第33話 海辺

「アイリーンが悪魔ねぇ……ふーん、じゃあなんでソフィアはあいつに憧れたりしたんだろうな」

 形見の刀を肩にかけ、セミロングの赤髪を潮風に揺らして、エルマは港の階段に腰掛ける。

 少し遅れて隣に腰掛けた金髪碧眼のリリィは細いリボンで髪を後ろに結んだ髪型。

「分かりません、ですが、父もソフィア様も私のことを殺そうとしたのは、きっと母を恨んでのことかもしれません」

「武器職人だっけか?」

「はい、戦争が終わって、仕事がなくなり母の故郷近くの町へ引っ越しました」

「確か、バーナード。あのアイリーンと結婚できた凄い男って噂はなんとなく聞いたような……よし、まずはお前の父親を探そうぜ」

 立ち上がったエルマはリリィに手を差し伸べる。

 リリィは俯き、数秒ほど黙り込んだ後、エルマの手を握って立ち上がる。

「王都に、行くんですね?」

 眉を下げるリリィにエルマは頷く。

「あぁ、ちょっと頭冷やしたらハッキリできた。相手が誰だろうと容赦しねぇのがオレだ」

 物騒だと思いながらも、リリィは勇敢に笑みを浮かべるエルマに微笑んだ。

「でも私、歌うこと以外何もできません。それでも……一緒に行っていいんでしょうか?」

「はぁ? 当たり前だろ、なんかお前一人でいるとすぐ死にそうだし、それに、ローグとの決闘を見届ける奴も必要だろ」

「う、否定できません。でも、はい、ありがとうございます」

「そうと決まれば王都に行くぞ、ほら急げ」

 手が離れていかないよう引っ張り、エルマとリリィは海に背を向け、港を発った。

 

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