第42話 くたばれ王族共
剛腕に投げ飛ばされた赤髪のエルマは、正方形に囲まれた試合場の砂を引き摺りながら柵にぶつかる。
「いってぇな! クソがぁ!!」
乱暴な口調で上体を起こしたエルマは、余裕の表情で両手を広げているローグを睨んだ。
ローグは不純物の少ない鋼の刀を拾い、懐かし気に眺めた後、
「デヴィンが王国兵士となった祝いに鍛造された精巧な刀を、雑には使いたくないが」
矢のような速度で投げつけた。
切っ先が迷いなく真っ直ぐに飛び、試合場の外側で見守っているソフィアと、祈る金髪碧眼のリリィは目を丸くさせてしまう。
刀は観客席に座っている上位王族の胸部に突き刺さる。
「ぐ、ぐ……あ……ぁあ!」
もがくように、突き刺さった刀身を掴むが、引き抜くことができず苦しむ。
驚き騒ぐ数人の上級王族はその場から離れ、警護の王国兵はあ然としてしまい、少し遅れて駆け付ける。
「マジで雑に扱いやがって、あとで覚えてろ!」
エルマは砂を握りしめると、起き上がってソフィアに向かってまき散らす。
反射的に瞼を閉ざしたソフィアは腕で顔を覆い、その隙にエルマは丸太の柵を飛び越えて、戸惑うリリィに手を伸ばした。
リリィの腰を中心に上半身と下半身を両腕で横に抱えて持ち上げる。
「え、あ、エルマさん?!」
「エルマ、待ちなさい! 今すぐエルマを追いなさい!」
命令された頑丈な鎧を身に着けている王国兵士は、急いでエルマ達を追いかけるが、身軽に走る背中に追いつくことができない。
セミロングの赤髪を揺らすエルマは、闘技場の小さな門をくぐり抜け、王都の街並みを駆け抜ける。
「エルマ、リリィ、こっちだよ!」
屈強な腕を振り上げて手招く女性の声。背が高く、茶髪を後ろに束ねている筋肉質の体をもつ。
ボロボロの馬車を牽くのは赤い牡馬、荷台を包む布に貼り付けられている『くたばれ王族共!!』という乱暴に書き殴った文字が目立つ。御者の席に女性が座っている。
「カロル? しかもその馬車、アイツの」
「とにかく来な!」
「お、おう。とりあえず乗るぞ、リリィ」
「はい……でもあの、エルマさん、わ、私、自分で歩けますので、そろそろ……」
少し恥ずかし気に呟いたリリィに、エルマは目を点にさせ、数秒遅れてそっとリリィを下ろした……――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。