルマさん?」

「空っぽ、親父の仇を討てたのにな。正直一騎打ちがどんなのか分かってたけどさ、黙って親父の死を受け入れたくなかったんだ」


 エルマは鞘に刀を収めて腰に吊るす。

 眉を下げ小さく吐く。


「名誉ある死、立派だよな……でもオレは剣術なんかよりもっとなんかこう、あぁなんかうまく言えねぇ、悪い」


 赤髪を軽くかき乱して眉を顰めた。

 そんなエルマの腕に、リリィはそっと手を伸ばす。

 碧眼に姿を映し、


「エルマさんが無事でよかったです」


 優しく囁く。

 瞳が潤み、今にも零れそうな涙を溜めるリリィの背中に手を回し、撫でるようにゆっくり叩く。


「悪いが2人とも、王城に戻る、ミイルズ隊長がお待ちかねよ」


 メイは王城を指す。

 訝し気な表情でエルマは腕を組んだ。


「ローグを埋葬するのが先だろ?」

「ローグの故郷、ここから南下した山沿いの廃村ね、さすがに遠すぎる」

「けど、このまま放置なんかできねぇ」

「うむむ……」

「あの、エルマさんのお父さんも村に埋葬されてるんですか?」

「んーまぁ王都にも一応墓石あるけどさ、死んだら故郷の村に埋めてくれって遺言だったから、葬儀をするのに母親と行ったことがある。あそこ廃村ってレベルじゃねぇよ、痩せはげた土地になってたぜ」


 エルマの言葉に俯く。

 思い出す町の離れた場所にある母の墓石。


「……私の母も、村に埋葬させたいです。三人は幼馴染だったんですよね、だったら一緒の方がいいです。お願いですメイさん!」

「そうだそうだ!」


 二人に詰め寄られ、漆黒の瞳はキョロキョロと左右に動かし難しく唸る。

 遠くから下るように迫る蹄の音が耳に届く。


「どうやらローグ、村に帰るのは後になりそね」



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