第55話 魔法鉱石の力
「さぁリリィお嬢さん一緒においで。メイ、馬車に乗せてやれ」
「あい、分かった」
遺体となったソフィアを前に俯くリリィのもとへ。
「リリィ、急げ。壁の向こうにエルマがいる、ローグと決闘してる」
手を差し伸べる。
リリィはゆっくり掴んだ。
「彼女は、ちゃんと埋葬するね。帝国兵が手厚くしてくれる」
「……はい」
よろよろと立ち上がった。
赤い牝馬の馬車に乗り込み、メイは手綱を操る。
目指すは王城。
「クリス、知らないね……帝国にいなかったね」
「新しい、方ですか?」
「多分、うーむ、誰に復讐するのかも分からない。でも剣の扱い上手い、粗削りなところもあるが将来有望よ」
「……復讐、だなんて」
「難しいね、感情というのは」
両膝を抱え、リリィは目を伏せた。
既に王城の門番兵を拘束し、帝国軍の馬車に押し込んでいる。
「ミイルズ様、総督の無事を確認できました。現在こちらへ向かっております」
血のように染まった赤い鎧を身に着けた帝国兵の報告に、ミイルズは頷く。
「ユーズノー陛下は?」
「それが、魔法鉱石ごといないのです。見つかったのは、白狼ノ国が探している雷電だけでした」
「ううむ、かなりの魔法鉱石があったはず。船で逃げたか、それともよその国に亡命か? 少ない兵でどうやって……まぁいつでも探せる。さて、決闘の終わりを待つとするか。生き残った王国民、全員ちゃんと保護して帝国に連れていけ」
「はっ!」
ミイルズの指示に従い、帝国兵が動き出す。
「ほら雷電だ」
回収された雷電と呼ばれる大脇差をメイのもとへ。
「おぉ! やっと返ってきたね。これで全部確保。ありがとねミイルズ隊長」
「礼はいい。ちゃーんと帝国の功績を伝えてくれい」
「うむ、約束しよう」
メイは荷台に雷電を丁寧に置きリリィの横に座る。
「やっぱりここの王はダメだな」
「王様、逃げてしまったのでしょうか……」
「そうに決まってる。魔法鉱石まで持って行くとは、恐ろしいね」
「あの、その魔法鉱石って道具以外に何か使えるんですか?」
「その名の通り、魔法よ。魔法は一部の人間にしか使えない、だがあの鉱石を使えば……簡単に魔法が扱える。しかも強力な魔法を、下手をすれば国のひとつやふたつを破壊できるほどにね」
リリィは思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「お、恐ろしい鉱石ですね」
「うむうむ、といってもどうやって魔法を発動させるかは未だ不明。今のところ道具以外の使い道はない」
「そうなんですか……あれ、でも、魔法が使えるってことは分かっているんですよね? 誰か、以前に使えた人がいるってことですか?」
メイは力強く頷く。
「大英雄アイリーン」
「え、母が、ですか」
「ありゃ最強の魔法だったぞ」
突然荷台に入り込んできたミイルズの声に驚き、リリィは思わず後ろへ。
「おぉっとすまんすまん。まだ決闘が終わらんみたいでな、どうする? 壁の向こうへ見に行くかい? それとも、ここでクリスの相手を待つか」
「……その発言、なんか変ネ」
「行かせてください。エルマさんのところへ!」
前のめりになってミイルズに頼むリリィ。
「おうとも、さぁメイ連れて行ってやれ。ワシらはここで待つ」
「……あい、分かった」
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