第32話 終戦の日
戦争が終わった日……――。
この大陸に住んでいれば知らぬ者はいない『愛の詩』が王国と帝国の間で流れていた。
美しい金髪を後ろに結い、碧眼の瞳を細め、精一杯に口を大きく開けて、声帯を震わせた。
背中から貫かれた帝国の矢をまともに受けた身体で、彼女は歌った。
淡い白がぼんやりと光り、彼女の身体に纏う。
決闘を見守っていた兵達は、次々とバラード調のゆったりとしたリズムで愛を歌う。そして、ゆっくりと武器を手から滑り落とす……――。
「陛下! 停戦など何をお考えで!! あの決闘で一体何があったのですか?!」
王族は書状にインクを走らせる国王を睨んだ。
だが、国王は鼻歌で『愛の詩』を奏でるだけ。
「どういうことだ?! 友好条約を結べだと……貴様らそんなふざけたことをよくも言えたな」
アルフレッド陛下は謁見の間に集まる人々を睨むように見下ろした。
だが、兵士達の眼差しは慈愛に満ち、天井にまで到達するほどの大きな扉が開かれたのと同時に二手に分けて、道を作る。
漆黒の鎧に身を纏い、兜だけは脱ぎ捨てた、精悍な顔つきをしたローグが静かに金属が擦れる足音を響かせた。
「……ろ、ローグ……」
兵士達はローグの後ろにつき、一斉に、
『『アルフレッド陛下! どうか、大陸に平和を!!』』
異様な圧ともいえる重なる声。
アルフレッド陛下の意見に賛同する人々はいなかった……――。
友好条約の書状を前に髪を掻き乱すアルフレッド陛下。
友好条約が容易く進まれていく様を憎むように見守ることしかできない王族。
「なにが大英雄アイリーンだ! 戦争を終わらせよって!! 資金が、経済が、みんなが路頭に迷うではないか!! 戦争があって金が生まれるのだ!!!! それをたかが古臭い歌で終わらせるとは…………悪魔の所業。あんな田舎者、国葬なんかしてやるものか」
王族はみんな口を揃えて、アイリーンを悪魔と呼んだ。
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