最終部 復讐の最果て
第36話 死守
「王都で何が起きてんだよ!」
赤いセミロングが激しく揺れ、瞼を大きく開けてメイに詰め寄っていくエルマ。
長い黒髪を真っ直ぐに伸ばしたメイは、どうどう、と掌を見せる。
「そね……帝国のーそうとく、が王族共を殺したとか? それでローグが誘拐よ。王都は騒いで、王都に住んでる人は避難とか」
「はぁ⁉ クソっ、帝国の馬車は?」
メイは村に来ていた帝国の馬車を指す。
土にめりこんだ車輪の跡が真っ直ぐに続き、馬の蹄が遠くで聞こえる。
「こんなクソ野郎のせいで!」
鼻血を出して気絶している村人を乱暴にブーツで蹴り、エルマは不機嫌な表情でリリィの手を握った。
「とにかく行くぞ!」
「は、はい」
「私もいくネ」
急いで村から出ようとしたエルマ達だが、行先を阻む三人ほどの村人が農機具を持っていた。
鍬やら鋤やら鎌を持っている。
「んだよ、どけって!」
ジリジリ、と手を震わしながら今にも飛びかかってくる勢い。
「なによ、リリィが狙わてるか?」
リリィは俯いて、寂し気に答えた。
「はい、そう……みたいです」
「なるほどね。エルマ、村人殺すか?」
「あっちはソフィアに命令されてる。どうせ死ぬんだったらオレが楽にしてやるよ」
鞘から刀を抜こうと柄に手を添えたエルマに、リリィは息を呑み、否定を込めて首を振る。
「なら簡単なことね、リリィ」
「…………え」
リリィは喉が震えていて、表情もどこか引き攣っている。
メイは小声で、歌うことを伝えるが、リリィは喉に手を押さえて、
「す、すみません……私……」
青ざめてしまう。
「どしたね?」
「こわくて……こわくて、うたえ、ません」
か細く悲鳴ような呟きに、メイは驚いた。
「何ブツブツ言ってんだよ! アンタも加勢しろ!」
刀を抜き、銀に輝く刀身が露わになる。
「エルマ、安全なところまで逃せばよくないか?」
「どこの村や町が保護してくれんだよ。どうせ餓死するか野盗に襲われて終わりだ」
「なら、復興中の町はどだよ。確か、カロルと自警団いたね」
「あんな山まで連れていく時間もねぇ! 王都にはオレの家族がいる、リリィの親父、仇のローグも!!」
エルマの怒りにまかせた大声に、メイは肩をすくめた。
「まぁそうなると私よ。私、一緒にいくネ」
そう言うとメイは村人達の前に向かい、片言で説明していく。
しかし、
「何、言ってるか、分からねぇ」
村人達はメイの言語に首を捻ってしまう。
「ソフィアに命令されてんのは分かってんだ。オレらが今から王都に行って直接ぶん殴る。それまで安全なところに避難させるって言ってんだ」
腕を組み、苛々を募らせながらエルマは簡潔に伝える。
村人は顔をお互い合わせて、恐々と農具を下ろす。
「そ、ソフィア様は容赦のないお方……本当に、大丈夫か?」
「酷い殺されかたをされるなんて嫌だ、でも、死にたくない」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ」
安心させるように言うが、村人は不安そうにメイを見る。
「だって、なぁ……どこの国の人間だ?」
「おー島国よ、白狼よ、白狼ノ国」
聞いたことがない言語でさらに続けて色々話し始めるメイに、エルマとリリィも首を傾げてしまう。
「さっさと行けよ、オレとリリィは王都に行くからな」
「うむ、ローグ頼むよ」
「あぁ、オレがぶった斬ってやる」
ニコニコと手を振るメイに、リリィは俯いている。
「リリィ」
「あ……」
「リリィの歌は特別よ、どんな時も歌がいいね。勇気と自信持つよ、人を優しくさせる、素敵な歌声」
「私の歌が、特別……」
復唱したリリィに大きく頷いたメイは、僅かな村人達と配られたばかりの食料を抱えて村から立ち去っていく。
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