第52話 再び王都へ

 異様な空気が復興中の町に漂う。

 帝国兵がずらり、と横一列に並ぶ。

 赤髪のエルマは鉄の剣を手に、カロル達と一緒に帝国兵を睨んだ。

 血のように真っ赤な軽装鎧を身に着けた帝国兵は、ロングソードを腰に差したまま。


「待て。我々はローグ騎士団長及び総督を救出する為に帝国からやってきた。王国の人間と争うつもりなど微塵もないことを分かってほしい」


 カロルは先頭に立ち、


「じゃあ何の用だい? さっさと王都に行けばいいじゃないか。この町は関係ないだろ?」


 帝国兵に訊ねる。


「もちろん、我々はデヴィンの娘に用事がある」


 エルマは訝し気に帝国兵を睨む。


「んだよ」

「ローグ騎士団長に無謀な決闘を挑み、さらに見事鼻に傷をつけた。その腕を見込んで一緒に王都へ来てほしいのだ。そちらの、大英雄アイリーンの娘もご同行願う」


 後ろに隠れていた金髪碧眼のリリィは驚く。


「当たり前のこと言ってんじゃねぇよ」


 腕を組んで帝国兵へ堂々と詰め寄る。


「……なら話は早い。二人とも、馬車に」

「やだね、メイに乗せてもらう」

「メイ? あぁ、白狼ノ国の……構わない。元々彼女は帝国の協力者だ。よろしいか? メイ殿」


 さらに後方にいた長い黒髪のメイは、慣れない大陸の言語で、


「うむ、よろしくて」


 返事をした。

 赤い牝馬の首を軽く撫でるように叩いてから御者の席に腰掛け、手綱を握る。


「カロルはどうする?」

「すまないね、この不安定な状況で復興中の町を抜けるわけにはいかない。エルマ、リリィ、アンタ達がいつ帰ってきてもいいように美味しい物たくさん用意して待ってるから必ず帰ってくるんだよ。エルマはともかく、もうここはリリィの故郷みたいなもんさ、歌、楽しみに待ってるよ」

「カロルさん…………はい」


 先に荷台へ乗り込んだエルマは、布を捲ったままリリィを待つ。


「怖がるんじゃないよ、リリィ。歌は呪いじゃない、人を救う特別な歌だ。リリィの歌声をよーく知ってる私が言うんだから胸を張りな」


 励まされたリリィは強く頷く。

 差し伸べる手を掴み、馬車に乗り込んだ。


「じゃあメイ、道中しっかり二人のことを頼んだよ」

「うむうむ、まかせろ」


 親指を上に立ててカロルに向け、帝国兵の出発を合図に手綱を操る。

 赤い牝馬はゆっくりと逞しい脚を動かして、街道を駆け出す。

 荷台に座り込んだエルマとリリィ。

 俯くリリィは肩にくっつくように寄っていく。


「あ、どうした?」


 深く呼吸を繰り返す。

 それからリリィは隣を見上げる。


「エルマさん……見守っています。だから、どうか、生きてください」


 エルマは鼻で笑う。


「勝つ、それしかねぇよ」


 サラサラとした金髪を掴むように撫でた。

 乱れながらも微笑み返すリリィは、碧眼を微かに潤ませた……。


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