第56話 帝国騎士団 ローグ団長
金属が跳ねる音……――。
何度も重なり合う。
赤髪の毛先が空を舞った。
頬に小さな赤が開く。
玉の血が地面に付着する。
バスタードソードの刃が欠けた。
振り払い、刀は漆黒の鎧、胴を裂く。
「随分と手加減されていたみたいだな」
ローグは鼻で笑う。
鼻背の傷を親指でなぞった。
「うるせぇ、オレは元々全力だ、てめぇこそ手抜いてんじゃねぇ」
「ふっ、デヴィンそっくりだな」
構え直す。
「エルマ……復讐はろくなもんじゃない」
「黙ってろ!!」
「エルマ、結末は非情だ。リリィと一緒にここよりも遠くの大陸へ」
「黙れって言ってんだろ!! お前が親父を殺した犯人だって分かってんのに諦めてたまるか!!!!」
咆哮のような叫びに、ローグは眉をひそめた。
「せめて私がお前を斬り、リリィを引き取る」
お互い、全力で斬りかかる。
メイの馬車は大急ぎで王城を下り、真っ二つに大岩が裂いた闘技場へ。
リリィは胸に手を寄せ、祈るように俯く。
「エルマさん……どうかご無事で」
「……うむ」
赤い牝馬は自慢の脚力で駆け抜け、崩れてしまった闘技場の壁側から侵入。
馬車を止め、メイは闘技場を眺める。
「いたね」
金属の弾ける音がしっかりと聴こえ、リリィは馬車から飛び出す。
バスタードソードに亀裂が入る。
刀が震える。
エルマとローグは睨み合う。
荒い呼吸のなか心臓を躍動させて、瞳孔が大きく開いた。
一歩、踏み込んだのはローグ。
潰すように上から圧を与える。
エルマの足が勝手に土を抉り、沈む。
「エルマぁ! 退け!!」
踏ん張るエルマは睨み返し、持ち手に力を込める。
「うんらぁあああああああ!!」
鋼が崩れ抜けた。
刀身は前へ。
メイはそっと瞼を閉ざす……――。
血飛沫がエルマに降りかかった。
膝をついたのはローグ。
半分になってしまったバスタードソードを抱え、胴体から惜しみなく血を流す。
「………………メイ」
「うむ」
「どうか、リリィを頼む」
「……あい」
「私は、帝国騎士団団長、ローグ……エルマ、見事だ」
エルマは刀を構える。
「リリィ、最期に聴かせてくれ」
「…………っ」
喉を押さえたリリィに、メイは目を細め口ずさむ。
大陸に住む者なら大半は知っている『愛の詩』を。
エルマは軽い舌打ちと共に耳を塞ぐ。
震える喉を必死に堪え、リリィは追って口ずさんだ。
彼女が歌えばぼんやりと白い光が体を纏う。
バラードのようにゆったりとしたリズムが崩壊した闘技場に流れていく。
ローグは噛みしめるように微笑んだ……――。
『ローグ……リリィを』
『アイリーン! しっかりしてくれ! 独りにしないでくれ!!』
『はは、だいじょーぶ……きっと、デヴィンの子とリリィも、なかよく、してくれるよ』
『生きろ! 生きてくれ!! 村で子供たちに英雄の話をするんだろ!? アイリーン! アイリーン!!』
――――……。
「……やっと、だ」
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